93.急速激化、火花散るファイト!
「ティティか……ふん。緑の決まり切ったパターンだな」
《恵みの妖精ティティ》
コスト3 パワー1000
召喚された妖精がデッキに向けてそよ風を起こし、主人へと二枚のドローを献上する。それを受け取るアキラの所作も実に手慣れたもので、決まった定石のひとつであることは確かである。そしてその後の彼の行動もまた泉が予想した通り。
「引いた内の一枚を手札に、もう一枚をコストコアに。増えた分と合わせての2コストでこいつを召喚だ。来い、《幻妖の月狐》!」
《幻妖の月狐》
コスト2 パワー2000
「やはりな」
それはアキラがほぼ確実にデッキに採用する小型ユニットの一体。合同トーナメントの観戦時に泉もその召喚を何度か目にしていることから、《ワイルドボンキャット》のようなレアカードを新たに組み込んではいても、大会時とはまったく別物のデッキになったというわけでもないようだと当たりをつける。
少なくともティティや月狐のように「デッキを回す」(※いわゆるドロー加速やコストコアブースト、サーチ効果などを駆使して手札事故を回避したり、ファイト展開のスピードを速めること)ためのアド稼ぎ要員たちが続投されているのは間違いない……となればデッキコンセプトにも大きな変更はあるまい。歴戦のドミネイターである泉には既にアキラの動きが、その目指すファイトが透けて見えるようだった。
「月狐の登場時効果! 一枚ドローし、手札から一枚捨てる!」
(コストコアを増やす傍らドローを重ねて目当てを引きにいく。そして切り札カードを叩きつける、と。……相も変わらず緑の基本に忠実な戦い方を守っているとは進歩の無い。その速度こそ以前より増しているようだが、しかしこの程度であればどうということもない──)
手札を入れ替えて、このターンにやれることはやりきったという充足感があるのだろう。満足気にエンド宣言を行うアキラに鼻を鳴らしつつ泉はターンを開始する。
「オレのターン、スタンド&チャージ。ドローする」
引いたカードと己が手札。そして相手の状態を今一度確認する。泉の感情は激していても思考回路は冷静沈着、そしてアキラを明確に格下と認めつつもだからといって油断など一切していなかった。
フィールドにはユニットが二体、手札は五枚、コストコアは既に五つも溜まっている。二ターン目でこの状況なら単純なビートダウンとしては満点に近いだろう。戦い方に代わり映えこそないがアキラが大会時よりも成長していることは確か。だとすれば、いかにアキラが短期決戦を目指しているわけではなくとも。
「──あまり悠長に構えてもいられないか。ならばオレは再びディスチャージを宣言する」
先行プレイヤーとは違い後行プレイヤーには一度のみでなく、二度まで。損失補充によってコストコアか手札のどちらかを増やす権利が与えられている。それを手早く使い切った泉がライフコアを犠牲にチャージしたのは、やはりコストコアの方だった。
「スペルを発動だ。コスト2、《プログレッシブ・コード》。相手の場のユニットが自分の場のユニットよりも多いため、手札からコスト3以下のユニット一体を呼び出せる」
以前にオウラも使った《プログレッシブ・コード》は互いのユニット数が互角であれば詠唱コストと同じサイズであるコスト2以下の白ユニットを呼び出すだけのスペル。ただし今回のようにフィールドの状況で劣勢の場合に使えば1コスト分だけお得となり、しかも呼び出すユニットの色の制限も取り払われる。故にここで泉が選んだのは。
「赤ユニット《鉄影のガンドン》を召喚。登場時効果を発動……する前に、使い終わった《プログレッシブ・コード》は自身の効果によりコストコアへと変換される」
「……!」
「改めてガンドンの効果を発動。パワー3000以下の相手ユニット一体を破壊する。対象とするのは《恵みの妖精ティティ》だ」
