幼女魔王を殺すため魔王城へ乗り込んだら全く勝負にならず返り討ちに......その挙句なぜか恋人になるよう要求され寝室にお持ち帰りされました。
「エルネ、出発の準備は出来たか? そんなに鈍臭いと魔族に喰われるぞ」
「時間ぴったりですよね? 急かすのやめてください!」
「お前、俺が誰だと思ってるんだバカ女。王子だぞ王子」
せっかちな人だ。
乱暴な言い方だけど、心配してくれるのが分かる声色で勇者様が呼びかけて来た。
私の名前はエルネ。聖女として覚醒し世界を救う英雄として選ばれた、今年で15歳の人間である。
そして旅の準備を急かしてくるのは、勇者として生まれたアルス・レリーク第二王子様。
他にも勇者の護衛として、凄腕の魔法使いさんと戦士さんがうちのパーティーにいる。
「お前には聖女としての働きをしている。頼むからしっかり励んでくれ」
そう言われると緊張してしまう。
「え、ええ。勿論です。憎き魔王を殺すため頑張らせていただきます!」
そう、憎き魔王。
私は10年前、ここから離れた魔族領の近くにあったとある国に住んでいた。
静かで穏やかな日々を過ごしていたのに突然、魔族達が攻めて来て、あっという間に蹂躙されてしまったのである。
それも魔王が軍を率いてだ。
敵うわけがない。
その後も魔族達は様々な国や街を滅ぼして行った。
街の生き残りは私1人。
逃げている時に聞こえてきた咀嚼音、アレはおそらく人の体を食べている音だ。
お父さんもお母さん、それに妹も死んでいるだろう。
許せない。
絶対に許せない。
だから死ぬ思いで聖女になるまで修練を重ねたんだ。
「よし、じゃあ出発だ!」
アルス様の発言と同時に城の門が開かれていく。
勇者パーティーの出征。
『がんばれええええ!!!』
『絶対に勝ってこいよ!!』
『聖女さまー!!結婚してくれーー!』
城門のすぐ外には応援してくれる人。
人族の勝利を願っている王都の住民達だ。
その歓声に勇者様が小さく手を振りながら進んでいく。
凄い人の数だ。
こういう経験は初めてで少し驚いてしまった。
きっとこの人達の中には自分と同じような経験をした人、家族を失った人たち、居場所を追われてしまった人が大勢いると思う。
私はそんな人達の希望を背負って頑張るのだ。
必ず魔王を殺してみせる。
バシッ
急に肩を叩かれた。
「顔が怖えよ、気持ちが分からんでもないが肩の力を抜け。国民の前だぞ」
「え?!あ、あはは……すみません」
ヤバい。
みんなの前でどんな顔を晒してたんだろ。
恥ずかしくて仕方ない!
そんなやり取りをしながらも私達、勇者パーティーは王都を出た。
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旅は順調に進み、次々と仕掛けてくる魔王の部下達は全く相手にならなかった。
うちのパーティーからは誰一人犠牲者も出さずに魔族の街や国を抜けていき、そして遂に魔王の玉座に辿り着いた。
私達を取り囲むように並ぶ魔族達と奥の玉座に座って様子を窺っている一人の少女。
これが最終決戦だ。
「おいエルネ。あのチビ女魔族が魔王なんだよな?」
半信半疑と言った感じで聞いてくる。
そんなの見れば分かるだろうに。
いや、アルス様は見たことないのか。
「はい、アルス様も感じますよね。あの途轍もない魔力量」
「感じるが、見た目が10歳くらいの子供だからな。少し驚きだ」
あの頃から魔王の見た目は何一つ変わっていない。
白銀の髪に紅い瞳、そして自分の体を包んでしまえるほど大きな翼と小さい角が2つ。
これだけの特徴。
見間違えるわけがない。
魔王を一目見て、みんながいなくなった日を思い出してしまった。
自分の顔が歪んでいくのが分かる。
許せない。
「よく来ました。人類で1番強い男、そしてあの時の人間」
まるで子供が喋っているかのような可愛らしい声。
だけど中身は数えきれないほど人を殺した魔族。
「人族を弄んでくれた恨みだ!お前はここで倒す!!」
「はい!行きますよ皆さん!」
魔王も私達の声に合わせて戦闘態勢をとった。
「私の名前はルーナ・クレイヴ。それとさようならです」
コイツは絶対にここで殺す。
この先の未来に、私のような犠牲者が出ないためにも、必ず!
そうして戦いは幕を開けた。
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結果は戦いにもならなかった。
「え?アルス様……」
視界から魔王が消えたと思ったら、アルス様の首から上が消失していたのだ。
それに戦士さんと魔法使いさんまで倒れている。
「隙だらけだぜ!人間の女ァ!」
ドンッ!!
