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虹の遺灰  作者: 狗ろA夏
6/8

それぞれの信念

警備官に軽く礼を言われ、そのまま青年は連れていかれた。担架に乗せられた神父さまは、助かるかどうかもわからない。不思議なことに、特に何も聞かれずに帰ることが出来た。

「…帰ろうか、父さん。」

暗い帰り道、カンテラの灯りだけを頼りに歩いていく。

「父さん、何があったのか教えて貰ってもいいかな?」

「あぁ…実は……」

父さんの話によると、あの青年は悪魔を信仰していたようで、急に教会で叫んだかと思うと、

「天使は嘘を流している」

「お前たちは騙されている」

「本当に正しいのは悪魔だ」

と喚き始めたのだという。そして…

「黙って俺の話を聞け!」

そう叫んで神父様にナイフを突き立てて、

「全てはパンドラ様の御心のままに!」

その後、動くなと言われずっと教会にいたそうだ。

「…その間、パンドラの話を狂ったようにしていたんだ。」

「…なるほど。あ、もう着くね。」

パンドラの箱が、エルピスがカタカタと震えているのを感じて慌てて話題を逸らす。今日の夜は、エルピスと話し合わなくては。

その日は軽くパンだけを食べて寝ることにする。あんなことがあったから、父さんにエルピスのことは言えなかった。

「エルピス…。」

「…。」

エルピスは、縮こまって箱から出てこない。エルピスが不快に思うには十分すぎる出来事だっただろう。

「ボクのこと嫌い?」

そう聞くと、エルピスはくるりと振り向き、ボクの左手に噛み付いた。

「ゔぅ…ぐるる…」

鋭い痛みが、全身に鳥肌を立たせる。唇を噛み締めて耐える。エルピスの気が済むなら、何度だって噛めばいい。それが、パンドラの箱を開けてしまったボクの責任だと、勝手に思ってるから。

「ごめんね。」

天使のことも、悪魔のことも、パンドラのことも信じていないボクを、見抜かれていると思う。パンドラを信じないボクに、苛立っていると思う。

それでも、ボクにはボクの信念がある。それはエルピスが、何があってもパンドラを信じているのも、父さんがクラミテン教を信じているのも同じだと思うから。

「エルピスはエルピスのままでいいよ。だから、ボクもボクのままでいさせてくれないかな?」

そう言うと、エルピスはとりあえず口を離してくれた。静脈まで切ってしまったのだろうか。静かに血が流れ続けている。とにかくガーゼできつく縛っておいて、明日薬屋のおばあさんに見てもらうことにしよう。医者にかかると大事になりそうだし、あの人ならエルピスのことを言っても大丈夫そうだろう。

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