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78.獣王の遺産

「《ビースト・オブ・レガシー》は本来なら唱えるために4コスト必要なスペル。だけど《妖精たちの賛歌》のようにこいつにも軽減効果があってね。俺の墓地にいる『ビースト』ユニットの数だけコストが軽くなるんだ」


「……!? 《ビースト・ガール》を召喚したことで君のコストコアは残り一個になっていた。つまりそのスペルのコストを3も軽減したことになる──だとしても! 君の墓地にいる『ビースト』はさっき《ヴィクティム・マシーン》への生贄に選ばれたレギテウだけのはず! それだと1コスト分しか軽減できないはずじゃ……!」


「それはどうかな?」


「!」


 アキラが墓地ゾーンからビーストと名の付くカードを取り出し、ミオに見せつける。そこにはミオが言ったように《バーンビースト・レギテウ》の姿も確かにあったが、しかしそれだけではなかった。レギテウを挟むようにしてもう二枚。《キングビースト・グラバウ》に《クイーンビースト・メーテール》もアキラの手に握られている──馬鹿な、とそれを見てミオは呻く。


「いったいいつグラバウを墓地に……ハッ! そうか、さては二度目のレギテウ召喚時! 手札コストにしたあの一枚が──」


「そう、グラバウだったのさ。お前からすればよりにもよって捨てるために選んだ一枚がエースカードだったなんて、予測できなかったろう」


「そりゃできるわけがないよ……アキラが普段どれだけビーストを大切にしているか。頼り切っているかをボクはこの目で見てきているんだから」


 そうでなくとも、強力な対ユニット殲滅能力を持つカードをわざわざ進んで墓地へ置くとは誰だって思うまい。しかしあの時アキラの手札には《未曽有の森》でサーチした回収効果持ちの《ビースト・オブ・イノセント》が既にあった。仮にグラバウがどうしても必要となったらイノセントを場に出せば墓地から手札に呼び戻せる。その保険があればこそそういった選択肢も採れる、そこはまだわかるのだが……問題はしれっと面子に加わっている《クイーンビースト・メーテール》の方だ。


 このファイト中には一切影も形も覗かせていなかったそのカードがいつ墓地へ落ちたのか、と新たな疑問にミオが眉をひそめたところで。


「勿体ぶらずに種明かしをするなら、ミオ。メーテールを落としたのはお前なんだぜ」


「アキラじゃなくてボクが落とした──? ということは、まさか」


「そのまさかさ。前のターンのアクアトランサのダイレクトアタック! 【重撃】で二回分のクイックチェックをさせておきながらお前は俺にドローを許さなかった──その時に墓地へ送られた二枚の内の一枚が、このメーテールだったんだ!」


「……!」


 アクアトランサのクイックチェック封じが仇となったか、と思いかけたミオだがすぐにそうではないと考え直す。この能力が仇になるなどあり得ない。墓地利用に長けた黒陣営が相手ならともかくアキラのデッキはほぼほぼ緑主体。クイックカードを使わせるより、手札を増やさせるよりも、引けるはずだったそのカードを墓地へ落とさせた方が絶対にいいに決まっている。


 これはアクアトランサの能力が仇になったのではなく、その強力な効果すらも利用してみせたアキラのプレイングこそが真の脅威である。聡明なミオの頭脳は事の本質を正しく理解し、そしてもうひとつの事実にも行き着く。


「それじゃあ君の『大詰め』への手順。最後の後押しをしたのは、ボクだっていうのか……!?」


「アクアトランサの【重撃】でデッキトップが二枚削られていなければ俺は《妖精たちの賛歌》を引けなかったし、ティティの二枚ドローで《ビースト・オブ・レガシー》を引き込むこともできなかった。いくらデッキ圧縮をしていたと言ってもどちらもこのターンに手中に収めることは不可能だった──最短でもあと数ターンはかかるはずだったんだ。それをミオ、お前がようやく攻めてくれたおかげで俺の詰める速度は各段に速まった!」


「なんだって……そんな、ことが」


 納得はいかないが、しかし理屈としてはそうだ。先のターンで【重撃】による攻撃を行なっていなければ、アキラのドローは今と二枚分ズレていたことになる。そうすれば求めているカードは引けなかったはずで、もしも引く確率を上げようと再び《未曽有の森》のサーチ効果を使っていればその後にデッキが自動シャッフルされ並びはすっかり変わっていた。


