表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/510

7.白使い、美しき舞城オウラ

「アキラならやれるぜ。勝ってあいつの鼻を明かしちまえ!」

「ああ! 見ててくれコウヤ」


 コウヤの激励にサムズアップで応えたアキラは、対戦相手であるオウラと向き合う。場所は職員室前から移り教室前の廊下。こうやって放課後の学校内にて辻ファイトが行なわれるのは珍しくないのだが、それに臨むのがあの滅多に辻ファイトをしない舞城オウラということで注目度は抜群だった。あっという間に出来上がった観衆の輪。盛り上がりを見せる彼らの中に一観戦者として混ざったコウヤだが、しかし皆と同じようにこのファイトを囃し立てる気分にはなれなかった。


「アキラにはああ言ったが、正直言って舞城オウラはマジで強い。勝機ってもんは果たしてあるのか……?」


「そうっすねえ。どんなに甘く見積もっても一割あれば御の字じゃないっすかね」


「一割足らずか。ま、そんなとこだろうな」


 いくらアキラがファイトデビューし立てとは思えないほどの腕前を見せているとはいえ、それを加味したとしてもビギナーが楽に勝てるような相手ではない。舞城オウラという壁はとても高く分厚いのだ──が。たとえ一割足らずであっても、手繰り寄せるには充分な勝機だとコウヤは笑う。


「なあに。きっとアタシらをあっと言わせてくれるぜ、アキラは」


「自分もそれを信じて応援するっすよ!」


「話がわかるじゃねえか……って、お前誰だよ?」


 当たり前のように会話をしていた相手が見ず知らずの女生徒であったことに今更気付いたコウヤに、びしっとその少女は敬礼で応じた。


「名乗り遅れて申し訳ないっす──自分、ロコルっていうっす! センパイとはちょっとした縁があって」


「センパイ? それってアキラのことか?」


「っす!」


「ほーん……」


 いつの間にこんな可愛らしい後輩と遊ぶようになったんだか、とアキラの一番の親友だと自負しているコウヤはなんだか非常にモヤモヤとしたものを感じたが、今はそんなことよりもファイトの行く末を見守るほうが大事だ。


「あ、始まるっすよ! 紅上センパイも一緒に応援するっす!」

「言われなくともするってんだよ」


 共に観戦するつもりらしいロコルに少々心をかき乱されつつも、コウヤは目の前のファイトに集中する。



◇◇◇



命核ライフコア展開、手札をドロー。先行は俺だな」


 両プレイヤーの合意によって決められなかった場合は、ライフコアが瞬いた側が先行になる。これがドミネファイトの基本的な先行後行の決め方だ。自身の命の象徴でもあるライフコアが行動を促すように点滅したのを見てアキラがそう言えば、オウラは優雅に微笑んだ。


「どうぞお好きに」


「……先行はドローもスタンドもできないから、スタートフェイズにやるのはチャージだけ」


 山札の一番上のカードがコストゾーンへと移り、魔核コストコアへと変化する。ぼんやりと輝くその色味は緑。緑陣営のカードがコストコアになった証拠だ。


「よし! 俺はこのコストコアを使って《ベイルウルフ》を召喚だ!」


 ふっ、と輝きを失うコストコア。そこにあったエネルギーはユニット召喚のために消費された。次のアキラのターンになればスタートフェイズに疲労レスト状態から起動スタンド状態となってまた力を取り戻すが、それまでは何もできない。つまり唯一のコストコアを使用したアキラもまたこのターンにできることはもう何もないということだ。


「召喚したターンにユニットは攻撃できない。俺はこれでターンエンド」


「わたくしのターン、ドロー」


 パワー1000の緑陣営のユニットが一体。というアキラの場を見つつデッキからカードを一枚引いたオウラは。


「ターンエンド」


 そのまま何もせずにターンを明け渡した。


「! 召喚もディスチャージもしない?」


 アキラ同様、オウラのコストコアもしっかりと補充チャージされている。それだけでは召喚のために足りなかったのだとしても、ディスチャージというライフコアを犠牲にするやり方でコストを確保することもできる。……まさか、2コストあっても使えるカードが手札にないのだろうか? そうでもなければ序盤の貴重な一ターンを放棄する理由がわからない。


 いわゆる手札事故。友人たちとのファイトにおいて何度か相手がそれに陥っていたことを思い出しながらそう思考するアキラだが、しかしその疑いはオウラの余裕綽々の態度が否定する。


