91.オウラVSミオ! 白熱のリベンジマッチ
「《スコードロン》を召喚。登場時効果により、ボクの場のもう一体の《スコードロン》と君の《智天星エル》をそれぞれ手札に戻す」
「あら、またしても振り出しですわね。《スコードロン》二枚による相互コンボ……仕組みは単純なれど厄介極まりないこと」
互いに手札へ戻し合う反復横跳びを繰り返すことで、毎ターン相手ユニットを確定バウンスする。その戦法でオウラは彼女の定石である『エンディア』ユニットで築く鉄壁の布陣を完成させられずにいる。必殺の型を封じつつ、その隙にミオは自分だけ詰めへと進む。……この展開は合同トーナメントでぶつかった時とまったく同じ構図であり、故にミオは小さく息を吐いた。以前の彼とは打って変わってファイト中に大袈裟にはしゃぐようなことこそしないが、しかしそこに滲む感情──落胆は隠しきれないようで。
「なんだ。リベンジなんて言うからどれだけ変わったのかと思えば、なんてこともない。結局ボクの戦法に対処しきれてないじゃないか」
前回から何も学ばなかったのかと。そう呆れる彼にオウラは優雅な笑みで応じた。
「前回わたくしは、あなたのバウンスと【潜行】ユニットの連打に対応しきれず、序盤についたライフ差を覆せずにそのまま敗北しましたわ──よってあなたの質問には『ナンセンスだ』と答えさせていただきましょうか。屈辱という高い勉強代を払って得た教訓を、まさか無駄にするはずがないでしょう? あのファイトからは大いに学ばせていただきましたわ」
バウンスとは破壊耐性や高いパワーもお構いなしで決まる、オウラの鉄壁とは相性最悪の除去。それによって戦線をボロボロにされた挙句、【潜行】という『ガードされない』能力持ちのユニットで攻め立てられた。波濤の如きその攻勢に耐えられず落としてしまったあの勝負はオウラのプライドを大きく傷つけた。絶対のライバルと見ていた紅上コウヤを下して絶好調でいたはずのところ、物の見事に足をすくわれた形だ──まさしく屈辱以外の何物でもない。
人によってはトラウマになってもおかしくない敗北を経て、しかしオウラはめげずくじげず落ち込まず。これはより高みへ昇るための試練である。そう捉え、努力により一段と実力を伸ばした。その自信があるからこそこうしてミオにリベンジを挑んでいるのである。
「あっそう……その割には今回も何もできてないけど。相も変わらずの鉄壁を目指す戦い方。それじゃあボクに勝てないってわかってるはずでしょ? だってオウラは古典的な白使いなんだから」
そもそも陣営には相性というものがある。例えば緑陣営で言えばその基本がコストコアを増やして早期に大型ユニットを呼び出すという戦法の都合上、呼び出すよりも先に決着がついてしまう程に攻めが激しい赤陣営や、せっかく呼び出した大型ユニットも簡単に処理してしまえる黒陣営を苦手としている。その反対に白陣営は序盤から【守護】持ちを並べることで赤をシャットアウトし、破壊耐性の付与によって黒の破壊を躱せるといった具合に、特色によってある程度の有利不利が存在するのだ。
それを鑑みればミオの発言はどこまでも的を射ている、とオウラ自身認めざるを得ない。
何せ互いを強化し合う『エンディア』の守護者を並べるというデッキコンセプトを青陣営お得意のバウンスは真っ向から否定し、しかもこれまた青に多い【潜行】能力を持つユニットが白陣営にはほとんど存在しない。【潜行】ユニットのアタックは同じく【潜行】を持つ守護者でなければ防げない。一見して相手からのアタックにも制限をかけられる【飛翔】の下位互換のようにも思える能力だが、しかし【飛翔】持ちでも【潜行】持ちのアタックは防げないのだからこのふたつは単純な上下関係にはない。
とにかく総じて青の特異な攻め方は白にとって対処に困るものである、ということ。高パワーを誇る守護者の上から更なる高パワーで殴ってくる緑に対しても白は不利を押し付けられるので、取りも直さず奇策を弄する青と並んで脳筋を苦手としている点は少々面白い事実だろう。
