第二章 ナイフを持った客
小南葡萄です。ナイフって、危ないんですよ。
風が刺すように冷たくなり、僕に現実を突きつける。
ほんの数分開けただけだったのに、やばい。俺は鍵をかけ忘れていたのか。
考えるよりも先に足が動き、突っ込むように玄関に入り、ダンッと電気をつけた。
「あれ、ここはあいつの部屋じゃ。いや、あいつの部屋だよなあ」
部屋の中には俺をギロッと睨む男がいた。奴の目の周りが黒く、このゴミ屋敷によく似合う格好をしていた。睨まれたと思うと、奴は目を逸らし、ゆらゆらと歩き回り、僕がいるのに物色を続けている。
「誰だお前は」
俺の震えた声に反応し、こっちをまたじろりと睨み、にやにやし始めた。
「あぁ、メイデューが確かに言ってた気がするなあ」
メイデュー?誰のことだ。
電気をつけた手が、スイッチに離れないまま、プルプル震えているのがわかる。奴は、手には荒いナイフを、慣れた手つきでいじって、俺の顔を見るなりニヤニヤしながら、周りを見てから、Bの部屋に入ろうとしていた。
「Bならここにはいない」
咄嗟にBの名前を言ってしまった。不安定に声だけがでかくなり、助けを待っている自分がいた。
「B?あぁ、確かにいないなあ。ってことはまだあそこにいるのかな」
こいつ、Bを知ってここまできたのか。目線を合わせず、遠くを見つめている。話は終わったか?と目で訴えてきて、また、Bの部屋に向かいゴミを漁り続けた。
何かを探しているようにも見える。俺は奴を追い詰めようと、追いかけるようにBの部屋の前まで、トス、トス、とゆっくり歩いて行った。
「おい、早く出ていけよ!」
「あ?あらー?ナイフ持ってるのに、お強いねえ。かっこいいねえ。でも」
奴は急にナイフを突き立てこっちに早足で向かってくる。俺は後退りをしてしまい、ローテーブルに転び、しまった。と思うと、ナイフの腹を胸にドンッ押し当てられた。俺は逃げようと、足だけは後退りを続けている。ローテーブルが少しずつザザ、ザザザと引きづられる音のせいで焦りが増してくる。
「なんにも知らないね。自分を守る術も、他人を倒す術も。Bのことも、知らないんだろうね」
「お前は、Bの、なんなんだ」
「まだ聞く余裕があるの?あと一分も持たない命かもしれないのに」
ゆっくりと刃先が顔に近づいてくる。やつの腕を持っても、やつの力に全く及ばない。首元まで刃先が来て、首を伸ばしながら俺はナイフを必死に遠ざけようとした。
刃先が当たり、死ぬ。
と思ったら、やつの腕の力が抜け、ナイフをおろした。フラフラと自分のペースで玄関に歩き始め、捨て台詞を吐かずに出て行ってしまった。
見えなくなった途端に腰が崩れ、体重任せに手をついた。プスッ。急いでに見ると手に画鋲が刺さって血が流れている。画鋲をとって、意識が朦朧としながら逃げるように洗面所に行き、水で血を流した。ついでに顔を洗って鏡を見ると、かなり顔が青白くなっている。
今になって、心臓が速くなっていたのがわかる。俺は一歩間違えたら死んでいた。しかし死ぬ直前の感覚は初めじゃないような気がした。
息が詰まり、目の前のことしかわからず、頭がずっと警報を鳴らして考えてくれないあの感覚。
はあ、はあ、はあ、はあ。ゆっくり呼吸を始めて、整理する。
大丈夫、俺は、死んでいない。
そういえば、Bがあそこにいるのかと言っていた。となると、やっぱりBをよく知っている人だ。Bが普段夜中に何をしているのかわからない以上、どんな知り合いかもわからない。俺もふらふらとBの部屋に行き、布団で横になると、心音を緩めながら、現実から逃げるように目を瞑った。
「おい、殺すぞ」
風が刺すように冷たくなり、僕に現実を突きつける。
ほんの数分開けただけだったのに、やばい。俺は鍵をかけ忘れていたのか。
考えるよりも先に足が動き、突っ込むように玄関に入り、ダンッと電気をつけた。
「あれ、ここはあいつの部屋じゃ。いや、あいつの部屋だよなあ」
部屋の中には俺をギロッと睨む男がいた。やつの目の周りが黒く、このゴミ屋敷によく似合う格好をしていた。目を逸らされたかと思うと、ゆらゆらと歩き回り、僕がいるのに物色を続けている。
「誰だお前は」
俺の震えた声に反応し、こっちを次はじろりと睨み、にやにやとしながら
「あぁ、メイデューが確かに言ってた気がするなあ」
メイデュー?誰のことだ。電気をつけた手が、スイッチに離れないまま、プルプル震えているのがわかる。奴は、手には荒いナイフを、慣れた手つきでいじって、俺の顔を見るなりニヤニヤしながら、周りを見てから、Bの部屋に入ろうとしていた。
「Bならここにはいない」
咄嗟にBの名前を言ってしまった。不安定に声だけがでかくなり、助けを待っている自分がいた。
