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39 第二回イベントリザルト

「いらっしゃいませ、何名様でしょうか」

「予約していた推川です」

「お待ちしておりました、奥の部屋へご案内いたします」


 合同攻略イベントの翌日。

 推川の大型車に乗ってワシら四人と兎田、それから推川の新人助手の三葛(みかずら)は打ち上げ会場を訪れた。


 換気扇の音と肉を焼く匂いが漂う店内を抜けると個室が見えて来る。

 注文の仕方とかドリンクサービスとかの説明を一通り行い、店員さんが襖を閉めた。


 この予約席は壁で仕切られとって、ダンジョンの話も人目を気にせず行える。

 パン、と一つ手を打った推川が声を上げた。


「まずは皆、お疲れ様。イレギュラーの多かったイベントだけど誰一人欠けず終えられたことを嬉しく思うよ。今日はぼくの奢りだ、遠慮せずじゃんじゃん頼んでくれたまえ」

「ええんか……? 余計なお節介かもしれへんけどあの事務所、そない儲かっとる様子やないのに……」


 ほんまに失礼やけど、割り勘するつもりで(ぜに)は持って来とる。

 なにせワシは推川が本業(探偵業)をしとるところを見たことが無いんや。


「それは休業中だからだよ。所長(父さん)は出張中だしぼくもまだ大学生だからね」

「え、そうやったんか」


 ほんなら推川は自称名探偵どころか探偵ですらないってことになるんやないか?

 本業は探偵やなく大学生やんけ。


「失敬な、ぼくだって探偵の仕事は何度もしてるんだよ。それとお金もダンジョンコインで稼いでるから気にしなくていいさ」

「……大丈夫なんか? どこから来とるかも分からへんけど」


 魔石から変換できるダンジョンコインはマジックアイテムの購入や武器の強化・改造の他、現実の口座への振り込みも出来る。

 ワシは口座を持ってへんし詳しく調べた訳やない。それでもきな臭さは感じる。


 と、そこへ異議を唱える者が現れた。


「にゃにゃ!? ダンジョンコインは不正なんてないクリーンなお金にゃん!」

「運営側に言われても信じられへんなぁ」

「そもそも送金元はペーパーカンパニーですしね」


 注文用タブレットを先天スキルで操作しながら三葛が会話に加わった。


「やったら資金源が後ろ暗い組織って可能性もあるんやな」

「違うって言ってるにゃん! 確定申告もちゃんとやるくらい潔白にゃん!」

「ぼくとしては勝手に納税手続きをされてるのも怖いんだけど……。とはいえ、ダンジョンクエストの機能や禁則事項からは設計者の一定の善意を感じる。一先(ひとま)ずは信用していいんじゃないか、というのがぼくの推理さ。まあ今後とも捜査は継続するんだけど」

「そや、捜査と言やぁダンジョンクエスト運営の調査結果も聞かなな」


 ニャビの前やけどもう関係ない。なんか昨日ハッキング掛けた時にバレてもうたらしいからな。

 それでペナルティ無しなんは不気味やけど、言われてみれば禁則事項に『運営への攻撃・ハッキング』は無かった。


 腑には落ちんけども。


「そうですね、じゃあまずは僕の調査結果から──」

「お待たせしましたー」


 と、そこで肉のセットが届いた。今、注文した商品(もん)やなくて予約しとった奴やな。

 それからは大量に届いた肉(+おまけの野菜)を焼くのにてんやわんやした。

 ここで活躍したんが遠峰(とおみね)で、手際よく肉を並べて行くし、肉同士が重なって上手く焼けんてこともなかった。


「何か意外やな、遠峰はお嬢様っぽいしこーゆうんはからっきしやて思うてたわ」

「お嬢様? 私が? ふふ、全く見当外れね……と、そっちの肉は食べ頃よ」


 目敏く焼け具合を見抜きそう言った。ピアノも上手いし、手先が器用やと肉焼くんも上手くなるんやろか。

 そうして少し落ち着いてきたところで推川が切り出す。


「それじゃあ皆が戦った敵の情報とドロップアイテムの情報を共有しよう。ぼくは悪魔……八魔将って名乗っていたっけ? 彼らとは出会えなかったんだよね。転移の後はひたすら他のプレイヤーを探していたよ」

