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72.最終段階へ行こう!

「んー……?」

(何か、妙だな。アキラのあの顔付き……こっそり企ててますって感じだ)


 巧妙に隠しているつもりでも、しかしミオは持ち前の洞察力で敏感にアキラの隠しごとを見抜く。とはいえそれは看破には程遠く、「何かある」と直感で悟った程度のものでしかないが……。


(なんにせよ確かに考えはあるようだ。だけど見た感じ、《ヴィクティム・マシーン》を一台退かしたくらいじゃ足りないのかな? いったいアキラがどんなファイト展開を頭の中で描いているのか、そこまでは察しようもないけれど。いずれにしろそれを受けてボクがやるべきは──大詰めに入るのを急ぐこと。それが最もイヤがられるはず)


 先ほど《極端な再利用》を唱えるために一枚捨てたこともあってミオの手札は現在のアキラと同じく三枚。ファイト序盤の圧倒的な差がなくなってしまっており、決して潤沢とは言えない枚数となっている。手札とはドミネイターの可能性そのもの。特に豊富な妨害手段があってこそ成り立つコントロールタイプのデッキを使うからには手札の枚数には殊更に、神経質なまでに気を使わなければならない。


 たった三枚ではコントロールなど成せない。単純なビートダウンデッキのアキラと手札の数で並ばれている時点で本来は論外、なのだが。けれどそこは『超天才』泉ミオ、きちんとリカバリー策は用意されている。


 既にミオが次のターンでの行動に算段を付けている中、アキラはベヒモスへ指示を出す。


「《未曽有の森》によってベヒモスはパワーアップした上で【好戦】を得ている。レストしていない《スライム・トークン》へアタックだ!」


 《暴食ベヒモス》

 パワー2000→3000


 《スライム・トークン》

 パワー2000


 体格にはもはや比べるのも馬鹿らしいほどの差があるものの、両者のパワーは共に2000と軽量級。ユニットとしての力を効果にも割いているベヒモスのパワーはコスト6の割には決して高くない──が、今はエリアカードの後押しで僅かとはいえその力を増している。ぶつかり合えばスライムが一方的に負けるだろう。たかだかスペルの効果で湧いた内のトークン一体だ、失ったとしてもミオにとっては大した痛手ではないものの……。


「むむ……、どうせベヒモスは《ヴィクティム・マシーン》で確殺なわけだし。ここは一応守っておくかな。《アクアメイツ・トークン》でガード!」


「!」


 【守護】を持つアクアメイツ・トークンがスライムを庇うように前に出て、巨象の鼻の一撃を食らうのを引き受けた。太く長いそれが真上から鞭のように打ち付けられ、パワー1000と最軽量であるアクアメイツ・トークンは四散。ただの水となって森の土に染み込んでいった。


(守護者を犠牲にただのバニラである《スライム・トークン》を生かした……それはつまり)


 【守護】の能力よりもたった1000だけのパワー差を優先した。さっきまでのミオならやらなかっただろうその行為に、アキラは彼のスタイルが変わったことに気付く──明らかに攻めを意識し始めている。そうでなければ守護者よりもスライムを場に残す選択などあり得ない。


 己が勝利のための手順を、向こうも進めてきた。ミオのコントロールプランが次の段階へ移行しようとしているのを感じ取り、アキラは冷や汗を流しつつも笑みを浮かべる。


「俺はこれでターンエンド」


「それじゃお約束の時間だね。一台に減ったとはいえ《ヴィクティム・マシーン》はそんなことじゃあしょげないし休まない。バリバリに稼働するよ!」


「く……俺はベヒモスを選ぶ」


 先の光景の、まるで鏡映し。アキラが犠牲となるユニットの名を告げた途端に処刑機械の中から最多の本数のマジックアームが飛び出してベヒモスの巨体の至る箇所を鷲掴みにする。数と力に任せて抵抗する巨象をすっぽりと──機械のサイズと収容したベヒモスの体躯はどう見ても釣り合っておらず体積に矛盾が生じているが──収めて処刑を敢行。心なしかいつもよりも長く破砕音を響かせて死刑執行は完了した。