「変わり種の戦い方をするならともかく、白のお手本みたいな王道デッキ。それを武器にする以上君はボクが使う青に手も足も──」
「出る、と言わせてもらいますわ。ファイト前に忠告したはずでしてよ泉ミオ。今日のわたくしをあの日のわたくしと同じとは思わないことだと!」
「……ふうん。だったら早くその言葉の真意を教えてほしいものだね──《リールイール》を召喚してワンドロー。これでボクはターンエンドだ」
連続バウンスによって空っぽになっているオウラのフィールド。今からまた鉄壁を形成しようにも、それが完成を見る頃には先にミオが詰めていることだろう。手札だけは豊富だが、しかし一ターンに使えるカードは限られている。今の彼女にできるのはバウンスされないことを願って今し方手札に戻った《智天星エル》や、それ以上に重いユニットを呼び出すか。はたまたある程度手札に戻されても痛くないように軽いユニットを何体も並べるか。それくらいのものだとミオは考えており、そしてその予想はやはり超天才らしく実に正確であった。
「わたくしのターン、スタンド&チャージ。そしてドロー……いきますわよ。わたくしはこのユニットを召喚!」
「!」
《小天星ルル》
コスト1 パワー1000
それは球体状の身体を持つ小さな小さな天使。『エンディア』の中でも最も非力でなんの力も持たない無能力ユニット。鉄壁に寄与しないそんなユニットをこの場面で呼び出すからには、オウラの選択は大量の小型ユニットを並べることであろう、と。
「わたくしはスペル《天の梯子》を発動。効果により、場のコスト2以下の『エンディア』ユニットを対象とし! その同名カードをデッキより可能な限り場に呼び出しますわ!」
「デッキからの召喚……」
そこまでは正しく見抜いていたミオだが、その呼び出し方。そしてそこから先のオウラの行動は彼にとっても予想外のものだった。
「デッキよりおいでませ、二体のルル!」
《小天星ルル》×3
オウラの場に並ぶ三体の小天使。『可能な限り』とあるのに四体揃わなかったのは、手札かコストコアにでも四枚目が眠っているか、あるいは元より三枚までの採用に絞っているのか。いずれにしろたかだか最軽量ユニットが三体場に出たところで大した脅威にもならない……というミオの思考は、召喚主であるオウラからしても同意できるものであり。
「《天の梯子》で呼び出されたユニットは能力を無効化され、アタックも封じられますわ。とはいえ元より脆弱な子たちですから何を封じられようとも相対的に些末ですけれど」
「そう思うのならなんでそいつらを呼んだのさ」
「無論、勝つため」
「……?」
発言の意図が掴み切れず眉根を寄せるミオに、オウラはまるで答え合わせをするように手札から新たなカードを引き抜いた。
「続けて発動──《光来の儀式》! このスペルは自分の場に同名の『エンディア』ユニットが三体以上いる時にのみ発動可能! これによってわたくしはデッキ・手札・墓地! どこからでも好きな『エンディア』ユニット一体を召喚することができますわ!」
「っ、そんなカードを握っていたのか」
とするとここで呼び出されるのは、前回のファイトでも登場したオウラの切り札《天星のアルファ》に違いないと当たりをつけたミオだったが、それをオウラは見越したように言った。
「あなたには鉄壁が通じない。そう学んだからには──鉄壁に頼らず勝つ! わたくしの決意とその象徴をとくと刮目し照覧めしませ!」
「!?」
「降臨せよ、我が第二の切り札! 《極天星オメガ》!」
小天使たちが音を奏でる。まるで歌うように紡がれたメロディーが天よりの光を呼び、そこから姿を現わす巨大にして威光に満ちたその影。《天星のアルファ》にも劣らぬ迫力を全身に纏ってフィールドに顕現したオメガは、敵であるミオを遥か高みより見降ろしていた。
「オメガ、だって!?」
「もう一度言いますわよ泉ミオ──このリベンジを意義あるものとするためにも! あまり簡単には負けてくれるなと!」




