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95.圧倒の炎天使。立ち向かえアキラ!

 効果を使ってグラバウを処したばかりの炎の機械天使が、再び動き出す。まさかの展開に目を剥くアキラに構わず泉は手札から一枚のカードをファイトボードへと叩きつけた。


「第二の効果は手札から5コスト以下の赤・白ユニットを呼び出すというもの。それによりオレは二枚目の《背反説きのルインコスタ》をコスト無しで召喚!」


「っ、踏み倒し召喚か……!」


 アキラは納得する。赤らしい攻めに向いた攻撃的な効果と、白らしい増援を呼んで守りを固める効果。なるほど白赤のミキシングらしく双方の陣営の特色が反映された能力をエノクリエルは有しているようだ……しかもそのどちらもが登場時効果ではなく起動型効果。プレイヤーの任意で毎ターン発動できる効果であることは、言わずもがなアキラにとって恐るべき脅威であった。


 何せエノクリエルが生き残れば生き残るだけ彼のユニットは破壊され、反対に泉のユニットはコストを用いずに増えていくことになるのだから。


「ルインコスタの登場時効果を発動する。エノクリエルは白ユニットでもあるが同時に赤ユニットとしても扱うために、一枚ドローだ」


 ミキシングカードの特徴を巧みに利用している。泉のプレイングとそれを支えるデッキビルディング能力は、流石は超天才ミオを育てた父と言えようか、あまりに卓越している。これが元プロの実力。ムラクモ曰く本気の勝負を長年していないが故に腕は現役時代と比べて間違いなく錆び付いているとのことで、それはおそらく確かな事実なのだろうが……だとしてもアキラからすれば泉は強過ぎるほどに強い。あっさりとやられてしまったグラバウに守れなくて申し訳ないと思う──が、そんなカードを愛するが故の感傷すら置き去りにファイトは進む。


「悔しがるには早いだろう若葉アキラ。オレのターンは! エノクリエルの脅威はまだ終わりじゃないぞ!」


「!?」


 泉が手を翳すと、その真上にいるエノクリエルが白い炎を妖しく揺らめかせながら三度動き出す。


「エノクリエルは第二の効果で呼び出したユニットの色によって異なる追加効果を得るのだ」


「な!?」


「白陣営のユニットを呼び出した場合は──レストせずにアタックする権利だ! これによってエノクリエルは【疾駆】のように召喚されたターンでも攻撃可能となり、しかもスタンド状態を維持したままで相手ターンを迎える! まさに隙なしの強力な効果──更にその上で! 貴様にとってはバッドニュースなことにこいつは【重撃】も持っている!」


「……!」


 【重撃】。そのキーワードに表情を硬直させたアキラを見て泉は邪悪な蛇を連想させる捕食者めいた笑みを浮かべる。


「ククク! 《水の静謐アクアトランサ》を知る貴様に解説は不要だろうがあえて事前に言っておこう。これよりエノクリエルは! 一度の攻撃で貴様のライフコアをふたつ葬るとな!」


 やってしまえエノクリエル! という泉の号令に此度は二振りの炎の剣を構えた機械天使はそれを同時にアキラへと振り下ろした。ドガガン! と絶え間ないふたつの衝撃がひとつなってアキラを襲い、それを庇った個のライフコアが彼の身代わりとなって散った。


「くっ……だが! アクアトランサと違ってエノクリエルにはクイックチェック封じの能力はないな!」


 砕かれたライフコアが最後の力でデッキの上からめくった二枚のカード。それがそのまま手札に加わったことでアキラは、ならば絶望には遠いと意気込む。


「引いた二枚の内! 一枚はクイックカードだ!」


「!」


「来い、クイックユニット! 《闇重騎士デスキャバリー》!」


 《闇重騎士デスキャバリー》

 コスト5 パワー4000 QC 【守護】 【復讐】


 死した騎馬に跨る死した騎士。闇色の槍と盾を重厚に構えた彼は亡者ながらに神の使いを恐れる様子もなく真っ黒な眼窩で睨みつけた。己が主君の最大の敵が誰であるかをデスキャバリーは自ずと理解しているようだった。


