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第12話

「す、すごい……」


 こんな高度な魔法、平民などは一生、お目にかかれない魔法だ。


 古傷ですら消えている。

 気になって、服をめくりあげてあちこちを確認してみる。

 子供の時から虐められて散々ついた傷跡もなく、あかぎれでボロボロだった手のひらも綺麗になって、まるで生まれ変わったかのようだ。


「お、おい、男の子がそうやって簡単に肌をさらすものじゃないぞ」


 王女様が慌ててそう言ってくる。

 いや、それどころじゃないですよ。


「パーフェクト・ヒールって、こんな凄い魔法を使えるなんてアールエル王女は聖女様なのですか!?」

「あ、ああ……まあ、回復魔法は得意でな。聖女認定を受けている訳ではないが……」


 なにせ自分は王族だ。

 そうそう他人に魔法を掛ける機会など存在しない。

 回復魔法が得意であっても、何の役にも立たないのだ。


 などと仰る。


「しかし、戦場では大活躍なのではないですか?」


 オレがそう問いかけると、王女様は表情を歪ませる。


「こんなもの、戦場ではクソの役にも立たない……」


 戦場で回復が必要な場合と言うのは、負傷兵が運ばれて来た時だ。

 そして合戦中に送られてくる負傷兵とは、戦える状態でない者だ。

 腕や足どころか臓器も失い、視力も聴力も失っている者ばかり。


 最高位の回復魔法と言えども、失ったモノを蘇らす事はできない。


 命をつなげたとしても、後遺症で苦しむ者ばかり。

 そして国としても、そんな戦えない者を抱えて居たくはない。

 いっその事、死んでくれた方が国のためになる。


「だから私は、戦場に呼ばれない。戦場に呼ばれないから武勲もたてられない」


 俯いて、震えるような声でそう答える。


 平時でも回復魔法は使えない。

 戦時では来ないでくれと言われる。

 一体、私の価値はどこにあるのだ。


 小さな、小さな王女様は、悔しそうにそう答える。


「そんな王女なら、辞めてしまえば?」

「なんだと……!?」

「あっ、いや、言い方が悪かったですね」


 オレはとある人物に回復魔法を使ってほしいと懇願する。

 先ほどもらった金貨も全て差し出す。

 と言うか、この金貨、本当に要らないですよ。


 底辺の平民がこんな大金を持ってるってだけで命を狙われる。


 殺して奪うなんて底辺社会じゃ日常茶飯事なんですよ。

 だから底辺の住民は出来る限り財産を持たないのです。

 奪う物がなければ、殺されたりしないからです。


 特に男性が財産を持つと、まさしく、カモがネギしょっているようなものです。


 しかも帝国金貨。

 持っていると行政にバレたら、帝国のスパイ認定、待ったなし。

 そして昨今の行政、下手に権力がある分、ヤクザよりひどい扱いを受ける。


「回復したい奴が居るだと? そいつをお前の様に簀巻きにしてココに連れてくるのか?」


 普通に訪問して回復魔法を使いました、というのは当然出来んぞ。と言ってくる。

 いえ、ですねえ……実はそのお方、動かせる状況にないのですわ。

 ほんと恐縮なのですが、王女様に足を運んで頂ければと思うのです。


 そう言うと呆れた様な表情で答える。


「お前は、王族である私を顎でこき使うつもりか?」

「これは王女様へのお願いではありません、アールエル様、個人へのお願いでございます」

「ふぬ…………」


 王女様として魔法が使えないのであれば、王女としてではなく、唯のアールエル・ヴィンとして魔法が使えないだろうかと。

 変装などをして、別人に成りすませば、問題がないのではと。

 ほんの一度だけでも構わない、王女としてではなく、アールエル・ヴィンとして魔法を使って頂けないかと。


「王女として――――ではなく、か」


 しばらく考え込んでいたアールエル様は、付いて来い、と言って部屋を出て行く。

 付いて行くと、とある部屋をノックもなしに扉を開けて入って行く。

 その部屋で寝ていた女性を叩き起こして、服を出せと強請られる。


「えっ、なんで俺の服が必要なんですか?」

「良いからさっさと出せ、お前の服が必要なのは背格好が私と似ているからだ」


 その女性から服を奪ったアールエル様は、その場で服を着替えだす。

 えっ、オレが居るんだけど。

 いや、この世界じゃ、女性が異性の前で肌をさらす等は、なんとも思わないんだけどさ。


 とても眼福で、大変、形のよろしいおっぱいでございました。


 そしてアールエル様は一つの魔道具を取り出す。

 それを服の持ち主だった女性と自分の間に置く。

 するとだ、アールエル様の姿が目の前の女性とそっくりになって行く。


「お前の名は、確か……」

「カエラっす、アール様」

「良しカエラ、私が戻ってくるまで私がカエラだ。お前はそれまでこの部屋から出るな」


 ウェっ、て言って驚いている女性を尻目に、オレを連れて外に出て行く。


 良いのかなあ、と思いながらも回復魔法をかけてもらいたい人の場所へ案内する。

 そうオレが回復魔法をかけて頂きたい人。

 その人の名は、クランキ。


 オレをこの街に連れて来てくれた、例の行商のおっちゃんだった。


 この行商のおっちゃんなんだが、オレを売ったバチが当たったのか、少し前から病気で寝たきりになっている。

 まあ、売られたとはいえ、ココまで連れて来てくれた、命の恩人でもある。

 恩を返すなら今しかない。


 アールエル様の気が変わらないうちにと、オレは速足で行商のおっちゃんの場所へ案内するのであった。

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