ピイちゃんは可愛い♪
「ねえピイちゃん」
「ピピッ?」
指先に乗る文鳥のピイちゃん。
一年前から飼い始めた私の大好きなピイちゃん。
私が声を掛けると、彼女はピイピイ鳴いて応えてくれた。
「ピイちゃんは外に出て羽ばたきたいって思う?」
時折思う、不意なエゴ。
ピイちゃんを飼っているのは私で、飼われているのはピイちゃんで、この家の中でしか飛んだことのないピイちゃん。外に出しても鳥かごに入れて一緒に行くため、彼女が大空を羽ばたいたことは一度としてない。
ピイちゃんが大好きだから、こうして鳥かごの中に入れて飼うことは、彼女にとってはどう思っているのだろうと。
こんな狭い中で飛び回る彼女にとって、外の世界はどう見えているのだろうと。
私といて楽しんでくれているだろうか。幸せでいてくれているのだろうか。
そんなことを考えてしまう。
「……」
まるで自分みたいだ。
社会の中で囚われて、自由に羽ばたけない自分みたい。
「ねえピイちゃん。ピイちゃんは今、何を考えてる?」
「ピピピピッ!」
陽気そうな声で鳴いた。
それが本当に陽気なのかは解らないけれど、そう鳴いたのだろうと。
彼氏がいるわけでも友達がいるわけでもない。
会社と家を行き来して、こうしてピイちゃんと一緒にいるくらいしか今は無い。
ピイちゃんと一緒にいることが愉しくないわけがない。むしろ癒される。嫌なことがすべて吹き飛んでしまうくらい、彼女といると落ち着く。
明日は休みだ。
ピイちゃんと何処かへ行こうかなと思いつつも、車から出せるわけではないからむしろ部屋よりも狭い車内はストレスだろう。
「なんか寂しい。こんなこと考えてる自分も、この瞬間も」
「ピピッ?」
首を傾げるピイちゃん。
「ピイちゃんがいなかったら今頃もっと寂しかったかもしれない」
一人暮らしのこの部屋。
部屋の大きさの割に賃貸料は安い。
月給もそれなりに貰っているからさほどお金に困ったことはないけれど、それらしい趣味は無かった。
家に帰ってお酒を飲みながらボーっとテレビを見るくらいしかない。
虚しい気持ちが大きかった。
ピイちゃんの頭を撫でる。
そして足場にしている私の指をカジカジするピイちゃん。指先に舌も当たって心地よい。
仕事で良いこともあれば悪いこともある。調子のよい日もあれば悪い日もある。そう言った割り切りと悟ったような考えでいるから、こんなにも空虚で空っぽな心持で日々を過ごしているのかもしれない。
「ピイちゃんと一緒に実家にでも帰ろうかな……」
ここから家まで車で一時間ほど。
通勤時間が長くて億劫だからここへ引っ越してきたわけだけれど、もう少し実家から近い場所の仕事を探せばよかったかもしれないと少し後悔。
「ピイちゃん可愛いね~」
「ピピピピッ!」
パタパタと羽ばたかせた。
もしかしたら喜んでいるのかもしれない。
「ピイちゃん喉乾いてない?」
ペットボトルの蓋に水を入れて差し出すと、彼女は水を飲んでくれた。
ついでに掌に餌をのせると、そちらへ移ってパクパクと食べてもくれる。
さらに撫でてやると、「ピピピッ!」と鳴いた。
「ふふっ」
餌を食べ終えると、ピイちゃんは私の手の中に入ってきてお腹を見せてくれた。くちばしや頬を親指の腹に摺り寄せて、可愛らしく鳴いている。
お腹を撫でてやると、「ピッピッピッ!」と笑うように鳴いた。
手を離すと足で指を掴まれる。
もう一度撫でてやると、また「ピッピッピッ!」と鳴いた。
今度は掌をぎゅっとして、ピイちゃんを包み込んであげると、彼女は身体をクネクネさせて掌の中で動いていた。自分のにおいを私に擦り付けるみたいに、私のにおいを全身で感じ取っているみたいに。
「可愛いねえ~」
スマホを手に取ってパシャリと写真を撮った。
フォルダの中はピイちゃんの写真で一杯だ。
月ごとに分けてピイちゃんの成長を記録している写真だってある。
ピイちゃんはまさに私にとっての天使だ。
この子と一緒にいると嫌なことが全部忘れられる。
寂しくも悲しい気持ちも全部。
「実家にピイちゃんを連れて行ってあげようかな」
ケージからは出してあげられないけれど、両親と弟もとても優しいのだ。すぐに彼らを好きになるだろう。
「明日が楽しみかも」
「ぴっ?」
親指の腹を噛むピイちゃん。
ピイちゃんを閉じ込める悪い私。
飛べない鳥。大空を舞えない鳥。
エゴでもいい。自分勝手でもいい。
ピイちゃんと一緒に居たい。
ごめんなさい。
「ぴい……」
するとピイちゃんが私の指をぺろぺろと舐めてくれた。
気にしなくていい、そう言われているような気がした。
「……ごめんね、ありがとう」
そう口にして、頭を撫でてやる。
嬉しそうに笑っていた。
「そうだよね。そうだよね」
ピイちゃんに元気づけられて、彼女を手の上にちょこんと置いた。
羽ばたき、大きく鳴いた。
爪楊枝をピイちゃんの前に出すと、彼女は目をキラキラさせて爪楊枝で遊びだす。
机の上に立たせると、ピイちゃんは爪楊枝に夢中になる。
それをあらゆる角度から写真に収めた。
「いいよおピイちゃんっ、最高だよおっ!」
ピイちゃんの鳴き声と、スマホのシャッター音がしばし鳴り響いた。
ピイちゃんとの楽しい生活を心に描き続け。
ピイちゃんに寄り添うと心に誓う。
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【集】我が家の隣には神様が居る
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