「ゴホッゴホッ……」
お腹を蹴り飛ばされてしまった。
物凄く痛い、体が動かない。
ああ……私達は負けてしまったんだ。
しかも、これは勝負ですらない。
蟻のように踏み潰されただけ。
「ルーナ様。この人間の男、食べても良いカ?」
「えぇ、良いですよ。ちゃんと分けあって食べてくださいね」
コイツ、片手にアルス様の首を持っている。
あの一瞬で殺したんだ。
魔族が食べようとしているのは戦士さんと魔法使いさんだ。
虫の息だけどまだ生きている。
でも、助けられない。
「頼む、やめてくれ……いだい!やだ!!ああうああああ!!!!」
「おがあさん!たずげでぇ!!おがああざああんんん!!!!」
屈強な戦士さん達が体を咀嚼される痛みに耐えきれず、子供みたいに泣き出している。
「あ、これもあげます」
そう言って魔王がアルス様の首だった物を魔族達に投げ飛ばした。
あぁ……どうせ死ぬなら私も首を切り落として欲しかったのに。
未来の自分の姿を見せられた後に次を待つ私。
これが死を前にした、食べられる運命にある豚の気持ちというやつだろうか。
「それじゃあオレがこの女を頂こう、まずは右足だ」
「え、だめです」
蹴り飛ばしてきた魔族が近づいてきて、私のことを持ち上げた。
やだやだやだ、
あんなふうに食べられたくない。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいどうか国に返してください」
涙を流しながら懇願した。
プライドもクソもない、これが人の中から選ばれた英雄の姿。
未来の人間達に私のような犠牲を出さないために、などと宣っていた英雄の姿。
英雄の恥。
過去の先輩達に向かって地面を擦り付け、謝罪をしなければならない程の大恥である。
とはいえ人間は死の恐怖に誰も抗えない。
ごめんなさい、みんな。
「くっせえ、こいつしょんべん垂らしてやがる。仕方ねえな、腕から食う――」
その時、私を食べようとした魔族の頭が飛んだ。
「だめです、と言いましたよね? わたしの話を聞かないものは死ぬべきです」
周りの魔族もその行動に驚いて、すでに死体と化してた戦士さん達を食べるのを一時中断した。
え?
どうして目の前の魔族が殺されたんだろう?
わけがわからない。
「多分……10年ぶりくらいに会いましたよね。名前はなんとお呼びすればよろしいですか?」
優しい口調で問いかけてくる。
怖い。
体が震えて自分の歯がガチガチと音を鳴らしている。
「あっ……あぁ……」
喋れない。
次に死ぬのは自分の番だと思うと口が上手く動いてくれず、
怖すぎて身体中の穴という穴から水が飛び出していった。
「えっと、恐怖でそれどころじゃないかもしれませんが、わたしの質問に答えてほしいです。なんとお呼びすればよろしいですか?」
むっとした表情になった。
こ、答えないと、こ、ここ、殺される。
「え、えええ、えるる……ねでで、すすすす」
「エルネですね!今日からよろしくお願いします」
私の名前を聞くとパッと嬉しそうな顔をして抱きついてきた。
血で真っ赤に染まったてで、子供をあやすように背中を撫でてくれる。
流石にこの行動には驚いて、自分の心臓が止まったかと思った。
むしろ止まっていて欲しかった。
「あの魔王様。その人間を食べずにどうするおつもりなのですか?」
魔王の側近に見える魔族が当然の疑問を聞く。
本当に謎である。
『今日からよろしく』とはどういう事だろうか、何をどうよろしくするというのだ。
「今日からこの人間はわたしの恋人……です!」
???
聞き間違い。
幻聴だ。
でも聞こえなかったからもう一度言ってほしい……なんて口が裂けても私からは言えない。
さっきの魔族みたいに首が飛ぶ。
お願いだから、誰かもう一回質問してあげてほしい。
「魔王様。顔を赤らめてるところを申し訳ないのですが、上手く聞き取れませんでした。もう一度お願いします」
「もう!あんまり何度も言わせないでください!! 恋人にす、するんです」
魔王は恥ずかしそうな赤い顔で復唱した。
えぇ???
