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505/510

505.駆け巡る噂!

「聞いたっすよセンパイ。近くUDAから刺客が来るもんで、それを迎え撃つためのメンバーを選抜するバトルロイヤルが開催されるらしいじゃないっすか」


「…………」


「え、なんそかその顔」


「いや、つい昨日にも同じようなセリフで話しかけられたなって」


 しかしみんな耳が早いなぁ、とアキラはちょっとした畏怖を抱きながら呟く。交流戦の噂がとうに広まり切っているのはもちろん、コウヤと共に計画を進め出したばかりの選抜バトルロイヤルの実施までもがたった一日で──実際にはコウヤに相談してからまだ二十四時間経過していないので一日未満だが──生徒周知の事実になりつつあるのがなんとも恐ろしい。


 いくら人の口に戸は立てられぬと言っても……そしてアキラやロコルもバトルロイヤルの意義と交流戦までのタイムリミットを思えば早めに知れ渡ってくれた方がいいということもあって特に隠したりもしていないものの、だとしても少々情報の広まり方が急速に過ぎる。優れたドミネイターになるためには(将来的にプロの世界でやっていくことを視野に入れているならなおさらに)自身に必要な情報を的確にキャッチする能力とて当然に備わっていなければいけないものではある。なのでアキラの畏怖も呆れや恐怖というより感嘆に近い感情からくるものであったが、なんにせよ自分の意図しない速度で物事が動いている感覚には僅かなりとも居心地の悪さを感じずにいられなかった。


「だけど良かったじゃないっすか? 紅上センパイに打ち明けのは大正解っすよ。話を聞くにセンパイだけじゃ学園長に課された二週間のタイムリミットを守れていたか相当怪しいっす。それに、バトルロイヤルっていう一番シンプルだからこそ一番手間のかかる選抜法だって実行の余地はなかったわけなんすから」


「そうなんだよな。だからこのスピード感には慄く気持ちもあるけどそれ以上に『これならなんとかなりそうだな』っていう安心感もあるのは否めない……コウヤやエミルにおんぶにだっこで情けなくはあるけどさ」


 コウヤの行動力とエミルの働きかけ。これらがなければこうも素早くバトルロイヤルの開催まで漕ぎつけることはできなかったろう。今は職員室からの認可待ちなので開催が確定しているわけではないが、担当教員であるムラクモにもきちんと話を通してあるし、どの先生方からも反応は悪くなかった──実質的にバトルロイヤルは(準イベント扱いで)執り行われることが決定されているようなものだ。あとはそれが明日になるか明後日になるかといったところ。一人で寮の部屋に籠ってああでもないこうでもないと悩み続けていた時間が嘘のような展開である。


 学園長に任された手前、自分の力で速やかにここまで持って行けていたら格好もついたのだが、理想虚しくアキラがやったことと言えば申請の手続きで署名したくらいのもの。言ったようにこの展開に寄与したのはコウヤでありエミルであり教師陣であり、ほとんどが他力である。アキラ自身の力などなんの役にも立っていない──ということは、ない。皆が快く力を貸してくれるのはそれを求めているのがアキラだからであって、ならばそうやって借りられる力もまた彼の自力の内に含めたってなんら問題などないはずだ。アキラ以外の者だとそうそうここまでスピーディーに事を運べやしない。そのことを踏まえれば学園長が彼に一任した判断は正着でこそなくとも「正しい」ものであったと言うこともできるだろう。


 そんなことは一切考えずにただ「こんなに人任せでいいのかなぁ。でもそれ以外にないし正直助かったし」としか思っていないアキラに、ロコルが「そうっすよ」と軽く同調した。


「悪い方に向かってるならともかく良い方向に話が転がってるんすから喜びこそすれ戸惑う必要なんてないっす。で、センパイ名義で開かれる今度の大会には、とーぜん自分も参加していいんすよね?」


 一年生は除外なんてのはナシっすよ、と念を入れて確認する彼女に、やっぱりそれが目的だったかとアキラは小さく笑って。


「そこらへんは大丈夫、学年を理由に弾かれるようなことはないよ。このバトルロイヤルへの出場条件はたったひとつ、直近のテストで一般科目でもドミネ座学・実技でも『赤点を取っていないこと』だけだから」


 直近のテストとは期首ごとに必ず行われる総合試験──ロコルたち新入生にとっては初めてとなる大掛かりなテスト行事のことを指しており、厳密に言えば一年生と二年生以降では内容のボリューム面でかなり差があるものの扱いとしては同じだ。そこで赤点相当(ドミネイションズ・アカデミアの基準では一般科目においては60点以下)の点数を一科目でも取ってしまっている生徒は参加資格を得られない。言うまでもなくこれは開催の手続きを行うにあたって職員室側から付け加えられた条件である。


 アキラとしては参加の資格・条件など一切なしの門戸の広いイベントにしたかった……その方が当然より多くの生徒にチャンスが行き渡るのだからふるい落としのような真似をする気はなかったのだが、さすがにDAの体面的に成績不振者を学園の代表として扱うことはできないと諭されては条件付けに応じざるを得なかった。


 まあ、道理である。事は一学校と一学校の間だけでは済まない。世界最高のドミネイター育成校であるUDAの動向は自ずと世界中の注目を集めるからして、それに対応するDAにもその視線が注がれるのは避けられない。つまりはここで粗相でも犯そうものなら全世界にその醜態が知れ渡ってしまうということ。赤点など取らないのが当たり前というアカデミア本来の教育方針を思えば尚更に、成績の面で不良を抱えている生徒はバトルロイヤルに参加する資格なしと見做すのも──そんなことよりもまずは自分の学業に専念しろとお達しが下るのも致し方ないことであるとアキラとしても一応の納得はできている。


「とにかく、赤点云々なんてロコルにはいらない心配だろ?」


「そっすね。実技はほどほどにしかやってないっすけど一般科目ではオール学年一位取ってるんで」


「思った以上にいらない心配だった……」


 彼女ならファイトのみならず勉学においてもそつのない成績をおさめているであろうと予想していたが、そつがないどころではなかった。オール一位などどれだけ必死になっても取れない者には一生取れない。忘れてはならないのが、アカデミアに通う生徒は一人残らず優秀であるということ。だからこそ赤点のラインも平均ではなく一定共通のラインとして高く設定されているわけで……中にはアキラや、一年生で言えば宝妙ミライのようにファイトの腕ばかりが突出していてペーパーテストではいまいち振るわない生徒もいるにはいるが、それはあくまで少例。バランスよくどちらも好成績を維持している・できている者が大半なのだから、そんな並みいる試験の猛者たちを抑えつけて一位の座につくというのはたとえひとつの科目だけでも簡単なことではない。


 ここまで説明すればロコルがさらっと言ってのけた「オール学年一位」がどれだけ凄まじいか理解できるだろう。ちなみに大仰に驚いてはいるものの、ミオなどの世話になりながら真面目にテスト勉強をしていても赤点のギリギリ回避がやっとで毎回ヒーヒーしているアキラはその凄さを真に理解しているとは言い難いのだが、そこはご愛嬌である。


「そんでセンパイ。バトルロイヤルとひとくちに言っても本当に無秩序に全員を戦わせるってわけでもないっすよね。いったいどんな形式のイベントにするおつもりっすか?」



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