「ほう、【復讐】持ちのユニットを出してきたか──だが無意味だ。レストしていない以上エノクリエルにバトルを仕掛けることはできない! 如何に厄介な道連れ能力だろうとデスキャバリーにできることはないのだよ」


「……!」


 泉の言葉は正しい。次のターンでデスキャバリーは攻撃権を得るものの、彼が能動的にアタックできるのはプレイヤーである泉だけ。【好戦】を持たない彼では能力によってスタンド状態を維持しているエノクリエルには文字通り手も足も出せない。


 ならば相手ターンでガードを行なうという【守護】持ち本来の役目を果たさせれば、とも思うが。それが通用するとはどうしてもアキラには考えられなかった。エノクリエルには破壊効果もあるのだ。対象となるのはレストしているユニットのみに限られるが、そこは泉のこと。その能力を最大限に役立てるためにこちらのユニットをレストさせる手段を忍ばせていてもおかしくない──いや、きっとあるに違いない。そう思っておいた方がいい。


 エノクリエルを生かしたままターンを明け渡せば、デスキャバリーは確実に何もできないまま処理される。とはいえ今のアキラの手札にエノクリエルをどうにかできるようなカードはなく。


「だったら引くしかないってことだな」


「ハッ! できるかな、貴様なんぞに。オレはこれでターンを終了する……さあ貴様のターンだ! 望みの結果を引き当てられるかどうか試してみるといい」


「言われなくたって──俺のターン! スタンド&チャージ、ドロー!!」


 各段の気合を込めて引いた、そのカードは。


「よしっ! 俺がドローしたのは《ダークパニッシュ》! そのまま即座に発動、相手ユニット一体を破壊する! 対象は《焔光の天徒エノクリエル》だ!」


 アキラが突き出したスペルカードより迸る黒の閃光。白い炎を塗り潰すようにしてエノクリエルを襲ったそれは瞬く間に神の使いを永遠の闇へと落としてみせた。炎の剣による抵抗も虚しく機械天使は破壊され、泉の場には非力なルインコスタが残るのみ。


「どんなに強力なユニットだって破壊耐性がなければこんなもの、ってね。どうだ泉モトハル! お前の切り札を破ってみせたぞ!」


「ククク……切り札、ね」


「?」


 メガネに指先を当てながら不気味な笑い声を漏らす泉。その不審な様子をアキラは訝しんだが、当の本人は疑問の視線をまったく気にせずに続けた。


「気付いていないのか若葉アキラ。あと一枚・・・・。デッキを掘り進めることができていれば、お前は先ほどのクイックチェックで《闇重騎士デスキャバリー》と《ダークパニッシュ》を同時にプレイできていた。そうすればこのターンにやれることももっと多かったろうになぁ」


「……それがどうした」


「まったくもって最善を引けていない、ということだよ若葉アキラ。オレに押されて貴様自慢の運命力が! トーナメントでも目立っていたその引き運が、今この時は陰りを見せていると言っているんだよ!」


「だからそれがどうしたって訊いているんだよ──満ち引きあって当然の運だ。ファイトの全てをそれに託すほど俺はヤワなドミネイターのつもりはない……! 仮にあんたに押されて流れが掴めずにいるのが本当だとしても、だったら強引にでも無理矢理にでも! あんたから流れを奪えばいいだけだ!」


「流れを奪う。それだけのことができずに苦汁を舐めるのがドミネファイトだろうが!」


「そんな理屈は俺から流れを守り切ってから言うんだな──バトルだ! 行けっ、デスキャバリー! 泉モトハルへダイレクトアタックだ!」


 疾走する騎馬。その上で槍の持ち手を引き絞った騎士は、馬の突進に合わせてそれを勢いよく突き出す。閃光の如き鋭さで放たれた刺突が泉のライフコアをひとつ削り飛ばした──これで互いのライフは共に四。ファイトは中盤に差し掛かろうとしていた。



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