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第40話

 エルフの女性、キアラさんの話では村を出てすぐ、こちらに向かって来ている娘たちを発見したそうだ。


 そこで話を聞いてみたところ、どうやらエルフの長老たちは、今回の帝都襲撃に関わった全てのエルフを聖地から追放する事に決めたとの事。

 また、それだけでなく、世界樹のある聖地への出入り口を完全に封鎖。

 特殊な魔法で森に入った人を迷わせ、聖地にだどりつかせない様にしたそうだ。


「それはエルフも含めて?」

「はい、そうです……もともと、聖地に住むエルフは同胞と言えども、人と交わって暮らす者を快く思ってはいませんでした」

「これを機会に決別を決意したわけね」


「…………そうなります」


 帝都を襲った連中を破門するのはまあ、分からない事もない。

 だが、庇護を求めて来た同胞まで見捨てると言うのはどうなんだ?

 エルフと言うのは同胞意識が強いはずだったろうに。


「その同胞の判定区分が動いたんじゃない?」

「そうね、人と交わった事で汚れた存在になったとでも思ったんじゃないの」

「はい、同胞を騙すような存在はエルフじゃないと言っていたそうです」


 もうそいつら、ハイエルフとか言って区別したら良いんじゃないかな。

 えっ、未来では何百年も森から出たことのない原理主義のエルフをそう呼んでた?

 そっか~。


 ちょっとばかし時代が早まったんやね。


「となると、どこか聖地以外の場所を探すしかないわね」


 そのファニスのセリフを聞いて、とある女性がアール様に耳打ちをしている。


「えっと、この開拓村の先には未開の森が広がっているわ。もし庇護が必要ならばここでも良いんじゃない?」

「ちょっと、この無能……」

「ええ、我らのアールエル陛下の膝元に来ると言うのなら、全力を持って保護を約束しましょう」


 アール様の事を陛下とか言っちゃってるよ、このおばはん。


 そのアール様に耳打ちしていた女性がファニスのセリフを遮ってそう言う。

 この人さ、傷痍軍人の中でもかなりの上役に居た人で、バリバリのキャリア軍人。

 戦場で生き、戦場で散っていく事こそが本望だ。などとまで言っていた人らしい。


 そしてそういう人だからさ、アール様の回復魔法で一命をとりとめた後にベッドの上から起きられない状態になっていた時は、そりゃもう大層ご立腹で、なぜ戦場で死なせてくれなかったのだと、さんざん文句を言っていたそうだ。


