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62.決勝戦!

「こちらのファイトは決着だッ! 優勝をかけて決勝戦で戦うのはぁ──若葉ァ! アキラァ!!」


 権林のアナウンスに会場から拍手が起こる。それは勝者と、そして敗者。いずれも立派に戦った両者を讃えるためのもの。その生温い空気には「けっ」と不満そうにしながらも、しかしクロノは自身の敗北を受け入れていた。


「生きるか死ぬか。そういうファイトをするための本気のデッキ……まさかこいつを使っても負けちまうとは夢にも思わなかったぜ」


 あの日よりは互いに・・・にいいファイトができるだろう。授業を通して目の当たりにしたアキラの現在の力量からそう考えてはいたクロノだが。けれどアキラの実力を確かに認めつつも、負ける気などしなかった。


 戦えば勝利するのは確実に自分であると思っていた──それは自惚れなどではない。普段のアキラを、そして己自身を冷静に分析しての結論だ。アキラが称したようにクロノはこう見えて強かで計算高く、その彼が下した判断なのだからそこに錯誤はない。


 ……はずだったが。


 彼にとっての計算違いがあったとすれば、それはアキラの「振り幅」の存在。追い詰められれば追い詰められるほど。敵が強ければ強いほど発揮されるその勝負強さを式に当て嵌められなかったことだろう。とはいえこれをクロノのミスと評するのは少々酷というもの。計算不能であるからこその「振り幅」であるからして、それを事前に考慮するのは非常に難しいことだ……とアキラをよく知るコウヤならそう言うだろう。


「あの日のド素人っぷりが信じられねえな。僅かな内によくぞここまで戦えるようになったもんだ」


「あはは……今回もまた、だいぶ運に助けられた勝ち方だけどね」


 クロノからの素直な称賛。非常に珍しいそれにアキラは苦笑で応じた。最後の場面、二連続のクイックチェックでクロノがクイックカードを引かなかったこと。そして『フェアリーズ』のカードや《暴食ベヒモス》、《バーンビースト・レギテウ》といった勝負を決めるために必要な手札を揃えられたこと。ドローを重点的に行うプレイングをしたとはいえ、これらが集まらない可能性は充分にあった──否、そちらの方が可能性としては高かった。そのギャンブルめいた確率を乗り越えて最後の大勝負に出られたのはこの上ない僥倖と言う他ない。


 つまり極端に運が良かっただけ。先にライフコアを残り一個にまで追い詰められた点も含めて、実力でクロノを上回ったとは言い難い内容だったと頬を掻くアキラに、舌打ちが返ってくる。


「何を言うかと思えば。てめえは運も実力の内っつー言葉を知らねえのか? 初期手札、毎ターンのドロー、そしてライフコアが削れる度のクイックチェック……駆け引きを除いてもドミネファイトにはこんだけ運が絡む要素がある。『運を掴む』ってのもドミネイターに求められる素養なんだよ。そしててめえは運を掴みに行くプレイングができていた。流れに乗っかるだけじゃなく最大限に運を活かす手腕があったってことだ。それこそが『実力』ってもんじゃあねえのか?」


「……!」


「てめえのここぞって時の爆発力。そして俺様に反撃の一手を掴ませねえ運命力……捨てたもんじゃねえ才能・・だろうが」


「クロノ。……お前がそんな風に言ってくれるなんて、なんだかちょっと意外だ」


「けっ。勝っておいて卑下されても胸糞悪ぃんだよ。精々勝者として威張っときな──だが、これだけは言っとくぜ」


 ギラリ、とそこでクロノは瞳に例の獣めいた獰猛な輝きを取り戻し、低い声音で続けた。


「一度や二度泥を食わされたくらいで俺様が跪くと思うなよ。てめえが獲物であることに変わりはねえ。ますます食らい甲斐が出て嬉しいくらいなんだ……次こそズタボロに負かして、俺様の糧としてやる。それを覚えておくんだな」