「私も(他のプレイヤーを探していたの)よ。私は第一フロアに飛ばされたのだけど(八魔将を倒した後は)皆が襲われていないか心配でフロア中を探し回っていたわ」


 推川と遠峰がそれぞれ言うた。


「ワシはあのラッキョウ? のレフォーンとかいう奴と一緒に飛ばされたで。ドロップアイテムはスキルページとデカイ魔石と、それから魔法の葉っぱや」

「魔法の葉っぱですって? まさかダンジョンに麻薬が存在しているだなんて……」

「ちゃうわ! 普通のマジックアイテムや!」


 スマホを操作してアイテム達を机上に広げる。


「スキルページにはサボテンっぽい植物の針を飛ばす魔術が入っとる。魔法の葉は回復アイテムやな。骨折くらいなら完治させられるんやと」

「へぇ! それはレアね」


 遠峰が大きく反応した。

 この界隈、回復アイテムは貴重や。もっと言うと他者回復の手段がほとんどない。


 <自動治癒>も<自己再生>も自分を回復させるん専用。

 他人を回復させられるスキルは存在しとるんかも分からへん。


「これはワシが持っとくからどうしても使わなアカンくなったら連絡くれや」

「一個だけだとなかなか頼り辛いけどな。エリクサー症候群的な」


 兎田がおどけるように肩を竦める。


「せやなぁ……ほんまはスキルで他人を回復させられたらそれが一番なんやけど」

「それだよ。もしも知り合いが怪我したら治してやれるし」

「ピピーッにゃん! そんなことしちゃいけないにゃん、一般人にスキルを使うのは回復目的でもペナルティにゃん!」

「回復も駄目なのか。ニャビは厳しいな」


 この中で恐らく唯一のペナルティ経験者である龍治が溢した。

 まあスキルのことを隠す理由は察せるし、龍治も不満十割ってわけやなさそうやけどな。


「ふむ……後天スキルがほぼ戦闘用である時点で設計に何者かの意志が介在しているのは確定……他者回復がないのは世間にバレるのを防ぐため? ……だとすればこの魔法葉の存在は矛盾する……つまりマジックアイテムはスキル作成者の思惑の外に──」

「どうかしましたか、推川さん?」


 ブツブツ呟いとった推川の肩へ、三葛の手が置かれた。

 思考に没頭しとった推川はハッと顔を上げる。


「おっとすまない、こちらのことだ。それで、明谷君達の報告は以上かい?」

「あ、そうや。ワシらはダンジョンボスも倒したんやけど、龍治がトドメ刺した時に変なもん獲得したんや」

「ニャビが言うには『魔術師』の『アルカナ』らしいっす」

「『アルカナ』?」

「ステータス上の変化はないんですけど、ダンクエのプロフィール欄にこんなのが追加されてます」


 龍治がスマホを机の中心に差し出す。

 名前欄の下には確かに『アルカナ:魔術師』っちゅう表記があった。


「本当に変わりはないんだね? 例えばショップで買えるアイテムが増えてたり挑めるダンジョンのランクが上がってたりもなかったかい」

「一通り確認しましたが特には」

「その通りにゃん。『アルカナ』はあくまで称号にゃん。今のところは何の効果も特権もないにゃん」

「……今のところは、ということはこれから何か追加されるのかい?」

「それはまだ言えないにゃん。機密事項にゃん」

「そうかい、そういうことならこの件は保留としよう。もしも新しく『アルカナ』を得ることがあれば教えてくれ」


 全然ナビゲートせぇへんニャビゲーターは置いといてダンジョンボスについての報告を済ませた。

 次に推川は、山盛りの野菜を食っとった兎田に話を振る。


「俺は作戦通り第一フロアのゲートを守ってたんですけど、ハンパなく強い【魔力】を持った……多分ランク四の悪魔に襲われた。さすがに逃げに徹するつもりだったんだが助っ人が来てくれてな、おかげで何とか勝てた」