 しかし、それが今や健全な体を取り戻し、再び戦場に立てるようになった。

 アールエル・ヴィンが居たからこそ、命を救われ、また戦えるようになれた。

 だと言うのに、自分は幼い少女にさんざん愚痴を言って、泣き言ばかりを言う最低な人間に成り下がっていた。


 そんな最低な人間であっても見捨てず、献身的に尽くしてくれたアール様は本物の聖女様だ。


 自分の全てを持って尽くし支えて行くのに何の疑問がある。

 わが命がながらえたのは、神がこのお方を支えろと言っているのに違いない。

 などと言っている、非常におっかないお人なのだ。


 そしてまあ、こういう人が一人や二人じゃ済まないのが現在のテンスール村である。


 ほんと、怖いんだよ。

 頼むから、うちのアール様に変な事を吹き込むのは止めてほしい。

 ファニスが、エルフを制御するのは簡単じゃないわよ、帝国ですら失敗しているのだから。


 と言うが、その女性――――――ベナリル将軍は、アール様ならば、たとえエルフと言えども、自分たちから頭を垂れるようになるだろう、と謎の自信をのぞかせる。


「えっ、ちょっと待って、そんな無茶ぶりされても困る……」


 そりゃ、そうでしょうよ。

 アール様にそっち方面の人望を求めるのはどうかと思います。

 しかし、キアラさんはキラキラした瞳でアール様を見つめながら、


「さすが聖女様! まずは希望を募ってからとなりますが、その際は頼らせて頂きます!」


 などと言う。


 まあ、世の中、なるようにしかなりませんわ。

 アール様本人は無能かもしれないが、下に居るやつらは有能なのが揃っている。

 いざとなったら、そいつらがなんとかするだろう。


 巻き込まれない様にだけは、注意せねば。


「あ、あの……それと、大変、言いにくい事が一つ」


 そう言ってエルフの女性、キアラはファニスの表情をうかがうように見る。


「そ、その……私がこの村に向かった事は、帝都を襲ったエルフの本隊にも連絡していまして……」


 この村に、帝都の生き残りであるシフ・ソウランが居る事が知れ渡っている。

 さらに……


「私の娘、コウとセイにあなた様がご存命であった事を伝えて……」


 それがコウ・セイ経由でエルフの本隊にも伝わってしまった。


「今ここへと、帝都を襲ったエルフの主犯格が向かって来ています……」

「なんですって……!?」

「ヒィッ!」


 キアラさんはガバリとファニスの前で土下座をする。


「お、お二人を、いえ、ファニス皇女が大切にしている人、それを奪おうと画策しております!」


 ドンッと足を踏み出すファニス。

 ヒェッと悲鳴を上げて、キアラさんの足元には水たまりができる。

 あんまり脅すなよ、ほら、娘さん達も居るんだから。


 娘さん二人は、そんな母親を見て嫌そうな顔をされている。

 自分の母親が、年端もいかない子供に威嚇されて失禁しているのを見るのはそら嫌だろうな。

 土下座だけでもインパクトがありすぎだろうし。


「ちょっと落ち着けって」


 まずは敵の戦力を知らなければならない。

 今は事前に状況を確認できた事を感謝するべきだ。

 それが全部、この人が原因だとしてもな。


 またメテオなどを落とされたらたまった物じゃない。


「せ、戦力は40名ほどの女性だけ、メテオの心配はありません。呪いにより魔力も衰退しています」

「呪い……?」

「は、ハイッ! 帝都を襲った本隊のうち、主犯格であった者たちにはエルフの象徴である長い耳を切り落とし、回復が効かない体になる呪印を刻まれたそうです」


 エルフの罪人に対する仕打ちの様だ。


 耳を切り落とす事によりエルフとしての象徴を失う。

 そのうえで、二度と耳を回復できないように、全身に呪印を刻み、回復魔法はおろか、自然治癒すら阻む呪いを受ける。

 この呪いを受けて寿命を全うできたエルフは存在しない。


 なにせ、少しの怪我でも命取りになるわけだ。


 そしてそんなエルフ達が、どうせ死ぬのならとオレを道づれにしようとしているらしい。

 そんなに恨まれる事をしたっけかなあ。

 もしかして気づいてなかっただけで、オレの前世ってとても悪人だったのかもしれない。


 だから今世のオレは、こんなに不幸なのだろうか。


「それをそのまま信じろと?」

「え、エルフの鑑定魔法をお教えします、それを使えば私が真実を言っている事が分かるはずです」

「ふ~ん……」


 それを聞いてスリフィが、ちょいちょいとファニスを呼び寄せる。


「エルフの鑑定魔法があれば、以前に言っていたアレ……」

「ええ、シフのチン長を測れるかもしれないわね」


 えっ、お前ら、今、なんつった?

 身長かな?

 そんなものを測ってどうするんだ?


 身長だよな!?


 その後、ファニスとスリフィはエルフの女性から鑑定魔法を教わるために部屋にこもる。


「いや、その、なんて言うか、あなた達も大変そうね」


 夕食が始まろうとしたぐらいにようやく顔を見せるファニス。

 そのファニス、なぜかコウとセイの二人を見てそう問いかける。

 二人とも沈痛な顔をして、


「アレはもうダメだ」

「責任とって」


 とファニスに言っている。


「もしかして、私のせいなのか?」


 コクコクと頷くふたり。


 どういう事かと聞くと、キアラにエルフの鑑定魔法をかけたところ、奥底にねむる性癖がなんと――――――痛いのが大好き、というものだったらしい。

 ドマゾエルフかよ!?

 そしてその性癖を目覚めさせてしまったのがファニスの拷問にあったご様子。


 もしかして、さきほどファニスに脅されて失禁していたのは…………


「年下の子になじられて嬉ションする母など見たくはなかった」

「責任とって」

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