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虹の遺灰  作者: 狗ろA夏
2/8

箱の中

その夜は、不思議な夢を見たような気がする。気が付いたら朝になっていて、もう覚えてなどいないけど。

そうだ、祖父の言っていたパンドラの箱とやらを開けなければならないのだった。朝ごはんを手早く用意していると、父さんが起きてきた。

「あ…おはよう、オルク。早いな。」

「おはよう、父さん。父さんの分も作ってあるよ。」

ボクは答えながら皿をふたつ机に置いて、さっさと食べ始めた。普段なら父さんの分なんて作らないけど、一応、ボクにできるだけの気づかいはするつもりだ。いちばん辛いのは、父さんだろうし。

「ごちそうさま。」

かたり、と皿を持って台所へ向かう。水作業は無心になれていいものだと、昔ママは言っていたが、ボクにとってはただの作業にしか過ぎない。そんなことをしていると、父さんが台所へ近付いて来た。

「…あの、オルク。」

「どうしたの?父さん。」

「いや…ありがとう。」

「あぁ。どういたしまして。」

まだぎこちない父さんとの会話を終えて階段を上がる。当たり前だが、祖父の死を引きずっているようだ。パンドラの箱にのめり込むのも良いが、父さんの支えになれる人にボクはなるべきだろう。

「出来ることは少ないかも知れないけど、ボクのこともちゃんと頼ってね。」

そう言うと、父さんは少し驚いたあと、微笑んだ気がした。

父さんは、今日はクラミテン教の教会に顔を出しに行くらしい。ボクなら少なからずバカバカしいと思うが…父さんも祖父の子だ。祖父程では無いが熱心な信者なのはボクも知っている。…ママは他の神さまを信じていた事を言えずに死んじゃったけど。

幸い、今は春休みだ。少ない課題も終わらせているし、あとは新しい学校へ行けばいいだけ。

心配事をあげるとすれば、全寮制のゼヘルア総合学校のあるアーメイドの中央へ父さんをひとり残して行くことくらいだ。西の辺境にひとりは、宗教にすがっても少しは寂しいだろう。これがボクの思い上がりならいいんだけど。

心配しても仕方がない。ボクは祖父の部屋へ行き、パンドラの箱を探すことにした。相変わらず、整頓されてはいるがとにかく物が多い。箱の場所くらい、書いて置いて欲しかったが仕方がない。ボクは地道に箱を探すことにした。


「はぁ…。」

数時間ぐらいが経って、ボクはパンドラの箱のかたわらで大きなため息をついていた。ついさっき気が付いた。書いてあったのだ、パンドラの箱の場所が。

「これを見落とすとは…」

ノートには革製のカバーがされてあった。パンドラの箱の場所は、そのカバーの内側に書かれてあった。それも丁寧に図付きで。

「本が箱になっててその中に鍵があってその鍵で倉庫の扉を開けろって…」

このまま探し続けていたら、少し常識に囚われていたボクは永遠にパンドラの箱を見つけられなかったかも知れない。

そして箱の中身についても少し書いてあった。どうやら箱の中には「エルピス」というものが入っているらしい。それが本当かどうかは、開ければわかる事だ。何となく箱を持ち出し、倉庫の鍵を閉める。もちろん鍵も元の場所へしまっておいた。ボクは自室でパンドラの箱を開けることにした。

ゆっくりと、箱の蓋を持ち上げる。どくり、どくりと規則的な自分の心臓の音が聞こえる。そして、その静寂は、突然破られた。

「くきゃあ」

「…は?」

箱の中に、エルピスがいたのだ。

「きぇう」

箱の中に収まるその小さな生き物は、ボクを見上げている。短く白い体毛に首周りの薄青いたてがみ、湾曲した角が長い耳の上から一本ずつ生えている。背中からは鳥の羽根が蝶のように二対もあり、目は竜のように瞳が角度によって変わって見える。その上今は閉じているが額にもう一つの目がある。

「ぷしきぇ」

それが今、目の前で鳴いている。

「キミが、エルピスなのか…?」

「きぇ、くきゅ」

喋っているのか、ボクの言ったことを理解しているのかも分からないが、おそらくこの生き物がエルピスなのだろう。仮にそうでなかったとしても、なにかの縁だ。

「おいで、エルピス。」

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