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虹の遺灰  作者: 狗ろA夏
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祖父の信じた神

天使、悪魔、人間…その他にも多種多様な種族や生き物が混在する世界、アーメイド。

この世界は昔、人間や天使にとって楽園だったという。にわかには信じられないが、人は極彩色の虹の輪が支える浮島で暮らし、その浮島に流れる澄んだ川の水を飲み、浮島に生えた木から採れる黄金の果実を食べれば生きて行けたそうだ。


でも、そんな生活はある日終わったらしい。一人の人間が、いつものように木の実を採りに出かけたところ、道に見慣れない箱が落ちていた。箱にはパンドラとだけ書かれており、不思議に思ったその人間は箱の蓋を開けたのだ。

箱の中からは、恐ろしいものがたくさん飛び出してきたという。ふんわりとした説明しか聞かされなかったが、災害や病気などのことだろうか。

その人間が、天使さまに助けを乞うと、天使さまはこう仰ったそうだ。


「ああ、人の子たちよ。守ってやれなくてすまない。それはきっと恐ろしい悪魔たちのしわざだ。悪魔と敵対する私たちの元へいては危険だ。この聖火を持って地上に逃げなさい。」


天使さまの言葉に従って、人々は今のように地上へ降り立った。


そんな話をよく話していたな…かなり偏った人だったがこれでもこのボク、オルク・フロウの祖父フランツ・フロウだったのだ。葬儀には参加しなければいけない。息苦しい真っ黒な服を着て、唇を噛む。周りの大人たちは皆すすり泣いているようだ。

彼らにとってボクの祖父は熱心な模範的信者であり兄弟だったのだろう。まあ、祖父の信仰していた宗教…俗にクラミテン教などボクは根っから信じていないからあまり分からないけれど。


その日の夜、妻のみならず父親までも亡くし悲しみに暮れる父さん…ジョーン・フロウをよそに、ボクは祖父の遺品整理…というよりかは祖父の部屋を漁っていた。

さっき、根っから信じていないとは言ったが、それは好きか嫌いかとは全くの別だ。ボクは祖父の話すその教典を夢物語としてよく聞きに行ったものだ。他になにか目ぼしいものが部屋に転がっているかもしれない。

決して祖父の死を肯定する訳では無いが、祖父は確かにボクに約束してくれたのだ。確か…


「お前は選ばれた子じゃ、オルク。いつかわたしが死んだ時、教典の真の意味を理解するために、わたしの部屋である物を探しなさい。」


とか、言ってた気がするな。それにしても引っかかるのはその『ある物』が何なのかだ。もしかすると、クラミテン教の聖遺物でも眠っているのかも知れないけれど。


ともかく、祖父には悪いがお世辞にも澄んだ空気とは言えないこの部屋に長居はしたくない。とりあえず目につく場所にあった教典らしき本何冊かと祖父が書いたものと思われるノート数冊を両手で抱えて自室へ運んだ。


教典…は分厚いしとりあえず後でいいか。ボクは数冊のノートの方を軽くパラパラとめくり内容を確認した。計8冊の内、4冊は日記のようだった。日付を見るに、他にも日記はあるのかもしれない。残りの4冊は、教典関係のことが書かれたもの、遺産について書かれたもの、おそらく父さんへ向けられた手紙、そしてボクへ向けられた手紙と思われる内容のものだった。

遺産のやつと父さんへの手紙はまとめて父さんの所へ持って行くことにした。父さんもだいぶ落ち着いたのか落ち着こうとしているのかキッチンで立ったままコーヒーを飲んでいるところだった。


「ねぇ、父さん。少しいいかな。」


優しめに声をかけたつもりだったが、少し驚かせてしまったのだろうか、父さんの声は少し震えていた。


「あ、ああオルクか、どうしたんだい?」


「これ、おじいさんの部屋から出てきた。父さんが持っているべきだと思って。」


昔から変わらない、ぎこちない会話を交わしてノート2冊を机に置く。


「ああ、わざわざすまない…。」


目的が済んだのでさっさと自室へ帰って来てしまったが、どういたしましてくらい言うべきだっただろうか。

…元々ボクはママの連れ子だ。おまけに、ママは再婚してからすぐに病気で命を落とした。父さんにしてみれば、ボクは自分の子では無い、妙に冷静で大人びた不気味な子でしかない。


ん?待てよ、じゃあなんでボクの祖父はボクにあんなことを…?父さんに言うのが普通は自然だろうに…?


今度はじっくりと、ボクへ充てられた手紙のような部分を読んでみる。大部分はたやすく予測できそうな内容だったが、気になる文が幾つかあった。


「お前のなかには天使さまが眠っている」


「天使さまがもうすぐ目覚めるだろう」


「地上へ侵略する邪悪な悪魔を止めろ」


「私の部屋に、パンドラの箱がある。それを開けなさい。」


今でも全く信じちゃいないが、ボクの中の祖父像が、少し変わった。全く熱心な信者だ。祖父が…あの祖父があのパンドラの箱を持っていると?おまけにボクにそれを開けろと言うのだ。心の底から面白いじゃないか。

ボクは素敵なプレゼントを用意していてくれた祖父に感謝しながら、眠りについた。

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