「助っ人?」

「ああ、二メートルくらいありそうな大男であっという間に悪魔の首を折ってた。悪魔はその後も動き回ってたんだが、それは魔術の力だったのか、損傷を与えるたびに【魔力】が減っていって最後は動かなくなった」

「……ひょっとしてその大男って人、ドロップアイテムを取らずに去ったんじゃないかしら?」

「よく分かったな。『オレは他の獲物を探すからそいつは好きにしろ』って第二フロアにさっさと降りてったよ」

「「あぁ……」」


 龍治と遠峰が合点がいったと言うような顔をした。


「知っとる奴なんか」

「知ってるというか……一回目のイベントで共闘したんだ。その時も『ダンジョンが消える前に他のモンスターと遊んで来る』っつって名前とか連絡先聞く前にどっか行ったんだ」

「凄まじい戦闘力だったわ。トンネルくらいはあるボスをたった一人で足止めしていたもの」

「エライ豪気な(アン)ちゃんも居るもんやなぁ」


 ちなみにランク四悪魔からドロップしたんは魔石とスキルページ二枚、それから山羊の頭蓋骨みたいな気味の悪いマジックアイテムやった。

 その後一通りダンジョン内でのそれぞれの動向を報告し終わったところで推川が呟く。


「ふうむ、悪魔と詳しく話し合えた人は居ないか。異世界のことを知っている風だったし何かダンジョンの解明に繋がるヒントが得られればって思ったんだけど」


 でも、と推川は顔を上げる。


「収穫もあったね。ダンジョンは有史以前の古代文明か、異なる次元の異世界か、とにかく人間の居た『セカイ』が元になっていること。そしてその世界の人間は魔導書とやらを使っていたらしいことは今後何かの糸口になるかもしれない」


 悪魔はやたら攻撃的やし、ワシらも殺す気で応戦しとったから引き出せた情報はそない多くないけど、全員の交わした会話を集めればこの程度の推測は立つ。

 ……まあ前半の情報は、プレイヤーキラーが口にしとったものやけど。


 あれから誰も触れんけど、アイツが殺されたんは凄い衝撃やった。

 最悪の場合は殺してでも止める必要があるんは、皆薄々分かっとったやろう。

 やけどあんな唐突に、呆気なく人が死ぬとは。


 人を殺そうとする奴やからって、簡単に殺されてええ理由にはならん。

 もっと強くならなアカン──口にはせずとも誰もがそう感じてることがワシらには分かった。


「お待たせいたしました」


 ちょうどその時、シメのデザートを到着した。

 この店はデザートにも拘っとるらしく、アイスにプリンに杏仁豆腐とさっぱり系の甘味が充実しとる。


「ライチ味てなんか胡乱や思うてたけどこのアイス結構美味いやん。三葛さんもどうや、なんか頼まへんか?」

「ありがたいけどお断りさせてもらうよ、僕は諸事情あって甘い物は食べないようにしているんだ」

「ほー、そうなんや」


 ダイエットとかやろうか?

 ワシは気にしたことないけど大学生やと体型とかにも気ィ遣うんかもしれん……て、


「そういや三葛さんの報告聞いとらんやないかっ」

「だよね。そろそろ僕の番かなって待機してたのに皆デザートに集中し」出したから僕がおかしいんじゃないかと思いかけてたよ」


 コホンと一つ咳ばらいを挟んだかと思えば、注文用タブレットの画面が切り替わる。


「セキュリティが堅くてすぐ追い出されちゃったけどいくつかデータは抜き出せたよ。その中でも一番重要そうなのがこれ……次のイベントの企画書さ」


 タブレットには『第三回日本エリアイベント企画概要書:PvPプロジェクト』っちゅう太字のタイトルが映される。

 どうやらワシらが挑む次のイベントも随分きな臭いようやった。



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