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77.満を持してのビースト・ガール!

「《妖精たちの賛歌》は俺の場に三体以上の『フェアリーズ』がいればコストなしで唱えることのできるスペル!」


「レギテウと同じくコスト軽減効果を持ったカード……それを使うために妖精を並べたのか。それで、唱えるとどうなるってわけ?」


「見ればわかる!」


 《恵みの妖精ティティ》

 パワー2000→5000 【好戦】


 《慈しみの妖精リィリィ》

 パワー2000→5000 【好戦】


 《微睡みの妖精シィシィ》

 パワー2000→5000 【好戦】


「!」


 エリアカードによって強化を受けている妖精ユニットたちが、軒並み更なるパワーアップを果たした。コォオオ、と息吹を吐きながら武道の達人かのような構えを取る彼女らは、容姿こそ元の愛らしい小少女のままなのでいまいち迫力には欠けているのだが……それでもそこに宿っている力は本物だった。一気に増したアキラの戦線の圧力にミオはなるほどと合点がいく。


「『フェアリーズ』専用のサポートカードがあるなんてボクでも知らなかったけど、効果自体は真っ当に緑らしいもののようだね」


「これでティティたちはお前の場のどの守護者にもパワー負けしない上、【好戦】を得られたからこのターン中にアタックを仕掛けることができる」


「ふふん、そうかい。それでアキラはどこを狙うのかな?」


「…………、」


 アキラのユニットが急激に力を得てもミオに焦りというものはなかった。それもそうだろう、彼には五体もの【守護】持ちがついているのだ。仮に守護者たちのガードを乗り越えて今すぐミオにトドメを刺そうとするなら、アキラは計八回アタックしなければならない。単純計算で八体もの攻撃可能なユニットが必要ということになる──。


(【好戦】じゃあプレイヤーにダイレクトアタックはできない。つまりアキラのユニットでボクへアタックできるのはイノセントのみ。だったら……どうせボクを守って散ることが役目の守護者なんだから、狙われるのがサラリナだろうとトークンだろうとスルーして全然いいね。まあ優先的に使い潰すべきはトークンで間違いないけどさ)


 しかしそこが誤差にしかならないほどミオのフィールドは完璧だ。手厚い盾と最強の矛が揃っている。がっしりとトークンで身を守りながら、クイックチェックを許さないアクアトランサであと二度ほど攻撃する。それだけでミオの勝利が確定するのだから太平楽に構えるのも当然というものだった。この状況で唯一の懸念があるとすれば、それは。


(アキラにはまだ二個。未使用のコストコアが残ってるってところだね)


 たった2コストでここから八度のアタックという壁を突破できるとは到底思えないが、一応の警戒には値するだろう。何故ならアキラは明らかに計算しながらカードをプレイしていた。こちらが大詰めの段階に入ったのと同じように、アキラもそこに向かうための準備を進めていると見做すべきだ。その『完成』まであとどれくらいか、は全貌が見えていない今だとミオにも判じられることではないが、しかし当人が諦めていない以上は彼なりの勝利の方程式が用意されているのだろう──それが出来上がるのを待ってあげたりはしないけれど、とミオは笑う。


 こういうのは先に必殺の型に持ち込めた方が勝ちなのだ。


「誰を狙うって、勿論まずはより高パワーの守護者! 《ウォーターメイド・サラリナ》だ! 行けっ、シィシィ!」


「順当に来たね。それじゃ一応、より低パワーの守護者を身代わりにしておこうかな──《アクアメイツ・トークン》でそのアタックをガード!」


 重そうな瞼はそのままに、しかし眼差しにギラリと暴力的な輝きを混ぜてシィシィが敵へと飛びかかる。命令通りにサラリナに向かっていった彼女だが、横合いから飛び出してきた水のトークンがその進行を阻まんとする。故に標的変更、一切の迷いなく振るわれた小さな拳は彼女の邪魔をした水人形をパンッと弾けさせた。


