表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/510

61.決着の時! 静かなる怒りのレギテウ

 コォオオオと妙な息吹を発しながら戦闘体勢を取る妖精たち。彼女らの剣吞な様子には唯一『フェアリーズ』でないベヒモスも仲間ながらにたじたじであった。そんなアキラのフィールドに新たに降り立った影。


 《バーンビースト・レギテウ》

 コスト6 パワー5000 【疾駆】


 それは狼によく似ていた。だが狼にしては大型な体躯に加え、背中から翼まで生やしているからには別種なのだろう。その折り重なった棘のような両翼はどうも非常に硬質であるらしく、彼の動作に合わせてカチャカチャと硬い音を鳴らしている。紛れもない獣、でありながらどことなく機械的でもあるその見慣れないユニットにクロノは眉根を寄せた。


「コスト6だと……? 使えるコストコアもなしでどうやって召喚しやがった」


 先ほど唱えられたスペル《妖精たちの賛歌》には条件を満たせば無コストで使用できる効果が備えられていた。ではこのレギテウの場合はどんな手法で以ってコストを踏み倒したのか。クロノのその疑問に、アキラは不敵な笑みと共に言った。


「目を凝らして観察してみるといいよ。レギテウの登場の他にも『おかしなこと』は起こっているはずだから」


「チッ!」


 先の自分の発言をそっくりそのまま言い返されて、いい性格してやがるぜとクロノは顔をしかめながらも言われた通りに改めて互いの場を眺めてみる──特に異常なし。ということはフィールド以外の場所か。そう考えて視線を移す。アキラのライフコアは残り一のまま。コストコアも全て寝たきり。そして手札はすっからかん……すっからかん?


「あぁ? てめえ、あれだけあった手札をどこにやった?」


「気付いたねクロノ。手札の行き先を答えるなら墓地だよ」


「墓地──まさか、それこそが!」


「そうとも、レギテウの効果。相手の場にのみユニットがいるか、あるいは俺の場に種族『アニマルズ』のユニットが一体でもいれば! コストコアの代わりに手札を捨てることでその枚数分自身のコストを下げる! こういった効果は大抵が1より下にはならない制約があるが、レギテウにはそれが存在しない!」


「っ……!」


 レギテウの召喚前には七枚あった手札が一枚もなくなっている。それはつまり、レギテウ以外の全手札を捨て去ってその召喚コストをゼロにしたということ。


 アキラの説明通りユニットのコストを軽減して召喚する効果は多々あれど、コストコアをまったく支払わなくて済む例は非常に希少である。その奇襲性はドルルーサ以上。頭抜けていると言えるが、さりとてそのために六枚の手札を捨てる必要があるというのは無コストでありながら尋常でなく『重い』。フィールドの状況に左右される条件も合わさって奇襲を成功させるためには入念な準備が欠かせない。


 つまりレギテウとは手間のかかるカードなのだ──アキラはそのための工夫をしていたのだと、今になってクロノは気付く。


「てめえの場に『アニマルズ』は《暴食ベヒモス》一体のみ……ってことはだ。マーギウスで破壊するのをティティでなくベヒモスにしとけば、てめえはレギテウを呼び出せなかったのか!」


「そうだ。種族に着目してお前がベヒモスの破壊を優先する可能性はあった。緑陣営の中でも『アニマルズ』は特に色濃く連携という持ち味を発揮する種族でもあるから、尚更にね。だから俺はティティでアタックをしなかったんだ」


 やはりそうかとクロノは納得する。ベヒモスを召喚してマーギウスを墓地へ送るその前に、攻撃権のあるティティでのアタックを済ませておかなかったこと。ドミネファイトのセオリーとは反するそのプレイングを『マーギウスへの除去を確実に通すため』であると──つまりクイックチェックの機会が入り、それによって思わぬ形で場が動くことを嫌ったのだろうと推察していたクロノだが、それもまたアキラの誘いであったことを今知った。


 そこまで考えていたのか。そう驚き、そこまで考えが及ばなかった自分を罵りたい気持ちと、まさかこんなものを読めるはずもないという呆れも同時に抱く。唯一の攻撃可能ユニットを優先的に排除しておく。その順当であるはずの選択が悪手になるなどといったいどこの誰に予想できようか──。