 勝利の美酒に酔いつつも敗北の恐怖に怯えろ。本当に食い殺してきそうな表情でそう告げた彼に、アキラは「やっぱりクロノはクロノだな」とどこか安心まで覚えつつこう返した。


「悪いなクロノ。食べさせてあげることはできないよ──だって次も勝つのは俺だからね」


「ヒャハ。おうともよ、ドミネイターなら返事はそうに決まってるわな……これ以上は口を噤むとするぜ。勝者には敬意を払わねえとなぁ」


 あばよ、とクロノは観客席へと去っていく。他の敗退者たちと同じようにあそこで決勝を観戦するのだ。そこはベスト4へ勝ち上がった者でも同じ。だが、準決勝にまで駒を進めたとなれば教師陣からの覚えは格別のものとなるだろう。この大会でクロノが求めていたのは『好成績』などでは間違ってもないだろうが……遠ざかる背中を見つめながらアキラがそんなことを考えていたら、突然。


「!? ……そうか、向こうも決着がついたのか」


 沸き起こった喝采に何事かと驚かされたが、見ればもう一方のファイトゾーンでも勝敗が決したところだった。拍手にピースサインで応えている側と、悔しそうに拳を握り締めて項垂れている側。どちらが勝者であるかは明らかだった──泉ミオが勝った。その想像通りの結果に、アキラもまたぐっと拳を握った。


「さあ!! これでAとB、双方のグループの勝者が決まったぁ!! というわけでこれより! 頂点の二人による真の頂点を決めるための戦いが幕を開けるぅ!! お前たち! 全員刮目してその行く末を見届けろぉ!!」


 休憩なしにプレイヤーの立ち位置に付く両者。フィールドを挟んで向かい合う二人には疲労の色など見られなかった。ただただこれから始まるファイトのみに集中している。傍から見ても察せられるほどの見事な彼らの集中力に、会場中が息を飲んだ。


「なんと今年の決勝戦は一年生同士の対決となったぁ! 長い合同トーナメントの歴史でもこんなことはおそらく初! 少なくとも俺が担当している間には起こっていなぁい! ブラボーだぞ、お前たち!!」


 一旦マイクを置き、それからバンバンバン! とまるで大砲の射撃音のようなけたたましい音を拍手で起こしてから権林は再びマイクを手に取って。


「改めて紹介しよう! Aグループの勝者は泉ミオ! あちらにおられる泉先生の息子さんにして、飛び級でこのDAに入学したという史上初の例を持つとびきりの才児! 決勝にまで来ているのだからその才能は伊達ではなぁい!! このまま栄光の星を掴めるか、『超天才』よ!!」


「もちだよ。だって元から優勝の一番星はボクにしか掴めないんだから」


「続いて! Bグループの勝者は若葉アキラ! なんと授業の初日に除籍検討の対象者に! それを覆すために今大会での優勝を目指すという猛烈なモチベーションの持ち主だぁ!! 意気込みの差が出たかここまで快進撃を続けている! 最後の壁もぶち破ってDAに残れるか!? とにかく全力を尽くすのだ、新星の一人よ!!」


「…………」


 決勝で争う二人の紹介アナウンスも終了し、それまでは各々声を出していた観客席もシンと静まり返る。それはまるで、アキラとミオ。彼らがぶつけ合う闘志が会場中を埋め尽くしたかのようでもあった。


「互いにライフコアを七つ展開! 手札を五枚ドロー! 準備はいいな!?」


「だってさ。覚悟はいーい? アキラ」


「なんの覚悟だ?」


「そりゃ勿論、ボクに負けて退学になっちゃう覚悟だよ」


「それなら出来ていないな──俺にあるのは! ミオに勝って優勝するっていう覚悟だけだ!」


「あはっ、よかった。今日はちゃんと怖い方のおにーさんで……そうじゃなきゃ楽しめないもんね!」


「「ドミネファイト!」」


「決勝戦!! スタートだぁ!!!」


 ──白熱した合同トーナメント。それを締めくくるファイトの幕が切って落とされた。勝利の栄光を手にするのは、果たしてどちらか。



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