 要はアクアトランサのアタックによって追い詰められつつ、しかしそのアタックによってアキラは助けられたというなんとも不可思議な状況となっているわけだが──いや、もう考えるまいとミオは激しく首を振った。彼の卓越した思考力はついどんな事象にも理屈と答えを求めてしまうが。今となってはどうしようもない過ぎたターンのことを振り返るより、気にしなければならないのは断然に。


「《ビースト・オブ・レガシー》の効果……それがどういったものか、聞かせてもらおうじゃないか!」


「はは、ミオ……お前も随分と怖い目付きになってきたな。さっきまでの余裕ぶった顔より、俺もそっちの方がずっと好みだぜ」


「っ……いいから説明しなよ、アキラ!」


「応とも。このスペルの効力はとてもシンプルだ。それは自分の場の『ビースト』ユニット一体に、墓地の『ビースト』ユニット一体の能力を受け継がせるというもの!」


「受け、継がせる……」


 能力譲渡のカード。その特異な効果に驚くミオに構わず、アキラは発動させたスペルの処理へと入る。


「俺が受け継ぎ対象に指定するのは《ビースト・ガール》! そして受け継ぐ能力は《キングビースト・グラバウ》の能力だ!」


 《ビースト・ガール》

 パワー5000→10000


 ガールのしなやかな体躯がミシリと唸りを上げる。筋肉の密度が高まり、見た目そのままに彼女は飛躍的な力を得た──その変化がグラバウの持つ『相手ユニットの数に応じてパワーアップする』能力によるものだと悟ったミオは、「けれど!」と叫ぶ。


「今更アクアトランサのパワーを超えたところでどうなるっていうのさ! ガールは既に疲労レスト済み! 攻撃権を使い切っているんだ! グラバウの【好戦】だって受け継いでいるんだろうけど、もうそれを活かすことはできないはず!」


「いいや! グラバウが持っている能力はパワーアップと【好戦】だけじゃない。『相手ユニット全てにアタックできる』という力を忘れてないか!?」


「それがどうし──なっ、ひょっとして……!?」


「流石だ超天才、すぐに正解に行き着いたな。そう! グラバウは一度のレストで全ての敵にアタックできる特殊なユニット! その力を受け継いだことでガールはユニット限定の特別な攻撃権を得た──たとえレスト済みでもその効果は適用される!」


 やれ、ガール! アキラの号令に従い、行動済みである事実もなんのと動き出して一直線にフィールドを駆けたガールは最後の守護者トークンを一捻りにした。


「四体目の《アクアメイツ・トークン》を撃破! そしてこの瞬間! バトルでユニットを破壊したことによりガール元々の効果が発動する!」


「なんッ……、」


「ガール、起動スタンド! それと同時に相手ユニット一体を破壊する! ダブルクラッチ! 俺が選ぶのは最後の【守護】持ちの《ウォーターメイド・サラリナ》だ!」


 ガールの振った爪から飛び出した斬撃。指の数通りに五つ連なったそれがサラリナをズタズタに引き裂いてただの水へと変える。あれだけいた守護者ユニットが全滅した。そのことに愕然とするミオに、アキラは言う。


「わかっているよなミオ。スタンドしたからにはガールはユニットだけでなくプレイヤーにも再アタックが可能となった。そうしてまたレストしてもグラバウの力によってユニットへのアタックは続行できる。そこのスライムを倒してやれば! 今度はアクアトランサを破壊しながらガールは再び起動するんだ!」


「こ、こんなことが……アタック済みなのに受け継いだ能力でバトルを仕掛けて……それで勝ったから再びダイレクトアタック? こんなバグみたいな挙動……! その繰り返しをするっていうなら、ボクの場にユニットがいればいるほど! ライフコアも際限なく削られていくってことじゃないか!」


「まさにその通り。ミオ、お前が完成させたその布陣こそが! お前を倒す最大の壁にして、最大の鍵にもなった! もう一度ダイレクトアタックだ、ガール!」


「……ッ!!」


 もはや身を守ってくれる盾もなくなった今、ライフコアは簡単に散らされてしまう。舞い散るコアの欠片越しにそれを成した獣少女と目が合い、その冷徹な輝きに射竦められたミオは──ふざけるな、と強く。強く強く、砕けんばかりに歯を噛み締めた。


 そして行われる二度目のクイックチェックにて──。



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