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虹の遺灰  作者: 狗ろA夏
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エルピスの想い

あれから何度も呼びかけたが、エルピスが箱の中から出てくる気配はなかった。無理やりどかすのもひどいかと思い、箱ごと移動させたが、これは大丈夫らしい。箱ごとではあるが、エルピスをそっと抱き寄せる。

「くきゅ」

箱の中から、頭を持ち上げてボクを見上げるエルピスは、怪物のような見た目ではあるが、小動物のような無害さを感じさせる。

…何か食べるのだろうか。ふとそう思って、パンをひとかけ、エルピスの目の前に差し出してみる。

「ぎゃうっ」

するとガツガツと、まるでそれがなんなのかわかっているように貪った。そもそも、腹が減るという概念があるのだろうか。

好奇心のままに、パンを頬張るエルピスの背に手を伸ばし、撫でてみる。

「もっと食べる?」

「むきゅう」

何故だかもっと食べたいと言われた気がして、パンのもうひとかけらをエルピスのそばに置いてやる。残った半分程度のパンを食べながら教典のページをめくると、ボクの知る神話の続きが書かれてあった。

「むぐ…パンドラ戦争?」

聞き覚えのない単語に、パンを食べる手が止まる。どうやらパンドラの箱がきっかけの戦争が起きていたらしい。パンを飲み込み、読む方に集中する。

パンドラは元々天使で、ある日突然災いの詰まった箱を残して悪魔のはびこる地獄へ旅立ったという。

…ボクとしては、悪魔側の歴史書が欲しいものだが…そんなものは地獄にでも行かなければないだろう。今ボクがたよれそうなのは、真実を知っているであろうエルピスだけだ。

「エルピス、少しい」

少しいいかな。そう言い切る前に、その小柄な怪物はこちらへ飛んできた。

「ぎぃぃぃいッ!」

風を切るような速さで教典を叩き落とす。鈍い音を立てて力無く倒れ込むその本は、どんどん紙吹雪に変わっていく。

「ぎりゃああああ!」

散り散りになった紙の山をさらに散らすエルピス。恐ろしい半面を見た恐怖と裏腹に、あとの掃除を考えるくらいの冷静さもあった。

暴れ回るエルピスに、箱を持って近付く。

「もうその本は死んだよ。」

「ぎぃぃ…」

「戻る?」

箱を差し出すと、エルピスはのしのしとこちらへ向かってくる。箱の中で丸くなるエルピスに、先程のような恐ろしさはない。

紙屑のあと片付けをしながら、ボクは頭を整理した。エルピスにとってクラミテン教は悪。そしてボクはもっと他の教えを調べなくてはならないことと、大昔の戦争についても調べなくてはいけないこと。

春休みが終わるまではまだ時間がある。さて、明日から早速図書館へ行こうかな。

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