「なんということはありませんわ。一ターン目に何もせずともわたくしの勝利は揺るぎない。ただそれだけです。言っておきますわよ若葉アキラ──わたくしはあなたにただ勝つのではなく、圧勝する」


「……! そうかい。だったらこっちはフルスロットルで動かせてもらうぞ──スタンド&チャージ、そしてドロー!」


 新しく引いたカードを含めて手札を眺めたアキラは、そこで決断をする。


「ディスチャージを宣言! ライフコアをひとつ失う代わり手札かコストコアを増やせる。俺はコストコアを増やす!」


「これで使えるのは計3コスト、ですわね」


「ああ、増えたコストでユニットを二体召喚だ。来い、《太楽ラクーン》に二体目の《ベイルウルフ》!」


 先に召喚されていた《ベイルウルフ》の横に並び立つもう一体の《ベイルウルフ》。小柄な彼らが身を寄せ合うその傍らで、編み笠を被った真ん丸な身体をしたタヌキがコロコロと転がる。牧歌的なその様に観衆の一部──主に女子生徒たち──が黄色い声で反応したが、相対するオウラはと言えばつまらなそうに鼻を鳴らすのみだった。


「お可愛らしいこと。やはりあなたはカードを愛でるだけに留めておくのがお似合いなのではなくて?」


「甘く見てくれるなよ、舞城さん。こいつらは俺の仲間で、俺のなんだ。まずはひと噛みさせてもらう! 行けっ、《ベイルウルフ》!」


 オウラの場はガラ空き。邪魔する物のないフィールドを意気揚々と駆け抜けて小狼はオウラへと牙を突き立てた。無論その攻撃はライフコアによって受け止められたものの、これで彼女のライフは初期値の七から六へと減った。簡単な引き算で、あと六回。それだけのアタックを受ければオウラの敗北が決定する。


「ライフコアが散ったことでカードを一枚ドロー」


 しかしオウラに焦りはない。あくまでも優雅な所作でデッキからカードを引く彼女は、三体のユニットに睨まれていてもどこ吹く風といった様子であった。それだけ自分の勝利を疑っていない。敗北する可能性など微塵も見出していないのだ──彼女の態度の意味をそう理解しながら、アキラはターンエンドする。


「それではわたくしのターン。……ふむ、では」


 この子にしましょう、と先のターンに動かなかったことで潤沢そのものである八枚の手札の中から一枚を選び、場に呼び出す。


「2コスト。《力天星イル》を召喚いたします」


 光を放つ無機質な白いボディに、硬質な翼と腕が付属する謎の物体。それが浮遊しオウラを守るように立ち塞がる。そのユニットを見てコウヤは「出やがったな」と表情を険しくさせる。


「『エンディア』! 守りに長けた白陣営のカード群においても、特に守勢に優れた種族っすね!」


「ああ。あの鉄壁の守りにはアタシも手を焼いた。やっぱ舞城はお得意の白デッキってわけだ……ちっ」


 アキラのデッキカラーである緑陣営は白陣営と決して相性が悪いわけではない。どころか、単純な有利不利で言えば有利が付くくらいだ。だがそれはあくまで陣営間の相性のみで語ればの話。デッキ構築やドミネイターの技量によってもファイトの趨勢は大きく左右されるため、色の相性だけで一概に勝敗の率を語ることはできない。このファイトはその典型的な例になるだろうとコウヤは見ている。ロコルもまた同一見解のようで、


「まだまだビギナーの域を出ないセンパイには、ちょっと厳しいかもっすね」


「ちょっとどころじゃねえよ。圧倒的に経験不足でも、やるのがただの殴り合いならラッキーパンチが入ることだって期待できる。だが舞城のプレイスタイルはそうじゃねえからな。一旦守備が完成しちまえば奴の牙城を崩すのはビギナーじゃなくたって至難の業だぜ」


「じゃあ、センパイが勝つためには──」


「守りを築かれる前に攻め勝つ。これっきゃないだろうな」


 陣営ごとの特徴も大まかにだがある程度は頭に入っているらしいアキラだ。アドバイスせずとも──マナー違反も甚だしいのでファイト中の指示出し行為などそもそもやらないが──急がなければマズいとは薄々でも察しているだろうが、それを察しているからと言って実行に移せるとは限らない。


 そのことをアキラよりもわかっているのが、オウラである。


「《力天星イル》は【守護】を持つユニット。パワーは2000、けれどガードする時に限り+1000される特殊能力を有していますわ……ふふ。アタックの際にはどうぞお気をつけくださいな。わたくしはこれでターンエンド」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