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30 画策

 初めに打ち明けておこう。プレイヤーキラーは自作自演だ。


 僕こと三葛(みかずら)一始(かずし)とは声や体格の異なるアバターを創り操作していた。

 物体を円運動させる能力は〔原始式〕でそれっぽくしていただけ。ニャビと口裏を合わせればその他諸々の偽装だって容易かった。


三葛(みかずら)君は何だってそんなことをしているんだ?」

「よくぞ聞いてくれたね加賀美さん」


 大学カフェテリアの隅の席でサンドイッチを摘む。

 休学中でも大学生っぽい身なりなら守衛さんに止められることはない。


「プレイヤーキラーを出した理由はいくつかあるけど、危機感を与えるためってのが一番の理由かな」

「危機感?」

「うん。モチベーションって言い換えてもいい。強くなろうって意志をより明確に持ってもらうためにプレイヤーキラーを作った」


 ダンジョンに巣食う謎の殺人鬼。そんなのが居るってなれば否が応でも強くなろうと思うはず。

 そう思わせるのが狙いだった。


 まあ普通はそんな危ないところには行かないようにしよう、って考えるだろうけどそこは選りすぐりのプレイヤー達。

 そもそもそんな考え頭に過らなかったり、プレイヤーキラーを捕まえようとしたり、あるいは現実世界で襲われても勝てるようになるためだったり、理由は様々だけどダンジョンを遠ざけようとはしていない。


「接触相手に探偵の推川(すいかわ)さんを選んだのは好都合だったからだね。彼女、ダンジョンの攻略より調査に傾倒してたからランク上げにも興味を持たせたかったし、プレイヤー探しにも積極的だから見つけてもらうの然程苦労はしなかった」

「見つけてもらう……? 三葛君から会いに行ったんじゃないのかい?」

「それだとどうやって場所を特定したんだってことになるからね」

「じゃあどうやってコンタクトを取ったんだ?」

「SNSさ ゲーム版ダンジョンクエストの話題に紛れてリアルダンジョンの匂わせ投稿を繰り返してたらしっかり見つけてくれて、そこからはトントン拍子だったよ。【トゥルースゲート】は電話越しでも使えるから僕の話も疑われなかったしね」


 言って、イチゴクリームサンドを口に運ぶ。

 うん、人間時代は胡乱に思って食べなかったけど、こういうスイーツ系のサンドイッチも案外美味しいね。


「……先程から気になっていたのだが、どうやって推川智聡(ちさと)の先天スキルを掻い潜ったんだ? まあ予想は付くが」

「加賀美さんの創造の通りだと思うよ。〔司統概念(アリティア)〕を使ったんだ」


 【トゥルースゲート】は対象の過去と現在を観測し、言動の真偽を判定する。

 だからその参照する記録を〔録〕で偽ってやれば騙すことは可能だ。


 ……可能なだけで人間にはまず無理だろうけど。

 【トゥルースゲート】は僅かでも綻びがあればそれを必ず見つける。


 僕の偽装が成功したのは〔(アルケー)〕を視られる〔(アステロン)〕の力と演算能力があってこそだ。


「その方法は私には真似できそうにないな」

「ニャビに掛けてる記録隠蔽を加賀美さんにも付けようか?」

「いや、そこまで面倒を見てもらう必要はない。そこから私と運営(ゲームマスター)の繋がりを気取られても面倒だしな。私はそんな力などなくとも隠し通せるさ」


 ひらひらと手を振る加賀美さん。

 彼女もいずれはプレイヤー達と協力することになる。けど一般のプレイヤーにまで全ての事情を打ち明けるつもりはない。


 ダンジョンが異世界の破片だとかの表面的な情報はともかく、その奥にある〔星界(ガイア)〕の理をみだりに広めるのは〔(アステロン)〕として抵抗感があるからね。


 なので加賀美さんには詳細を伏せながらやってもらうよう頼んでいた。

 【トゥルースゲート】がなければ嘘を織り交ぜることも出来たんだけど、あのスキルは多少のランク差は無視して真偽を看破してくるからね。


 まぁ、それでも加賀美さんなら上手くやってくれることでしょう、多分。


「それじゃあ僕はそろそろ行くよ。イベントの準備があるからね」

「準備? 前回のは適当にプレイヤーを分散させただけに見えたが……今回は何か仕込むのか?」

「仕込むというか、もう仕込まれているというか……このイベントを開催しようと思ったのはその『仕掛け』があったからなんだよね」


 そのうち専用の〔眷属(アコルトス)〕を作ろうと思っていたけど、その前にいいデータが収集できそうだ。

 正直なところちょっと時期尚早だと思う──推川さん達なんかは特にね──けど、いい機会なので試金石にさせてもらう。


「はてさてこの試練、プレイヤー達は乗り越えられるかな」


 類稀な才を持とうと所詮は人間、そう簡単には変われたりしないだろう。

 けれどこれはβテスト。どれだけ失敗しようとも致命的な事態は僕が防ぐ。


 プレイヤー達がどこまで抗えるか二思いを馳せつつ、僕はカフェテリアから転移したのだった。



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