第18話 怪奇!!元フライ級チャンピオンボクサー ビクトリー勝田も驚愕、歩く首のない白鳩
第一部:完結
「どっひゃあっ、生き返ったぜ、こいつ。うわわわわ……こっち来るなぁ、あっちいけ、こんにゃろう……なむあみだぶつ、なむあみだぶつ、なんまんだぁー」
パンチがうろ覚えのお経を唱えると、首がもげて胴体だけの白鳩は、クルッと向きを変え、パンチとは反対方向の清州橋通りに向かいタタタタタッと走り出した。道端に落ちている首の方は開いた嘴の間から血が流れ、濁った白目がカッと剝いている。あいつは妖怪か、なんかの鬼かよ、あわわわわわ、仰天しているパンチのすぐ近くで、
「パンチ、壺ごと、塩を持ってこぉーい」
銭湯から戻ってきた政太朗が石鹸が入った洗面器ごと、その場で放り投げ、白鳩を追いかけていった。政太朗はすぐに追いつき、鳩の胴体部を両手でしっかり捕まえると、バタバタ動く胴体に体重を乗せ力をかけ抑え込んだ。パンチは事務所に引き返すと、すぐさま塩の入った壺を胸に抱え、戻る。
「そのまま、こいつに向かって塩を捲けぇー」
「へ、へえっ」
言われる通り、壺に手を突っ込み、ガバッと握ると、政太朗の手元、白鳩の胴体へ塩をバサッと投げつけた。
「うっ……ぐっぐっ、ぐへぇー」
白鳩の胴体から黒い塊が叫びながら現れ、ブルブル震えながらも、びょーんと地面へ潜り、影も形も見えなくなった。政太朗は鳩の遺骸を地面に放ると、ジュッと音を立てて燃え風に散って跡形もなくなっていった。
「くわばら、くわばら。なむあみだぶつ、なむあみだぶつ、なむあみだぶつ」
パンチが塩壺を胸にしっかり抱えたまま、経を唱える。
神社の中からアヤコが飛び出てきた。
「おじいちゃぁーん」
泣きながら駆けて、政太朗の胸へしがみついた。
「怖かったなぁ、アヤコ。よく、こらえた……何事もなくて、本当に良かった……良かったよ……」
「……うん、狛犬様と……お稲荷様が助けてくれた……」
「そうか、そうか、後でお礼参りしなきゃなぁ、さあ、うちへ帰ろう。おう、パンチ、帰るぞぉ」
「へえっ」
政太朗はアヤコの背に手を回して歩き出した。
パンチはこのまま二人と一緒に鳥越商事へ帰るべきか、帰らざるべきかと躊躇して、二人の背中を見つめた。一体、全体、何がどうしたってえんだ、わからねぇ、まったくわからねぇ。生まれてこのかた、こんなこたぁ、見たことも聞いたこともねぇぜ。気味が悪りぃな、あんなの見ちゃよぅ。俺もゼンザのようにバッくれて、おさらばするって手もある……けどよっ、親父さんには困っていた時に何度も助けてもらった恩義もあるしな、お嬢もちっちゃい時からずうっと一緒に過ごしてきたから本当に可愛い、クセは強いが仲間のみんなも悪い奴等じゃぁねしなぁ。それに、そういやぁ、蝶々も最近具合が悪くって、しょっちゅう寝込みがちときたもんだ……まあ、今すぐに結論を出さなくてもいっかぁ。
「おーい、パンチ、早く家に入りな」
振り返った政太朗の声に、
「いま行きますぜ、親父さん」と駆けだした。
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2024年4月12日から毎日一話ずつ書きながら更新してきましたが、ここで第一部は終了です。第二部は2024年秋以降~の開始を予定しています。
これからのお話……としましては……。
◆アヤコの家に、小学校教師の龍泉寺拓臣がやってきました。祖父の政太朗と小学6年生のアヤコの前へ多額の結納金を差し出し、アヤコが16歳になったら結婚したいと申し入れます。それを見ていたマサは……2人が過去の別々の時代に夫だったことをアヤコはまだ知りません。アヤコは二人のどちらかを選ぶのか、それとも……。
◆実は……アヤコは幕末にも転生していた!?龍泉寺拓臣もマサも知らなかった、アヤコが転生した日々。新選組の志士、原田との出会いと哀しい別離……はたして現世で原田は転生しているのか、二人に出会いは有るのか……。
★その他、色々なお話が展開していきます。それでは、また引き続き、読んで頂けると嬉しいです。
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