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75.無慈悲の重撃、水の女神の恐怖!

 《暴食ベヒモス》

 パワー2000→3000


 《イノセント・オブ・ビースト》

 パワー2000→3000


 どちらも《未曽有の森》の強化を受け、そのパワーは《スライム・トークン》を上回っている。二体のスライムの撃破は容易である──が、勿論それはアタックが通ればの話。


「だったらガードだ。《ウォーターメイド・サラリナ》をベヒモスに、《アクアメイツ・トークン》をイノセントに当てるよ」


 《ウォーターメイド・サラリナ》

 パワー4000


 《アクアメイツ・トークン》

 パワー1000


 ミオの場の守護者がスライムを守らんと動く。しかしパワーが異なるために、ベヒモスを返り討ちにしたサラリナに対しアクアメイツ・トークンはイノセントの軽い蹴りであっさりと飛び散った。


「あらら、守護者を一体失っちゃった。でもちっとも痛くはないね。《ヴィクティム・マシーン》と違って《水精加護の水籠》はふたつとも無事。いくらでもトークンを生み出してくれるんだから。命の重みが違うってことだね──ボクにとっていい意味で、さ」


 五対一というユニット数の差を暗に示しながらミオはそう言った……確かにその通りだとアキラは認める。残虐なる処刑機械を退かすことを優先した。貴重な対処札である二枚のベヒモスを使って──その判断に間違いはなかったと後悔こそしていないものの、しかし展開力の差を生み出す原因とは何も《ヴィクティム・マシーン》だけではなく、《水精加護の水籠》も同等かそれ以上の役割を担っている。ミオの戦線が維持される最たる理由が水籠から生まれる【守護】持ちのトークンであるために、そこにノータッチのままファイトが進むことはアキラからすれば非常に苦しい。


 そうは言ってもユニット同士の連携を重視する緑陣営の戦法上、アキラ自身がユニットを展開できないことには何も始まらない。水籠以上に処刑機械が厄介極まりなかったこともまた確かな事実であるからして、この状況はプレイミスが招いたものではなく、精一杯全力で抗ってのもの。ミオもアキラもその実力を十全に発揮している。それでいてこうも追い詰められているのだから笑えてしまうな、とアキラは苦笑して。


「どちらか一体はサラリナにやられるとはわかっていたけれど……ベヒモスの方を仕留めにきたか」


「とーぜんだよ。イノセントみたいな回収効果持ちが他にもいないとも限らない。面倒な登場時効果持ちはできるだけ場に留まらせておいた方がいい……けど、どうせ墓地にはもう一枚ベヒモスがあるんだからそこを警戒したって仕方ないじゃん?」


 故にベヒモスよりもイノセントを生かした、ということ。……緑には墓地回収よりも場のユニットの名称や種族を参照にして効果が発動されるカードの方が圧倒的に多く、ともすればミオのこれは選択を誤っているようにも聞こえるだろうが、しかしベヒモスとイノセントの種族はどちらも共通して『アニマルズ』。目立つ差異と言えば『ビースト』の名称があるかないかだが、ミオはアキラがイノセント以外の『ビースト』サポートカードを用いているところを一度も目にしたことがなかった。


 あれば使わないわけがないので、おそらくそういったカードは持っていないのだろう。ビーストカテゴリ自体が超天才ミオをしてもまったく未知のカード群であるからしてそれが存在すらしていないのかどうかは判然としないが、少なくともアキラは未所持に違いない。つまりビーストの名を参照にするプレイはこのファイトにおいてない・・。そこまで見越した上でミオはベヒモスの処理を優先したのだ。


「……なるほど」


 ミオが下した判断はアキラにとって大いに参考になるものだった。ベヒモスの墓地送りよりもイノセントの回収効果を再利用されるのを嫌った。つまりオブジェクトカードを除去されることより、戦闘に強いビーストを出されることを嫌がった。ということは──先ほど見せられた《いかがわしい仲買人》は十中八九ブラフ。きっとミオは今更4コストもかけて《ヴィクティム・マシーン》をサーチしたりはしないだろう。


 ──どちらがへ行くか。その発言からしてもほぼ確実に、ミオは勝負の大詰めに入ろうとしている……!


