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504.引っ張ってくれる人

「聞いたぜアキラ。近くUDAから刺客が来るんだってな? そんでもってそれを誰が迎え撃つかをお前が決めるそうじゃんか」


「コウヤ」


 どこからそれを聞きつけたのか、などと考えることにあまり意味はない。学園長はこのことをアキラに話した際、声量を抑えた上でエンドウ教員にもマイクを控えさせて観客席に聞こえないようにしていたが、しかしエンドウだけでなく教師陣は全員が留学生来訪の件を承知していることはもちろん、迎え入れるに当たって教員だけでなく保全官も、そして生徒会を始めとした各種委員会も動く。残り半月という期間を思えば準備は既に進められているはずで、つまりこの一件を知っている者は少なくない。箝口令が敷かれているわけでもなし、生徒の間をどのように噂が渡り歩いていようとなんらおかしなことではないのだ。


 刺客だとか迎え撃つだとかやたらワードが物騒になっている点が如何にも噂が独り歩きしている感がある……いやまあ、実際に留学生は来るし交流戦という迎え撃つ場も設けられるために合っていると言えば合っているのだが、そこがまたアキラとしては否定のしようがなくて困ってしまう。ともすればこうなるのを見越して、つまりはアキラの決断をせっつくために学園長自身が積極的に情報をばら撒いている可能性すら思い浮かぶくらいだが。何はともあれ今は鼻息も荒く、あからさまにメンバー入りに名乗りを上げんとしているコウヤへの対処が最優先事項であった。


「で、どーやって選ぶつもりなんだよ。まさかあみだくじをしましょうってわけでもないんだろ?」


「そ、それなんだけどさ。学園長に言われてからこの丸二日、誰をどうやって選ぼうか考えてみて──」


「ふんふん、考えてみて?」


「何も思い付かなかったんだよね」


「ダメじゃねえか!」


 呆れ混じりのコウヤのツッコミにアキラは「たはは」と頭の後ろへ手をやりながら力の抜けた笑い声を漏らす。あまりそうは見えない態度だが、これでも彼は本気で困っていた。何せ本気でどう選んでいいものかわからないのだ。留学生と競い合えるのは全部で五人。その内の二枠は自分とエミルで埋まっているために、他に選べるのは三人のみ──この三人というのがまたなんとも絶妙であった。世界に名高きユナイテッド・ステイツ・アメリカの特別スペシャルな生徒らと戦うに相応しいと「アキラが見做した三人」……そこには誰を選ぶにしても選ばないにしても結構な禍根が残りそうな気がして、どうしても雑念が思考を邪魔する。


 本音を言えば実力も確かで一番の親友かつ幼馴染でもある目の前のコウヤを選ばない理由はない。だがそれで迷わずメンバー入りさせてしまっては選定に贔屓がないとも言い切れない……何故なら実力の面だけで言うならコウヤに負けず劣らず確かな生徒は他にもいるのだ。


 まずはコウヤと終生のライバルだと公言している上に直近の戦績ではアキラが最も負け越している舞城オウラ。そのオウラ相手に安定した勝ち星を得ている飛び級の天才少年泉ミオ。またアキラとの戦績が五分であり最近になって『準覚醒者』に名乗りを上げた玄野センイチや、また先日のトーナメント決勝における激闘も記憶に新しい「怪物の妹」九蓮華ロコルも、一年生ながらに覚醒の力を手にした実力者。そんなロコルと覚醒にこそ至っていないが互角以上に渡り合える宝妙ミライ・観世マコトといった御三家の次期当主たち……他にもイオリやチハル、あるいはここに名を出してこそいないがこの一年間同級生としてアキラを大いに苦戦させてきた生徒らも含め、彼が知るだけでも選ぶに足る人材は豊富にいる──いすぎるくらいなのだから参ってしまう。


 選ぶ基準も方法も意のままにしてよい、とは言われたものの、もはやアキラには何を基準とすればいいのかまったくわからなくなってしまっていた。合同トーナメント明けの休日の間に一人でじっくりと頭を悩ませてみたが、そのせいで悪い意味で煮詰まってしまってどうにもならなくなっているのだ。ここまでくるともうどんなに考えたって、否、考えれば考えるほどに結論など出せない。出せるはずもない……ということで、にっちもさっちもいかなくなったアキラは思い切って親友にその苦悩をまるっと打ち明けることをここに決めた。


