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52.大番狂わせの準決勝

「コスト5、《デンドウ・バード》を召喚! その登場時効果でデッキから『バード』ユニットを一体手札に加えることができる……俺は《デンキ・バード》をサーチしてそのまま召喚! そして《デンキ・バード》の効果発動、場の種族『アニマルズ』一体へ【疾駆】を与える。これで《デンドウ・バード》は【疾駆】を得た!」


「流れるようなサーチからの強化。なんと無駄のないことか……私の負けだね」


「先輩のおかげでいいファイトができました。──ファイナルアタック!」


 二年生の彼のライフコアは残り一個で、それを守るために守護者ユニットが二体立ち塞がってはいるものの、アキラの場にはたった今【疾駆】で行動できるようになった《デンドウ・バード》を含めアタックできるユニットが三体いる。防ぎきれない。それを悟った彼は、自らの愛するユニットが無駄に散ることを良しとせず、大人しく一体目のアタックを受け入れて敗北した。


「五回戦進出おめでとう、後輩くん。君は強いね。負けた私のためにも、是非その強さで優勝までしてもらいたいものだが……できそうかい?」


「優勝してみせます。自分のためにも、そして戦ってきた皆のためにも」


「良い答えだ。観客席から応援させてもらうよ」


 機会があればまた戦ろう。そう言ってフィールドを後にする先輩の後ろ姿を見送り、最後に一礼したアキラが顔を上げたとき。彼の眼前には棒キャンディを舐める友人がいた。


「何々、アキラってば負かした先輩と仲良くなってんの? よくできるねーそんなこと」


「ミオ……?」


「ボクも二年生は二人倒したけど、どっちもボクに負けたのがとんでもなく悔しかったみたいでさー。ファイト終わりの会話なんて一切なしで逃げるように離れていったよ。まあ、仲良く会話してくれないのは別に先輩方に限った話じゃあないけどね」


 ほら見てよ、とミオが指差した先に目を向ければ。ひとつのフィールドの、プレイヤースペースにて、立ち尽くす舞城オウラの姿があった。


 いつでも優雅な彼女らしくもなく両の手をぎゅっとキツく握り締めて震えさせているその様は、明らかになんらかの恥辱に耐えんとしているもの。それを目の当たりとして。そして彼女が四回戦で当たったのが横にいるミオであり、そのミオがこうもあっけらかんとした様子を見せているからには──。


 まさか、とひとつの予想が立ったアキラにミオは「そうさ」と軽く笑った。


「もち、ボクが勝ったよ。楽勝楽勝」


「楽勝だって──舞城さんを相手に?」


「今日戦った相手の中じゃあの人が抜群に手応えあったけどね。でもボクの勝利は揺るぎない……それは誰が敵でも変わらないよ。だってボクは超天才なんだから」


 言ったでしょ、優勝するって。ミオはそう言ってアキラを見上げた。


 自信満々に己が勝利すると公言し、その実現を微塵も疑わないこと。ミオはいつもこんな調子であるし、彼でなくともドミネイターであれば誰しも多かれ少なかれそういった傾向にある。が、あの舞城オウラが──コウヤを下して見るからに好調であった彼女すらも敵わなかったという事実が、ミオのビッグマウスに計り知れない説得力と脅威を伴わせている。


 コウヤの仇を取る。そのつもりでいたが、もはやそれは叶わない。行き場をなくしたオウラへの戦意が胸の内でわだかまるのを感じつつ呆然とするアキラに、ミオは。


「できれば本気のアキラとも戦いたいからさ。ちゃんと決勝まで来てよね? せっかくここまで勝ち残ってるんだから、最後にボクを楽しませてよ」


「……決勝でも勿論、楽しいファイトをするつもりだ。だけど勝つのは俺だよ。たとえミオがどれだけ天才だろうと」


「──あは、いいね。そういう目をするおにーさんとファイトしたいと思ってたんだ。……たぶんおにーさんにとってDA最後のファイトになるだろうから、ボクが盛大に弔ってあげるよ」


