1 プロローグ
今日は五話、明日は二話投稿します。
半年分の書き溜めがありますので、しばらくは毎日更新となる予定です。
楽しんでいただければ幸いです
見渡す限りが青だった。
一点の曇りもない蒼穹と、遥か眼下に広がる底のない碧海。
そんな海抜数百メートルの地点には、しかし一筋だけ瑕疵があった。
それは稲妻、あるいは亀裂。燦々と陽の降り注ぐ青空を、一条の黒が裂いている。
縦に伸びる亀裂の正体は異界の断片。
触れた者を内側へ引きずり込む不壊不朽の地獄門。
「あったあった」
未来において『ダンジョンゲート』と呼称されるそれに、無謀にも手を伸ばす者が居た。
一瞬前まで存在しなかったはずのそいつは一見、成人したての男性のようではあったが、奇異なる点が一つ。
右腕が蛍光緑色のホログラムで出来ているのだ。
そのホログラムの右腕を動かし、黒い罅をなぞる。
「〔原始式〕──デリート」
結果は呆気ないものだった。
前触れもなければ拮抗もない。
デリートキーを押すかのような手軽さと迅速さで、破壊不能であるはずの亀裂は消滅した。
「これで終わり、と」
人智の及ばぬ奇蹟を成した男は伸びをするように腕を伸ばし、青空を見上げ……目を細める。
人ならざる彼の眼には真っ暗な空間──宇宙とは位相の異なる〔虚空〕と、彼方より地球に飛来する漆黒の流星群が映っていた。
「まったく、気が遠くなる仕事量だね。こんなの新人の仕事じゃないよ……他に出来る人居ないからやるけどさ。〔原始式〕──テレポート」
玉砕した先代への愚痴をこぼしつつ、彼は現れた時と同様、一瞬にして姿を消したのだった。