 追い詰められているが故の迷いの無さ。ではあるが、そこまででなくともどのみちコウヤに対してアキラは同じことをしていたかもしれない。そうすればコウヤは必ずや自分の力になってくれると知っているからだ。


「ったく、仕方ねえなぁ。ファイト中はあんなすげーのに普段はマジで優柔不断だもんな」


「いやぁ、それほどでも」


「ちっとも褒めちゃいないのになんで照れる? いやそれよりも『どうやって選ぶか』、か……」


 腕を組み、真剣に考えてみるコウヤ。彼女としてはアキラが悩む気持ちもわかるのだ。選ぶという行為はそれ以外を選ばないということ。逆の立場なら自分だって同じように苦慮するだろうし、アキラがこういう時にいまいち思い切りの良さを発揮できないタイプであるとも長年の付き合いからよく知っているだけに、軽い調子で話すアキラがその実とても追い詰められていることにも何も言われずとも気付いている。


 なので、つい数分前まではアキラが誰をメンバーにするつもりでも……それこそ選抜が既に完了していたとしても、それを捻じ曲げてでも「自分を枠に入れろ」と半ば押し切るつもりでいたことも忘れて、ひとしきり頭の中だけで案を出したコウヤはその果てに。


「……あー、アタシもダメだな。選び方はいくらでも思い付くけど、それだけに何がベストなのかわからなくなる。去年からの総合成績か最近の調子か、座学も含めるか実技だけに絞るか……つい二日前のトーナメントの順位で決める、っていうのもやり方としちゃアリだがそれだとアタシがまず選ばれなくなってヤだからな」


 公平に考えつつもしっかりと自らの我というか意思を介入させてくるあたりにさすがはコウヤだと妙な感心を抱いていたアキラだが、続く彼女の言葉には感心どころではなくなった。


「だったら仕方ない。どんだけ考えても迷っちまうってんなら解決策はひとつだ」


「解決策……? そんなものが」


「あるだろうよ、選ぶ基準だなんだと頭を働かせずに済む方法が。ごちゃごちゃし始めたらシンプルに行く! これが我が紅上家の家訓なもんでね、今回はアキラもそれに従ってみねーか?」


「いかにもコウヤとかコウヤのお父さんお母さんらしい家訓だなって思うけど、実際どうするっていうのさ?」


 それで本当に悩みが解消されるのであれば無論のことアキラとしては従うのもやぶさかではない。期待を込めて説明を待つ彼の眼差しに、コウヤはニヤリと彼女らしい好戦的で男らしい笑みを見せてこう言った。


「バトルロイヤル! 交流戦に出たい奴みーんなで戦り合って、生き残った面子がそのまんま枠をゲットする! これぞ最高にシンプルでわかりやすい選抜方法ってもんだろ──『欲しいのならば勝って手に入れる』っつードミネイターの本懐にも一番合ってるしな!」


「……!」


「もちろん主催はお前だぜ、アキラ。なぁにエミルあたりにも声をかけりゃあ喜んで協力してくれるだろうし、あいつが動けば開催もすぐだぜ。参加人数があんまりにも多いようなら日を跨いでもいいしな」


 ざっと十日も見積もれば充分に終わんだろ、と日程の余裕まで考えて計画を立てるコウヤにアキラは口をあんぐりとさせる。自分では考え付きもしなかった、考え付いたとしても実行に移しはしなかっただろう選抜方法バトルロイヤル。それを発想した当人はとっくに「やる気」になっているようで。


「おら、なにぼーっとしてんだよアキラ。さっそく職員室に話を付けに行くぞ。放課後にやるにしたって教師連中からの許可がねーとヤベーだろうからな」


 そう言ってアキラの手を引っ張ってぐいぐいと進んでいく。それに合わせ慌てて足を動かしながら、アキラは吹き出すように笑った──やはりこの幼馴染にはどうしたって敵わない。そう何度目になるかわからないコウヤへの尊敬をもって。



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― 新着の感想 ―
[良い点] まさかのバトロワ形式 というか蛇足言うけど、普通に続きそうで嬉しい 新たな強敵だがこういう展開あるあるが相手の上級生最強格にエミルが負けるパターンだけどそれは嫌だし 苦戦はするけどそれで…
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