「正気ですか魔王様!」
これには側近の人もお怒りだ。
「はい、勿論です! 貴方達はいつも恋人は良いぞやら家族は良いですよ、などとわたしに言ってくれましたからね。これで何も言われることはありませんね!」
「……承知致しました。もう好きにどうぞ」
心を支配していた恐怖が、驚きで半分ほど消えた気がする。
本当に意味が分からない。
流石にこれは質問させて欲しい。
「あ、あの。な、なぜ私が恋人なんですか?」
「え?だってあの時、見逃してあげたのというのに、ここへきたということは、わたしのことが好きで戻って来たんですよね?」
それを当然であるかのように言う魔王。
何をどう考えたらそうなるのか。
ここに来たのはお前を殺すため以外の理由がないというのに。
それともう一つの疑問ができた。
「見逃してあげたというのは?」
「? その時はエルネが小さかったですから、恋というものを理解できないと思って、諦めたんです」
理解してないのはお前だよ。
私も恋をしたことはないけど、普通は男と女でするんだよバカ魔王……と言ってやりたい。絶対に言えないけど。
「あの、私を恋人にする理由……好きになった理由っていうのは?」
「一目惚れです! ふふ、それにしても良かったです。わたしたちは視線が合ったあの日から相思相愛だったんですね!」
もう考えるのをやめたい。疲れたから一度眠らせて欲しい。
これを拒否するという選択肢を取ることは出来ない。
すぐさま殺されるだろう。
いや、振った逆恨み的な奴でもっと酷い仕打ちを受けるかもしれない。
仕方ないから口裏を合わせるしかないか。
「相思……相愛…………ですね」
「はい!今日はお疲れですよね? 少し汚れているので一緒にお風呂に入って寝室に行きましょうね!」
そのまま流されるように風呂に入れられて、ベッドで泥のように眠った。
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太陽の光が窓ガラスを通して入ってくる。
良い朝だ。
昨日の見た悪夢は本当に酷かった。
夢のくせに今でも鮮明に思い出せるのが気持ち悪くて仕方ない。
魔王を殺すんだ、気合いを入れ直せ私!
ってあれ?
ここは何処だろう。
街の宿にしてベッドと枕がデカ過ぎる。
しかも中にもう1人いるような……?
「ん……あ、おはようです。エルネ」
ふとんを捲るとそこには角の生えた銀髪の少女がいて、まだ眠そうな顔で挨拶をしてくる。
うわ、
何でこれが現実なんだ。せめて夢であって欲しかった。
でも寝起きのお陰か、それとも所為というべきか。
今の私は上手い具合に落ち着いている。
冷静だ、冷静に対処するんだ。
「は、はい。おはようございます。魔王様……」
「魔王様じゃなくてルーナって呼んでください!様も入りません!」
不機嫌になりました。と言わんばかりの顔で訂正を求めてくる。
うん、この様子だと昨日のあった恋人の件も夢じゃないらしい。
「で、ではルーナ様とお呼び致しますね」
「ルーナです!」
怖い。
不機嫌の度合いが強くなった気がする。
何とか言い訳しないと……
「そ、その、まだ私達はお互いのことをよく知らないので、それはもっと親密になってからにしたいというか何と言うか」
恋愛の脳になってるバカな幼女魔王が相手なら、この言い訳もおそらく通じてくれるはず。
じゃないと魔王城から逃げ出すより先に、魔族達が私を暗殺して来そうだ。
「あ、それもそうですね! では、部下達が教えてくれた方法で、わたし達の中を深めていきたいとおもいます」
ルーナ様はその発言と同時に立ち上がり、まだ半分しか体を起こしてない私の上に乗っかって来た。
な、何をされるというんだろう?
流石にこんなに近いと、心臓の心拍数が跳ね上がってしまう。
もちろん恐怖でだ。
「え、えっと。魔王様?」
「ルーナです。それと目を瞑ってください」
「……はい」
真剣な表情で目を瞑れと言われた。
流石に逆らうという選択肢を取る事は出来ないので、大人しく命令に従う。
「では、いかせてもらいますね」
その言葉が終わり数秒した後、何か私の唇のあたりに柔らかく少し湿ったもの当たった感触がした。
確認したい、でも命令のせいで開けられない。
そしてすぐにそれは唇を抜けて歯列に突き当たる。
歯にモノが当たった時点で、流石に目を開けてしまった。
気づけば目と鼻の先に魔王の顔。
このルーナ様はふざけた事に私にキスをしていたのである。
「ん!……んん?!ルーナ様! 何をしているんですか!」
つい驚きで突き飛ばしてしまった。
でもこれは流石に私は悪くないと思う、お願いだから怒らないで欲しい。
「キスというものらしいです。わたしも初めてしましたけど結構良いものですね」
少し赤くなった顔で言ってくる。
恋人になって1日しか経ってない上、ほぼ初対面の相手にディープキスをかますのが普通だと思ってるのだろうか。
誰かこの幼女に一から性教育というのをしてあげて欲しい。
とりあえず何かこの流れを誤魔化す方法を考えないと……
「あの、よろしければお城を案内して欲しいんですが」
「それにしてもまだ途中でした」
「え?」
そう言って私の事をベッドに押し倒して、腕を掴まれて固定された。
もちろん力が強すぎて振り解けない。
興奮していて私の声も届いてないようだ。
「わたしの事を突き飛ばした罰です。一応女性同士でする性交?の方法というものも教えてもらいましたので、最後まで付き合ってもらいます!」
「る、ルーナ様。流石にs――」
何かを言う前に唇を塞がれた。
それも舌を入れられ絡められる。
やばい……
言い知れない未知の刺激が、身体中を駆け巡っているのを感じる。
それに、キスを通して魔力を送り込まれているのか分からないけど、頭が弾け飛びそうになるほど気持ちいい。
誰か助けて。
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そしてその日。魔王は姿を現さず、側近が寝室の扉を開けようとしても開かず。
部屋からは人の嬌声が1日中鳴り響いていたそうだ。
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