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31 第二回合同攻略イベント

「それじゃあプレイヤー諸君、イベント概要をおさらいするにゃんッ。今回攻略するダンジョンは全三フロア、ダンジョンボスのランクも三にゃん。それから特別ルールとして、イベント中はモンスターを倒すごとにボーナスのコインがゲットできるにゃん。そしてダンジョンボスにトドメを刺した人にはにゃにゃにゃんと、豪華賞品が贈られるにゃん!」


 机上のスマホから投影されたニャビが朗々と話す。

 場所は推川の事務所。イベント直前の作戦会議で集まって、そのまんまニャビの話を聞いとる。


「それから、最近噂になってるプレイヤーを襲う人間だけど、こいつがイベントダンジョンに居る可能性がるみたいにゃん。普通のプレイヤーとは服装が違うから見かけたら要注意にゃん。それじゃあ皆、イベント頑張ってにゃ~ん!」

「チっ、ふざけやがって……」


 隣で龍治が舌打ちした。

 ワシも同じ気持ちや。

 何がイベント概要や。そんなことよりもっとプレイヤーキラーの能力や容姿を周知せんかい。


「それはニャビも心苦しく思っているにゃん。でも未確定な情報で他のプレイヤーを混乱させてはいけないにゃん」

「それは……一理あるわね」


 遠峰が頷く。

 ワシらに見せた能力がプレイヤーキラーの全力とは限らんし、衣装やってワシらに配られとる防具と同じ(もん)は用意できんくても、あの襤褸切れから着替えるだけなら簡単や。