「続けてティティ、ミィミィでもアタック! 攻撃対象は変わらずサラリナだ!」


「あはっ。だったらこっちも続けてトークン二体でガードするよ!」


 妖精の拳によって散らされるトークン。同じ光景が二度、三度と繰り返され、ミオの守護者は三体減ったもののサラリナは無事。対するアキラにはイノセントにしかアタック権が残されていないが、強化込みでもパワーが3000しかない彼では4000のサラリナに迎撃されてしまう。攻めたところで無為にユニットを失うだけ……故にアキラはイノセントのアタックの前に、手札からある一枚のカードを引き抜いた。


「最後に呼んだミィミィにも妖精らしい能力がある。それは彼女の登場時、自分の場にいる種族『フェアリーズ』の数だけ次に召喚するユニットのコストを軽くするというもの。俺の場にはミィミィ自身も含めて三体の妖精がいる──よって3コスト軽減し! コスト1で《ビースト・ガール》を召喚する!」


「……! ここでガールの再登場か」


 《ビースト・ガール》

 コスト4 パワー4000→5000 【疾駆】


 まさかコストコア一個の消費で呼び出してくるとは、とさすがのミオも顔をしかめる。《未曽有の森》でパワーが上がったガールは彼からしても厄介な存在であった。何せ彼女が一体でもバトルでユニットを破壊すればその効果が発動し、別のユニットまで問答無用で道連れにされてしまうのだから。


 けれども、だ。


「アキラがそのカードを頼りにしているのはよく知っているけど。でもどうするの? ボクの場でレストしているのはパワー9000のアクアトランサ! 自慢の効果を活かそうにも《ビースト・ガール》が倒せるユニットなんてここにはいやしないよ」


 あるいはもっとパワーが上がっていればガールは確かに逆転の一手にもなり得ただろう──と言っても、もしもアクアトランサがやられたとしてもどうということはないのだが。既に手札に来ている二枚目のアクアトランサをちらりと見ながらミオは確信する。やはりアキラに逆転はない。ここから奇跡のような手腕でこちらの場に壊滅的な被害を出してきたとしても、返しのターンですぐにも戦線は再構築される。【疾駆】を得るアクアトランサであればガールを屠ることも容易い。まったくもって問題はない。その考えの正しさを証明するように、アキラはミオの計算通りの行動を取った。


「ガールでダイレクトアタック!」


「あはは、そうするしかないよねぇ! 【疾駆】を元から有している《ビースト・ガール》じゃ《未曽有の森》から【好戦】を貰うことができない。彼女が攻撃できるのはボクだけってわけだ。もちろんガードはしない!」


 効果を発動されるくらいならライフコアをひとつ差し出した方がいい。それでアキラにできることは何もなくなるのだから──という計算に狂いが出たことを、すぐにミオは悟った。


「クイックチェックの発動はあるのか?」


「いいや──発動はなし。引いたカードは手札に加えておしまいだよ」


「そうか、だったら……ここからが俺の『大詰め』だぜ、ミオ!」


「……!?」


 どういう意味かわからず困惑するミオに、アキラは手札より新たに一枚のカードを掲げて見せた。その名称を確かめたことでミオには激震が走った。


「それ、は……!?」


「発動させてもらう。この大会における俺最大の隠し玉! 《ビースト・オブ・レガシー》を!!」


「まさかそれは──『ビースト』専用のサポートカードだっていうのか!?」


 特定の名称や種族のみをサポートする、《妖精たちの賛歌》のような専用カード。「ない」と判断した『ビースト』のそれが存在しており、しかもアキラが手札に抱えていたことにミオは二重三重の衝撃を受ける。


「わかるか超天才。このファイトに勝つのはお前じゃなく、俺だってことが!」


「ッ、」


 堂々たるその宣言。堂々たるアキラの瞳に、ミオは思わず怯んでしまった。



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