「──ターンエンドだ」


「ならボクのターン! スタンド&チャージ、ドロー!」


 引いたカードをちらりと確認し、すぐに手札へ。そしてその六枚の中から別のカードを手に取った。ミオのその所作にアキラは尚の確信を抱く。


「あはは、察しも付いてるって感じだね。当たり前か、いっぱいヒントをあげてるもんねぇ。だったら心の準備もいいね!? 行くよアキラ、ボクの切り札の登場だ!」


「ミオの、切り札……!」


 やはり。前のターンのサラリナによる大量ドローでミオは既にそれを引いていたのだ。ファイトを終わらせるためのエースカードを──その正体とはいったい。緊張に顔を強ばらせるアキラに、ミオは。


「ふふん、そうだよ。《ヴィクティム・マシーン》で君の展開を遅らせて時間稼ぎしつつ《水精加護の水籠》でボクだけは戦線を保つ。そうして出来上がったボードアドバンテージの差でそのまま勝ちへ突っ切る──には、クイックチェックでのカウンターと増えていく手札が怖いところだ。大詰めをこいつに託す! ボクが描く勝利の方程式に解を出してくれるイコール! おいでよ、《水の静謐アクアトランサ》!」


 《水の静謐アクアトランサ》

 コスト8 パワー9000 【重撃】 条件適用・【疾駆】


 水の女神。そうとしか言いようのない荘厳かつ可憐な雰囲気を纏った巨体の美女が、まるで全てを支配するが如くに輝かしい威光を放ちながらフィールドに君臨した。彼女が発す光は美しい海を通して差し込む陽光のようであった。


「これが、ミオのエースか!」


「綺麗でしょ? こういうところも『アクアメイツ』のいいところさ。まあ、その綺麗さと裏腹に性能は凶悪の一言だけどね。それを今からたっぷりと思い知らせてあげるよ!」


「っ、」


「まずは条件適用! ボクの場に三体以上の『アクアメイツ』ユニットがいる時、アクアトランサは【疾駆】を得る! ──アクアトランサでダイレクトアタック!」


 なに、とアキラは驚く。彼の場にはレスト状態のイノセントがいるのみ。身の守りなどまったくないのだから確かに攻め込むには絶好であるが、ここまで頑なに攻めてこなかったミオがこのタイミングで直接攻撃を行なってきたこと。そこに激しく嫌な予感を……いや、それ以上の悪寒を覚えるアキラ。その感覚は実に正しいもので。


「アクアトランサは【重撃】ユニット! 【重撃】を持つユニットは一度のダイレクトアタックで! ライフコアを破壊することができる!」


「な──っぐぁ!?」


 アクアトランサの両の手より撃ち出された水の波動がアキラのライフコアをまとめて二個も吹き飛ばした。一撃で二撃分! そのあまりの威力に攻撃の余波だけで倒れかけたアキラを見て、くすくす! と忍び笑いと言うには大きすぎる声量でミオは笑い声を漏らした。


「これで君のライフコアは残り四つ。ボクとの差がだいぶ縮んじゃったね」


「く……だがライフコアがふたつ削られたことで俺には二回のクイックチェックのチャンスが──」


「──ないんだなぁ、これが!」


「!?」


「ボクのエースの力は【疾駆】と【重撃】だけに留まらない。アクアトランサのアタックでライフコアがクラッシュされた時! クイックチェックで引かれたカードは手札に加わらず、墓地へ置かれる!」


「なん、だと……?!」


 ライフコアがプレイヤーへ最後に残す力、クイックチェックによるドローはまさに希望の象徴である。だがアキラに託されるはずだったそれは、デッキの上のカードをまくった時点で急速にその力を失い──咄嗟に伸ばされたアキラの手をすり抜けるようにしてカード諸共墓地へと落ちていった。



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