 優勝できなければ退学。その条件でDAに残っているアキラであるが、残念ながらそれは叶わない。なので条件を突き付けたムラクモが心変わりでもしない限りアキラの退学は決まったようなもの……と、自然にそう考えているらしいミオは、どこまでも自身の強さを信じている。


 これだけの強度・・が果たして己にはあるか。

 アキラは思わず自問自答し、しかしその答えが出る前に。


「さあ! 四回戦もこれにて終了! 勝ち残ったのはぁ──この四人だっっ!!! 皆、ベスト4たちへ盛大な拍手を送ってやれぃ!!」


 権林のアナウンスが会場に轟く。はっとしてアキラが辺りを見回せば、いつの間にかオウラもフィールドから去ったようで、残っているのは自分も含めて確かに四人しかいなかった。


「うぉおお! 残った四人中三人が一年生とは! 今年の新入生は素晴らしいな! いわゆる豊作の当たり年ってやつかぁ!? だが二年生も一人残っている、ここは先輩の意地を見せてもらいたいところだな! 贔屓してやることはできないが、二年担当として内心で応援はしてるぞっ!」


 権林の暑苦しさにまた観客席から野次のようなツッコミが入り、どっと生徒たちが湧いた。……その楽しげな雰囲気の中でアキラは静かに考える。


 これよりAグループではミオ対二年生による準決勝が行われる。そして自分が所属するBグループにおける準決勝のカードとは──。


「よぉ、若葉アキラ。言いつけ通りにちゃんと生き残ったようだな」


「クロノ……!」


 若葉アキラ対玄野センイチ。待ちに待った、彼と本当の意味での真剣勝負ができる時。その舞台として合同トーナメントはうってつけである──そう思っているのはアキラだけでなく、クロノも同様のはずだ。


「あの日の誓いを果たすとしようぜ……本気のファイトだ! 今度こそ俺様の黒デッキでてめえを食らい尽くしてやるよ」


「そうはいかない、俺もあの日とは違うんだ……本気のお前にだって勝ってみせる!」


「ハ、やってみやがれ」


 牙を剥くような獣じみた笑みを浮かべ、クロノはフィールドの反対側へと向かっていく。四回戦から最終の六回戦まではほぼノンストップで行われることが権林より事前に知らされている。休憩時間という甘えた・・・ものはなく、気を落ち着ける暇などない。本来ならこうして喋るよりもデッキの見直しなどに務めるべきなのだ──実際、勝ち残った唯一の二年生は黙々とデッキ調整をしている。が、それに気付いていないわけでもなかろうに、しかし一切カードに触れないままでミオは実にのんびりと歩いてアキラのすぐ傍にまでやってきた。


「ふふ、どんな関係かは知らないけど随分と盛り上がってるんだね。こりゃどっちが勝ち上がっても退屈はしないで済みそうかな? ま、一応はアキラに賭けとくから頑張って」


「それはありがとう。でも、俺よりそっちは大丈夫なのか? ミオの相手もだいぶ手強そうな人だけど」


「あははっ、誰に言ってんのさ。もう一度言うよアキラ──誰が敵だろうと、ボクの勝利は揺るぎない」


「……、」


「それじゃまた、決勝でね」


 背中を見せたまま手を振って、二年生が待つフィールドへ向かうミオ。彼らの内どちらが勝利するか。それはアキラに予測できるものではなく、そしてこれから挑む戦いにはなんら関係のない事柄でもあった。


 故にアキラは一秒ほど、通常の瞬きよりも長く瞼を下ろした。


「──よし」


 それを開けた瞬間にはきっぱりと意識が切り替わっており、その脳内からオウラのことやミオのこと、決勝に向けた思いは綺麗さっぱりと消え去っていた。戦うからには、ドミネイターであるからには、まだ見ぬ相手ではなく目の前に立つ敵のみを見据えるべし。それが勝つための定石であり、守るべき流儀である。


 フィールドを挟みクロノと向かい合う。クロノもまた、先のことなど考えずに自分だけを見ているのがアキラにはわかった。


 再戦の時来たれり。彼との間に長々としたお喋りは必要ない……求められるのはカードのやり取りだけ。


「「ドミネファイト!」」



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