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503.戸惑いのアキラ、学園長の無茶ぶり!

 海を越えてやってくるユナイテッド・ドミネイションズ・アカデミアの生徒たち、その強さは如何ほどのものか。交流戦のことを思えばそういったデータは重要だ。実際にファイトを行なうDA側の生徒にもそれを共有するかどうかはともかくとして、せめて教師陣だけでも留学生のプロフィールは──中でも特段に、直近のファイトの戦績くらいは知り得ていた方がいい。そのために学園長はDAの情報部を動かしたが、しかし件の少女とリーダーのファイトの勝敗はどうしても明らかにできなかった。情報部をして調べがつかなかったということは、つまりそれだけ念入りに隠されているということ。UDA側の情報部が秘匿に努めていることはほぼ確定である。


「『隠されている』。どちらが勝ったにせよ負けたにせよそれだけで察せられるものもある……いずれにしろリーダー格の少年はやはりUDAにとっても特別な存在であり、そして新入生ながらにそんな少年と戦うことが許された少女はともすれば『もっと特別』な生徒なのやもしれん」


「……!」


 いくら資格の取得条件が日本と異なり、アメリカでは学生の内からプロ入りを果たす者もざらに出てくると言っても、それがありふれた例でないことは言うまでもない。ドミネイター育成校の卒業前、世間一般的にはまだ「半人前」と見做される時分からプロリーグへ挑めるのはそれだけ優秀であり確かな実力を有していることの証である。卒業試験をクリアせずして既に非の打ちどころのないドミネイターだと、そう認められずしての独り立ちは如何にアメリカが自由を重んじる国と言えどあり得るはずもない。そのことを踏まえるに、そしてわざわざここDAへ留学生として送られてくるという点も含めて、リーダー格の少年が凄まじく才に満ち溢れた「特別な生徒」であるのは間違いない。そこは疑いようもないだろう。


 であるならば、そんな彼と比較しても対等か、あるいは更に特別扱いを受けている節のある「新入生の少女」とはいったい何者なのか。どれだけの活躍をすれば入学から一年未満でそのような地位につけるのか、アキラには想像もつかなかった。それは彼があくまで日本生まれ日本育ちであり、かつDA内のことしか知らないが故にUDA側の事情に疎いから……ということだけが原因ではないはずだ。


「残る三名も戦績の面でやはり他の生徒を抜き離しておるが、代表リーダーの子とこの少女は抜き離しているどころの騒ぎではない。あまりにも異質が過ぎる……DA(うち)よりも広く生徒数でも遥かに上回っておるUDAにおいての明らかな異質。それが何を意味するかは、君にも感覚で掴めるじゃろう」


「……はい」


 UDAの方が格上であり、生徒もまた強い。そう認めることこそせずとも、しかしあらゆる面においてDAよりも規模が大きいのは純然たる事実である。創設はあちらの方が早く「古い学校」であるのに設備や機材の面でも非常に充実しており、圧倒的な資本に物を言わせた最新鋭の環境が作られている。日本国内に限ればDAの充実具合は間違いなく最高峰であるが、さすがに世界レベルのUDAと比べてしまうとその差は歴然。無論、だからとて生徒の数だけでなく質でまで劣っているなどとは学園長もアキラも露とも思っていない……が、決してUDA側が劣っているとも言えない。ましてや留学生の五名はそんな学校が自信を持って打ち出す一級スペシャルたちだ。


 交流戦でただ「いい勝負」をすればいいというだけでなく、あくまで勝利を目指すのであればそれは簡単なことではない。苦戦必至の相当に厳しいものになる──そう理解したアキラの口からその質問が出たのは自然な流れであった。


「エミルと俺は決定として、残りの三人はどうするんですか?」


 エミルに関しては在学五年間の成績と戦績からして学園長の言う通り、選ばれるのになんら異論もない。彼を選ばずして誰を選ぶのかといったところだ。そして手前味噌ながらその抜群の戦績を持つ相手に、試験やイベント等の公式戦でこそないものの公の場で勝ってみせた自分もメンバーに入るのは、それもまた誰からも異論の上がらない決定だろう。とアキラは自認する。


 五名の内の二名はまさしく鉄板の選抜であると言える。そこで問題になるのが空いているあとの三枠を誰で埋めるかだが……何か選ぶ当てはあるのかと疑問を投げかけたアキラに、学園長は顎下の白い髭を撫でながら言葉を返した。


「どうするかは君次第じゃよ」


「えっ? それはどういう」


「じゃから、君に選んでほしいと言うとる。残る三名のメンバーを君が決めるんじゃ。共に戦う仲間をな」


「ええっ!?」


 アキラの泡を食ったリアクションも無理からぬことであった。確実に強敵である謎の留学生たちに肩を並べて立ち向かう仲間。その面子が具体的に誰になるのか気にするのは当然の心理でしかないが、だからといってそれを「自分で決める」となるとまったく話が変わってくる。選抜は学園長が行うものだと思い込んでいたからこそ自分事ながらにある種他人事のように誰が選ばれるかを──ちょっとした楽しみも込めて──訊ねることができたのだ。しかしポンと置かれた学園長の手はアキラの双肩に突如として重大な責任感を乗せてきた。


「君なりの結論でいい。しっかりと考えてメンバーを選定してくれれば、誰であろうとワシは良いと思っておる。一年生からでもいいし君の知り合いだけで固めてもいい。基準も方法も全ては君の意のままじゃよ」


「意のままと言われても……それが一番困るというか」


 せめてどう選べばいいのかアドバイスくらいは欲しい、というかそもそも自分では選びたくないのが本音であるが、生憎と学園長の決定・・はもう済んでしまっているようで。


「これは君を交流戦のメンバーに組み込む唯一にして絶対の条件じゃと認識してくれてよい。なぁに、たった三名をピックアップするだけじゃ。そう大した手間にもなるまい?」


 この場合は残りの枠が「たった三つ」しかないことが何よりも問題なのだが。是非とも選びたい、選ばれなくてはおかしいくらいの実力者が知り合いだけでも既に十名は頭に浮かんでしまっているアキラとしては苦笑いを浮かべることしかできず、しかし学園長はそんな彼の当惑を知りながらも茶目っ気たっぷりに笑い返すばかりであった。


「よし、頼んだぞアキラ君。留学生の来校は来月の初め、あと半月ほど。交流戦はその翌日に行われる予定じゃ。二週間以内に選んだ生徒を職員室まで報告してくれるとありがたい。もしも間に合わんかった場合は……まことに残念ながら交流戦は君とエミル君だけを出して二試合で終わることになるじゃろうな」


 それはせっかくの戦う機会をなくした他の生徒が可哀想であるし、何より全員で戦うつもりでやってくる留学生たちにも失礼だ。選定が間に合わずメンバーが揃わない、なんて事態はあってはいけない……と、しっかりと釘だけは刺してきた学園長にアキラの苦笑いが空笑いに変わる。


「ほっほ、喜んでもらえているようで何よりじゃ。改めて優勝おめでとう。交流戦でも活躍を楽しみにしておるぞ」


「あ、はい……」


 そう返すしかないアキラに学園長は心から満足気にうむと頷き、そして会話が終わるのをずっと黙って待っていたエンドウ教員に一言二言話しかけてから壇上を去っていった。仕切り直すようにエンドウがアキラのトロフィーを持っていない片手を掲げて優勝の栄光を口にする中、廊下の向こうへ消えていく老人のどこまでも飄々とした背中をアキラは最後まで見送っていた。



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