「っぐ!」
重火器と大岩が合体したような、見るからに重々しい黒い体躯を持つ怪物。彼がその口内より発射した砲弾によって小さな妖精は跡形もなく吹っ飛んだ。そのどう見ても過剰な攻撃によるやられぶりにも、そして泉のプレイングにもアキラは戦慄する。
白のスペルで赤のユニットを1コスト踏み倒して呼び出し、こちらのユニットを排除しつつコストコアのブーストまでしてみせた。この一連の動きには無駄がなく、そして赤白構築の利点が最大限に活かされたものだった。白だけでも赤だけでも同じことはできない──そのどちらもデッキに投入し、そして十全に操れているからこそのプレイング。やはり泉の構築センスとファイトタクティクスは自分よりも数段……あるいはもっと上である。そう認めざるを得ないアキラだった。
「残りの2コストで《背反説きのルインコスタ》を召喚する。こいつは結束の強い白陣営においての異端でね。登場時、俺の場にいる白以外のユニットの種類だけデッキからドローすることが許される」
「! また混色構築で活きるカード……!」
「当然だろう。こういった、陣営を跨ぐ代わりに強力な効果を有すカードを使えること。それが色を混ぜる強味なのだからな。ガンドンを参照しカードを一枚ドローだ。オレはこれでターンを終了する」
《鉄影のガンドン》
コスト3 パワー3000
《背反説きのルインコスタ》
コスト2 パワー2000 【守護】
泉の場にはユニットが二体、手札は四枚、コストコアは五つ……並ばれたな、とアキラは冷静に考える。順調な滑り出しによって多少は有利を作れたと思ったのも束の間、いとも簡単にひっくり返されてしまった。緑の性能をフルに使ってアドバンテージを稼ぐこちらに対し、泉は白赤というそれに向かないカラーで並走してくる。なんとも恐ろしい話だが……けれど、ゾクリと背中を粟立たせながらもアキラは笑う。
そうでなくては面白くない。元プロの強さを充分に発揮してもらわなくては──この男を打ち倒す意味がない!
「俺のターン! スタンド&チャージ、ドロー!」
泉の淡々としたファイト進行とは正反対の威勢に満ちたアキラのスタートフェイズ。その溌剌とした様子を見て泉が眉をひそめた。
「随分といい顔をする。余計な世話、ただの偽善とはいえ、一応はミオを救うつもりでここにいるのだろう? この悪辣な父の魔の手からな……だったらそれに相応しい態度というものがあるんじゃないのか? 貴様のその顔付きはあたかも。口にも出したくないことだが──まるでこのファイトを」
「ああそうさ。楽しんでいるよ、俺は」
「!」
「ミオを救うことにもっと真剣になれ、なんて。まさかあんたが言わないよな? あんたにそんなことを言う資格はないし──言われなくたって俺は真剣だ。真剣にこのファイトを楽しんで、そして勝つ!」
行くぞ! と一枚のカードを手札から引き抜いたアキラはそれをファイトボードへ勢いよく置いた。
「《呼戻師のディモア》! 召喚!」
《呼戻師のディモア》
コスト4 パワー2000
濃紺のフードを目深に被った性別不詳の小柄なその人物は、場に表れると同時に懐からベルを取り出してそれを縦に振った。りぃん、と涼やかだがどこか寂しくも聞こえる音色が辺りに響く──その音に応えるようにフィールドには変化が起こった。
「ディモアの登場時効果を発動! 自分の場の他ユニット一体を破壊することで、墓地にいる黒以外のユニット一体を蘇生させる!」
「入れ替わりの蘇生召喚だと……!」
その思わぬ戦術に泉が驚くのにも構わず、アキラが蘇生対象としたカードは。
「《幻妖の月狐》を生贄に、墓地より来れ! 俺の切り札──《キングビースト・グラバウ》!」
「……!」
《キングビースト・グラバウ》
コスト7 パワー7000 【好戦】
巨獣が吠える。