 他ユニットの処刑との時間の差は、単にベヒモスの山と見紛うばかりの大きな体の処分に難儀したからか、あるいは並び立っていたもう一台の処刑機械を食われた恨みが無慈悲なマシーンと言えども宿っていたのか。どちらにしろ壊し甲斐のあるユニットを壊し終えた《ヴィクティム・マシーン》は物言わぬもののどこか満足気であるように見えた。


「ボクのターン。スタンド&チャージ、そしてドロー!」


 ミオの手札はこのドローで四枚。そこそこといったところだが、コントロールを完遂せんとするなら心許ないことには変わりない。そこで彼は。


「ちょっーと重いけど、まあコストコアは八個もあるし。使っちゃおうかな──ボクのお気に! コスト6、おいでよ《ウォーターメイド・サラリナ》!」


 水のヴェールを幾重にも重ねた優美なドレスに身を包む、華やかながらにどこか儚げな印象も受ける美女。その指先から滴らせた雫がミオのデッキへと落ち、そしてふわりとカードが舞い上がった。


「サラリナの登場時効果発動! デッキの上から五枚をめくってその中の種族『アクアメイツ』ユニットを好きなだけ手札に加える! そして残りをデッキの一番下へ戻す。──よし、ボクは三枚・・を選んで手札へ。残りはオブジェクトとスペルだったからデッキボトムへ置くよ」


「っ、三枚も手札を増やしただって」


 なんというドロー効率かとアキラは呻く。ランダム性があるために、彼の切り札の一枚である《クイーンビースト・メーテール》と同じく効果を発揮させるためにはデッキ構築の段階から制限の生じるカードではあるが、それを踏まえてもサラリナの補充能力は抜群の一言であった。


「いいユニットでしょ。当然ボクのデッキのユニットは『アクアメイツ』で固めてあるからいつ召喚しても大量ドローが見込めるってわけ。コストコアのブースト力じゃあ緑には敵わないけど、でも青にはこのドロー力がある! それはアド稼ぎの代名詞である『フェアリーズ』と比較してもなんら劣らないよ」


 言いながらミオは増えた手札を改めて眺める。うむ、引きたいカードは引き込めた。サラリナのおかげで狙い通りにファイト展開を早めることができそうである。勝利までの計画、その最終段階に入るまでの直前準備。それがミオにとってのこのターンの位置付けであった。


「コストも余っていることだから今のうちにこのカードも使っておこうかな。二枚目の《水解式》! 効果はもう説明しなくていいね──ボクの場にまたまた二体の《スライム・トークン》を出すよ!」


「……!」


 ミオの場にどんどんトークンが増えていく。スライムがいくら無能力バニラユニットであるとはいえこの生産力は脅威としか言いようがない。途中に《極端な再利用》による文字通りの再利用を挟んだことでミオはたった5コストで六体のユニットを展開している計算になる──パワー2000のユニットの適正コストが一般的に『2』であることを踏まえると、スライムを六体召喚するのに本来必要なコストは12。どれだけ破格かがよくわかるだろう。


「同名カードは四枚しか入れられない。どんなに便利なスペルだって通常なら四回しか唱えられないところを、《極端な再利用》を使えば最大で八回まで唱えられる。勿論これは本当に極端な例であって、ただ詠唱機会を増やせるってだけでも充分なんだけどね」


 少なくとも《極端な再利用》を採用しているかどうかでコントロールデッキの纏まりというものは違ってくる。再利用スペルのカラーを限定していないこともあって混色デッキでもコントロール寄りの構築ならまず間違いなく投入される、まさにパワーカードである。手札コストを要求する点や使用済みかつ墓地に置かれているスペルしか対象にできない点から『雑に使って強いカード』ではないが、しかし雑に使ったとしてもそれなりの成果が出せるくらいには優秀なスペルだった。


 強くて面白い。このカードの存在がミオが青を好む理由のひとつであることに間違いはないだろう。


「アタックはせずにボクはこれでターンエンドする。さーて、どっちがへ行けるか……楽しく競争といこうかアキラ!」



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