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第35話

 ねえ、姉様、また覗きがどうとか言っていませんでした、とひょっこり顔をだすリューリンちゃん。

 ヒェッと言ってそれに慄くファニス。

 どうもリューリンちゃんは、上二人の悪ガキを反面教師としてか、ちょっとばかり潔癖気味に育っている。


 リューリンちゃんは教育パパのおかげか、一番幼いのに、魔力は一番高い。


 彼女を怒らすと、ファニスとスリフィでは太刀打ちできない。

 リューリンちゃんが二人のストッパー役になってくれているおかげで、多少はマシになっている。

 じゃなきゃ、オレはとうの昔に、二人に手籠めにされていたかもな。


 さて、オレ達がなぜ、こうも世界の情勢に詳しいのか、と言った所なのだが。


 それはヴィン王国の第四王女、アールエル王女が管理していた傷痍軍人の医療施設に関わる話でもある。

 傷痍軍人、それは国のために戦い、傷を負い、一般的な生活が困難になった人たちを指す。

 そして戦争というのは、がっつりと剣と剣を打ち合わせて行う物ばかりではない。


 敵の領地に潜入して情報を集めてきたり、戦時中の交渉を行ったり、宣戦布告を行う者もいる。


 まあ、スパイが敵に捕まればどういう事になるか。

 戦中の交渉や宣戦布告役だって、五体満足で帰って来られる可能性は低い。

 まだ、死体となって戻って来るならマシなほう。


 拷問を受けたり、体の一部だけを返されたり、ひどい場合は、目鼻口を全部焼かれた上で四肢を切り落とされたダルマの様な状況で帰された者もいる。


 そういう人が多数、あの医療施設でアールエル王女の保護を受けていた訳だ。

 そんな人間も見捨てず、恨まれても手をつくしていたアールエル王女。

 国のために尽くして報われず、未来にも希望が持てない人たち。


 絶望しかなかった彼女たちへ、希望をもたらす存在。


 そこに恩に感じない人間がどれほど居るものか。

 再び健全な体を手にした彼女たちは、国ではなく、彼女にこそ忠誠を誓う。

 アール様はもう、自由に生きなさい、とは言うが、誰一人、彼女の元を離れようとはしない。


 みな一概に、自由に生きて良いのならば、このお方を支えていこうと決意される。


 そんな彼女らが、独自に情報を収集してくる。

 そしてなぜか、それをオレやファニスに伝える。

 まあ、利用する気、マンマンなんだろうけど。


 さらに彼女らは、自分たちと同じ目にあっていた他国の人たちや、能力はあるのに怪我のせいで満足な力を出せていなかった人たちを集めてくる。


 アールエル王女はそんな方達をも癒していく。

 はっきり言おう、彼女は無能なのだ。

 そんな状況の人たちを癒していけば、いったいどうなるかを分かっていない。


 本人は回復魔法の腕を磨くためにどんどん連れて来なさいと言っている。


 本心はたぶん、癒せる人が居るのなら癒していきたい、自分の力をどんどん発揮していきたい、ぐらいにしか思っていないのだろうが。

 そんな彼女に癒された人間が、いったいどういう行動を起こすかまで、頭が回っていない。

 正直に言って怖い。


 純粋な彼女の周りには、それを守ろうと――――――狂信者どもが壁の様にできあがっている。


 彼女のためになら、命を捨てても良いという人間がどんどん集まって来る。

 そしてそんな彼女らが暗躍を始める。

 いずれ、ヴィン王国から独立を果たして宗教国家を作りだそうと考えていないか不安だ。


 事実、先祖が聖女であったこのヴィン王国の起こりは、同じ様な状況であったらしい。


「スリフィの両親はどうなの、ちゃんと逃げ出す準備は出来てる?」

「父さん母さんはボクがあとを継ぐからなんとかするだろうと思っている」

「アレ、なんとかする自信があるの?」


「大丈夫、いざとなったらファニスを人身御供にして差し出すから」


 ちょ、この裏切り者~、と言ってスリフィの首を絞めるファニス。


 歳が近いせいか、この二人は随分と仲が良くなっている。

 二人ともたぶん、初めてできた親友なのではなかろうか。

 特にスリフィ、前世でも親しい友人は居なかったみたいだからな。


「そういえばリューリンちゃんは村で親しい人はできた?」

「うん、いっぱいいるよ」


 みんな、私の言う事を良く聞いてくれる良い子たちばかりだよ。

 と、などと、ちょっと不安になりそうな言い方をする。

 友達だよね? 部下とかじゃないよね?


 リューリンちゃんは村の子供達に魔法を教えているそうだけど……


 なんだかんだで、この子もあの皇帝陛下の血を引いているんだよな。

 お父さんがどんな方かは存じないが、かなりの教育パパだったそうだ。

 ファニスの話ではオレが来るまでは、いつも泣きながら勉強していたと言う。


 手がかからないからリューリンちゃんの方は放置気味だったけど、もう少し目を向けた方が良いかな。


「そんな事より先生さあ、どうしてリューリンだけ膝の上がオッケーなの? ボクにも座らせてよ」


 お前は、すぐ変な所を触ろうとするだろ?


「リューリンだって女よ、きっと心の中ではハアハア言ってるに違いないわ!」

「姉様、また変な事を言っていると、雷が落ちますよ?」

「雷がなんぼのもんだって言うのよ! 私もシフの膝の上でハアハアしたい!」


 言っている事が最悪だな、この元皇女。


 おっしゃ~、一緒に下剋上をしようぜと、スリフィがファニスを連れてにじり寄って来る。

 リューリンちゃんはオレにしがみ付いて来て、離れる意思はなさそうだ。

 そのうち、4人で団子になって転がる。


 世の中はいろいろと煙たい事になっているが、わが家は平和だ。


 だからこそオレは油断していた、そんな状況で平和が長く続くはずはないと言うのに。

 狂信者の集まる村になど、誰も潜入しようとは思わないだろうと思って。

 そんな油断の中で一人、村の中を歩いていたのだが。


 背中にチクりと何かが刺さる。


「命が惜しければ騒ぐな、騒げは一瞬で焼けこげるわよ」

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