「B?あぁ、いないだろうなあ。ってことはまだあそこにいるのかな」
こいつ、Bを知っているのか?Bを知ってここまできたのか。目線を合わせず、遠くを見つめている。話は終わったか?と言われているようなアイコンタクトをとり。Bの部屋に向かいゴミを漁り続け、何かを探しているようにも見えた。俺は奴を追い詰めようと、追いかけるようにBの部屋の前まで、トス、トス、とゆっくり歩いて行った。
「おい、早く出ていけよ!」
「あ?あらー?ナイフ持ってるのに、お強いねえ。かっこいいねえ。でも」
奴は急にナイフを突き立てこっちに早足で向かって俺は後退りをしてしまい、ローテーブルに転び、しまった。と思うと、ナイフの腹を胸にドンッ押し当てられた。俺は逃げようと、足だけは後退りを続けている。ローテーブルが少しずつザザ、ザザザと引きづられる音のせいで焦りが増してくる。
「なんにも知らないね。自分を守る術も、他人を倒す術も。Bのことも、知らないんだろうね」
「お前は、Bの、なんなんだ」
「まだ聞く余裕があるの?あと一分も持たない命かもしれないのに?」
ゆっくりとナイフが顔に近づいてくる。奴の腕を持っても、奴の力に全く及ばない。首元まで刃先が来て、俺はナイフを必死に遠ざけようとした。
刃先が少し当たり、死ぬ。
と思ったら、やつの腕の力が抜け、ナイフをおろした。フラフラと自分のペースで玄関に歩き始め、捨て台詞を吐かずに出て行ってしまった。
見えなくなった途端に腰が崩れ、体重任せに手をついた。プスッ。急いでに見ると手に画鋲が刺さって血が流れている。画鋲をとって、逃げるように洗面所に行き、血を水で流した。鏡を見ると、かなり顔が、青白くなっている。今になって、心臓が速くなっていたのがわかる。俺は一歩間違えたら死んでいたのか?しかし死ぬ直前の感覚は初めじゃないような気がした。息が詰まり、目の前のことしかわからず、頭がずっと警報を鳴らして考えてくれないあの感覚。
はあ、はあ、はあ、はあ。ゆっくり呼吸を始めて、整理する。
大丈夫、俺は、死んでいない。
そういえば、Bがあそこにいるのかと言っていた。となると、やっぱりBをよく知っている人だ。Bが普段夜中に何をしているのかわからない以上、どんな知り合いかもわからない。俺もふらふらとBの部屋に行き、布団で横になると、心音を緩め、現実から逃げるように目を瞑った。
「おい、殺すぞ」
その言葉に驚かされて起き上がると、Bがいた。いたことを確認できた瞬間に頬が爆発するような衝撃が起こる。Bに叩かれた。思わず手を右頬に添える。ジンジン痛い。
「なんで電気つけっぱなしにするの?バカなの?もうしないって言ったよね?」
部屋にナイフを持った男が現れたことも知らなそうなBが僕に怒っている。少し胸を撫で下ろして、Bの胸に飛び込んだ。
「ねえキモい。お前って変態なの?」
飛び込んだ俺の背中に殴られているような刺激が全身に伝う。
「離れろキモいから」
離れた僕に対して、Bは嫌悪のような目つきをしていた。
「あのね?部屋の電気がついてることでもう殺したいんだけど、なんで玄関の鍵空いてるの?」
「ああ、空いてた?」
生返事をした僕に再度ビンタをし、その衝撃で俺は布団に倒れた。
痛くても、死んでない。夜中のナイフよりは全く怖くない。むしろ安心で顔が緩んでしまう。
「ちょっともうマジでキモいわ。着替えるからあっちいって」
布団の温もりが今日はとても沁みる。でも背中がまだいたい。多分蹴られてる。
「あっちいけつってんだよカス」
そろそろ本当に怒られると思った俺は、リビングに行ってまとめたゴミを玄関に持って行くことにした。
ローテーブルの引きずられた痕跡が、さっきの情景をフラッシュバックさせる。
本当にいたんだと血の気が引いてくる。自分でも分かるくらいに。
夜にまとめたゴミ袋を大きなゴミ袋に一つにまとめて、引きずりながら玄関に向かった。
玄関のドアノブを開けると、やっぱり鍵はかかってなかったということがわかって、Bに言われたことに苦しめられる。
そもそも開けてなければ、あんな思いはしなくて済んだんだ。
ゴミ袋をいつものところに捨てて、部屋に戻ろうとすると、また俺は開けっぱなしにしていた。
その瞬間、夜中のことがまたフラッシュバックする。死ぬ直前までいったあの場面、Bを知っていた得体の知れない男を思い出し、一瞬動けなくなったが頭を振って考えるのをやめた。
玄関を閉めて、今度は意識的に鍵を閉める。ガチャリ。
嫌でもやっぱり思い出してしまう。奴の、未来を何も考えていなかったようなあの目を。奴はBの一体なんなんだ。ドタドタと今日はBの部屋が騒がしい。
「ねえ、私のパンツどこやった?」
実は包丁も、危ないんですよ。