 仮面を付けてないからプレイヤーキラーやない、て油断することがないようにっちゅう配慮やと主張されたらワシからは何も言えへん。

 正味(しょうみ)もう少しやりようはあったんちゃうかとは思うけどな。


「結局のところ俺達がすべきは最速でのボス討伐か」

「せやな、そのために準備も仰山(ぎょうさん)して来たんやから。まっ、ワシだけランクアップ間に合わへんかったけど」


 推川と遠峰はこの一週間でランク三になっとる。

 プレイヤーキラーがランク三になっとったとしても互角以上に戦える。


「おいおい明谷(あけたに)君だった充分に強くなったじゃないか。少なくともぼくは君に確実に勝つ自信は無いよ」

「それはワシの手柄やないしなぁ。兎田(とだ)には感謝してもしきれへんわ」


 魔術スキルの取得権が得られる紙片、スキルページ。それを売ってくれたんが推川の仲間の兎田やった。

 今日は事務所に来てへんけどな。

 彼は結構遠い県に住んどるそうや。


「僕もここから皆さんの健闘を祈っていますよ」


 デスクの前の三葛(みかずら)がそう言った。

 彼はまだランク二や。それはまあワシも一緒やけど、三葛の場合は先天スキルも戦闘に不向きらしい。

 プレイヤーキラーに襲われて苦手意識もあるみたいやし、イベント不参加は当然やな。


「あぁ、今度こそプレイヤーキラーを捕縛してくるさ。代わりに『例の件』は頼んだよ」

「任せてください、絶対に成果を上げてみせます」


 彼が見とるディスプレイに映っとるんは、ゲーム版ダンジョンクエストの公式サイト。

 全ての公用語に対応しとる驚異的なページや。


 三葛の【デジタルディバイン】はコンピュータに干渉出来る先天スキル。

 最新セキュリティに守られた機密情報さえ痕跡も残さず盗める言うてた。


 今回狙うんはダンジョンクエストの運営。やから三葛はスマホを持って来とらんし、推川も『例の件』てボカしたんや。

 ニャビに知られたら絶対に報告されるからな。

 ゲームマスターの注意がイベントに向けられとる隙を突いて得られる限りの情報を盗むんや。


「ほな、開始やな」


 時計の針がイベント開始時刻を指すと同時、浮遊感に包まれる。

 気付いた時には外におった。

 見慣れた灰色の空の下には、市街地が広がっとる。


「皆おるな」


 ダンジョンクエストでパーティーを組んどけば、ダンジョン突入時に同じ座標に転移することが出来る。

 誰も(はぐ)れとらんことと敵がおらへんことをささっと確認し、龍治が多段ジャンプで空に飛び上がった。


 【ワイルドハント】は風の銃弾を撃つんが基本能力やけど、弾丸の性質を変化させれば<空歩>の真似も出来るんや。


「この街、かなり広いですね、フロア全体に広がってます。ボスっぽいモンスターは見えません」

「私が聞き取れる範囲内にもそれらしい物音はしないわ」


 簡潔な報告を聞いて方針を話し合う。

 取りあえず街の中心部を目指すことになった。

 碁盤目状の道の中心を、左右の物陰に注意しながら進んでいく。


「にしても酷い有様やなぁ。いや、ダンジョンの街はどこもこんくらい荒れとったけども」


 赤い塗装がされた木造建築、の残骸が通りの両脇を挟んどった。

 原型を留めとったら重畳、ほとんどが半壊か全壊の憂き目に遭っとる。


「戦闘の影響、だろうね。建物があるということは住人が居たということだけど、それが今は居ないのは……まあ、そういうことなのだろうし」


 推川が言葉を濁す。

 あんま考えたくあらへんけど、亡骸も見つからんちゅうことはここを作った人らは骨まで食べられたんやろか。


「気休めみたいになるけれど、ここを作ったのが人間とは限らないわよね。人型のモンスターは居るんだし、建築技術を持った奴が居てもおかしくないわ」

「そういう仮説も成り立つね。ぼくの知る限りではこのダンジョンの建築様式と完璧に合致する地球文明は無いし、他のダンジョンでもそうだった。いずれにせよ興味は尽きないよ」


 推川が口端を上げる。

 推川は「自分がダンジョンに関わる動機は世界の謎の解明だ」て前に言うとった。

 プレイヤーキラー対策に意欲的なのもアイツから情報を引き出したい、って面もあるんかもしれんな。


 その後は、通常モンスターに襲われながら街を進んだ。

 中心部に近づいたところで他より強めの戦闘音を遠峰が捉え、そしてそいつは期待通りにフロアボスやった。


「「グガアアアァァァァッ!」」


 その姿は双頭の熊。立ち上がれば周囲の平屋に並びそうな巨体。

 右半身は白、左半身は黒の体毛に覆われ、咆哮するたび目に見えへん衝撃波が斬撃となって地面や家屋を破壊しとる。


 そしてその衝撃波を、まるで予知しとるみたいに悠々躱して一人の男が刃を突き出す。


「<魔刃>」

「グ、ゴォォ……っ」


 穿たれたのは右の首。

 凄まじく鋭利な【魔力】の刃が眼窩を貫き命脈を絶つ。


「ヴェァァァッッ!」


 やけど両方の首を落とさんとこのモンスターは死なんらしい。

 攻撃直後の男に間髪入れず爪が振るわれる。

 それをまたも読んでいたかのように飛び越え、そして脳天へ一閃。左の頭も両断され、フロアボスは完全に沈黙した。


 ランク二のダンジョンボスを軽々仕留めたその男が振り返る。


「ども、ボスは倒しときました」

「なんや兎田! そないに強かったんか!」


 ワシらと同年代の少年、兎田颯斗。

 ランク三やし強いとは思っとったけど実際見てみると想像以上やわ。


「あ、そや。あのスキルページおおきにな、ごっつ便利やわ。今度ワシのたこ焼き持ってったるさかい楽しみにしとってや」

「いや気にしないでくれ、対価はもらってんだし」


 そんな会話をしていると、ダンジョンボスの死体が消えて第二フロアに続くゲートが生まれよった。


「それじゃあ、俺はここに残ってプレイヤーキラーが来ないか見張っておきます。でももしも相手にゲートを介さず第二フロアに行く手段があったなら……」

「ぼく達の出番だね。任せておきたまえよ、誰より早くボスを倒してプレイヤーキラーを引き付ける」


 プレイヤーキラー捕獲のための最大の課題は、この広いダンジョンでどうやってそいつを見つけるかや。

 遠峰の索敵能力があったとしても、確実に発見するのは難しい。


 やから逆に(やっこ)さんから会いに来るよう仕向ける。

 アイツが大量のプレイヤーが集まるこのイベントを狙っとる以上、早々にダンジョンボスを討伐されるんは困るんやないやろか。


 ほんなら、ダンジョンボスを倒そうとする者を優先して狙うはず。

 一度敗走させられたワシらにもっかい挑む気概があるかは賭けやけど、逃げるようやったら追いかけたらええ。


 このイベントでは誰も殺させたりさせへん。

 ワシらが絶対に捕まえたる。



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