「クロノは言動の印象から荒々しいファイトをしているようでその実、プレイングは常に堅実で安定している。選択の機会では毎回ちゃんと先々のことを考えて裏目を引きにくい方を選んでいるものな……DAの授業でそれがわかったから、信じていたよ。お前なら間違えない。必ず正しく・・・ティティの方を破壊してくれるってね」


「ムカつく言い方をするじゃねえか若葉アキラ……お得意のところ悪ぃが、自慢のビーストユニットでもまだ逆転にゃ『足りてねえ』ぜ! 【好戦】を得た妖精の一体でジランを退かすにしても、ダイレクトアタックができるのはレギテウのみ! 俺様のライフコアはてめえと違って三つも残されてんだぜ──三引く一は二! ライフアウトにはならねえ。まさかこんな簡単な引き算ができなくなっちまってるわけじゃねえだろうな!?」


「ご教授ありがとう、クロノ。削るべきライフコアは三つ、アタックできるユニットは一体。確かに答えは二だ──でも違うんだよ。三引く一がゼロになる! レギテウならばそれも可能なんだ!」


「!?」


 思いもかけない答えに目を見開くクロノ。そんな彼に構わずアキラは《妖精たちの賛歌》によってパワーアップ+ユニットへの攻撃権を得ている三体の『フェアリーズ』へ指示する。


「ティティ! ジランへアタック! そしてその後にミィミィとリィリィはドルルーサへアタックだ!」


「何を……!?」


 三体の妖精は共にパワーを4000にまで上げている。パワー1000の守護者ユニットであるジランを退ける、そこまではいい。理に適った行動だ──しかしその後がわからない。ドルルーサのパワーは5000、たとえパワーアップしていても妖精たちが敵う相手ではない。バトルを仕掛けたとて二体とも返り討ちにあって終いだ。


 その予測通り、ティティがジランを一捻りで倒す一方でミィミィとリィリィはドルルーサの尻尾のひと薙ぎでまとめて屠られてしまう。


「ジラン撃破!」


「だがこちらは妖精二体を撃破だ! ……てめえ、無駄にユニットを減らしやがって何がしたいんだ?」


「それが無駄じゃないのさ。散った仲間の無念がこいつに力を与えてくれる──レギテウのもうひとつの効果! このユニットが場にいる状態で自分のユニットが破壊された時、その数だけ追加で攻撃権を得る!」


「攻撃権の追加だと!? 二体死んだってことは、つまり!」


「そう、つまり! レギテウはこのターン通常の攻撃に加えて更に二回! 計三回のアタックが可能となった!」


「そのための自爆か……! 勝手に死んどいて無念とはとんだ物言いじゃねえか、クソったれめが!」


「なんと言おうと仲間の命を背負ったレギテウの怒りは本物だ。その報いを! お前のライフコアで払ってもらう!」


 カシャン、とレギテウの両翼が広がった。そこからスラスターのようなものが覗きカチカチと閃光を瞬かせたかと思えば、いきなり猛烈な勢いで火を噴き出し──そして。


 レギテウの姿が消えた。

 そう思った瞬間にはクロノのライフコアがひとつ消し飛んでいた。


「なっ!?」


「さあ、クイックチェックだ!」


「クっ……!」


 ドローしたカードを確認する。それがクイックカードでないことをクロノが確かめた、その時。


「ぐあッ!?」


 目では追えない速度を維持したまま翻った影がまたしてもライフコアをひとつ削った。それに怯える間もなくクロノが最後の望みを託して行ったドローは──それも不発だった。


「引けねえ、だと……また・・か!」


 前回用いた手加減用のデッキならばともかく、この本命デッキですらもここぞという時に望むカードを引き寄せられないこと。そこにクロノはアキラが持つ運命力を見た。そしてそれを認めてしまったからには──。


「……チッ。俺様の負けだな」


「ファイナルアタックだ!」


 高速移動をやめ、ようやく姿を見せた眼前のレギテウ。繰り出される無慈悲なる一撃──それを受けてクロノはライフアウト。大会決勝に進むのドミネイターは若葉アキラとなった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