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492.若葉アキラから九蓮華ロコルへ

 アキラが新たに呼び出した『森王』ネームの一員《森王の防人》はその名から受ける印象とは裏腹に、専守防衛の姿勢とはまったく異なる「特異な守り方」を得意とするユニットであった。それ即ち専守ではなくむしろ積極的に攻め入ること。攻撃に力を入れることで我が身と、我が身を盾としてでも守るべき主人プレイヤーの安全を確保する。防人の負う任とはそういうものだ。


 他の『アニマルズ』ユニットへクイックチェック封じの能力を付与する。如何にも攻撃的ながらに、されどドミネイションズとはそもそもが攻めと守りが、チャンスとピンチが一体となって切り離せない表裏のことでもある。ライフコアのブレイクによって起こるクイックチェックが反撃の何よりの機会であるからには、つまるところそれを封じ込められる防人の能力はカウンターを予め阻止できる優れた防衛効果であると称せられる。攻撃こそが最大の防御。という言葉を地で行くユニットだと理解したらいい。


 そんな『森王』ユニットをここで呼び出したアキラの意図は、ロコルにも明白であった。


 何せ彼女もまた《無銘剣ブレイザーズ・ナイト》と《月光剣ムーンライト》のコンボこそを決め球としていたのだから……最大四連続のブレイクかつクイックチェックを行わせない最強の一手として運用していたのだから、その能力が攻めの観点からも守りの観点からもどれだけ頼りになるかは改めて説明を受けずともよくよく知っている。それだけ頼りになるものが敵に回った際、どれほどの脅威になってしまうのかもまた重々に理解できている。


 意趣返しのように現れた月光剣と同様の力を持つ《森王の防人》。しかしてこのユニットを呼んだアキラの思惑が単なる仕返しや意趣返しにないことは明らかであった──なんのためと言われたら、念のため。念には念を入れて。一分の油断もなければ一片の瑕疵もない、まさに『完璧』に詰め切ろうとしている。勝負を終わらせるラストブレイクを、ただのブレイクではなく、まったく負け筋の存在しない究極的なブレイクへと仕立て上げようとしている。あそこでああだったならば、あの時にそうなっていなければ。などという「言い訳」や「もしも」が浮かばないほど、そんな余地など皆無の一手を打とうとしているのだ──それがアキラの思うファイトの決着に相応しい、一撃。締めとすべき最後の攻撃。


 だから彼はまだ止まらない。満足をしない。


「他の『アニマルズ』ユニット全てに、とは言っても俺の場にいる防人以外のユニットはシルバーダイヤだけだ。防人の全体付与の良さは活かせないが、言ったように今はこれで充分だ。俺の求める一手は完成しつつある」


「っ……、」


 完成しつつある、ということは、現時点ではまだ完成していないということだ。残りライフコアひとつのロコルを前に、クイックチェック封じを持つ【疾駆】ユニットを用意した。チェックメイトと受け取るに不足ないだけのものを場に出しておきながら、アキラはそれでも足りないと見做している。まだ、決着の一手に相応しくないと。いったいどういう了見なのか。何を思ってそんなことを言っているのかロコルにはわからなかったが、けれど。


 少なくとも彼の「真摯な姿勢」だけは、そこにある定まった心──『芯』だけは、揺るぎなく信じられるから。


 いいだろうと思う。やれるだけをやる、というのなら、是非ともやってみせてくれ。この目に見せてくれ。この心に魅せてくれ。あなたが思う、あなたが想う最高の終わらせ方というものを。ドミネイター若葉アキラが、ドミネイター九蓮華ロコルに下すに相応しい一撃というものを……!


「残り四つのコストコアを全てレストさせて! 緑の4コストスペルを唱える!」


「!」


 ここにきてスペル。ここまできてなおスペルカードに何かさせるだけの余地があるのか。──アキラが手札より抜き出して掲げたその一枚は、ロコルだけでなく観客席の全員が共通して抱いたそんな疑問に問答無用の答えを示すカードであった。


「《獣合進軍》! 超動だ!!」


 カードが輝く。アキラの唱えたそれは彼の手元よりフィールド全体を覆うほどの光を放ち、しかしてそれは一瞬で収まった。強烈な閃光は見間違いか? 注意して見渡してもアキラとロコル、どちらの場にもなんの変化もないことからともすればそう思い込んでしまってもおかしくはないが、そうではない。決して見間違いでもなければ不発でもなく、そのスペルカードはきちんと効力を発揮していた。


「…………、」


「ああ、合っているぜロコル。《獣合進軍》は火力スペルでもなければ展開系のスペルでもない。言うなれば《森王の防人》と同じく俺の場のユニットをサポートするための補助系スペル。それも攻撃面でこそ活きる効果を持っているって点も共通している!」


「……!」


 やはりそういうことだったか。つまり彼はここから更にシルバーダイヤの攻撃を、彼が行う最後のダイレクトアタックを強化して十全の攻めに、否、万全の攻めにすると宣言しているのだ。──が、解せない。それは防人によるクイックチェック封じの付与によってとっくに果たされていることでもある。だからこそロコルにはアキラが満足しない理由がわからず困惑を隠せなかったわけだが、果たして彼が欲する「まだ」とはなんなのか。何が足りていないのかをしかと見届けんと、少しでも気を抜けば瞼が落ちてしまいそうなボロボロの心身に鞭打って両の目を見開く。そんな彼女の様子に、アキラもまた疲労を感じさせない堂々たる振る舞いで応えた。


「《獣合進軍》は自分の場に種族『アニマルズ』のユニットが二体以上いる時のみ詠唱が可能なスペル。その効果は、このターン中に俺の『アニマルズ』ユニットがアタックする際、その終了時まで相手プレイヤーは場・手札・墓地・コアゾーンのいずれにあるカードの効果も使用できない。っていう、これもまた相手のカウンターを封じるための封殺・・スペルだ」


 極めて能動的な、いっそ攻撃的とすら言える防御効果を持つ種族専用サポートスペル。それが《獣合進軍》なる初めて目にするカードの正体。そう知ってロコルは、疲れ果てていても聡明さを損なわない彼女の頭脳はより深く理解を示す。このスペルが封じ込める『範囲』。重要なのはそこだ。四箇所とただ広いだけでなく、それはクイックチェック封じと合わさることで封殺の度合いがより強力になる、より凶悪になる嚙み合わせをしている。そのことにまで気付いた彼女に、アキラは頷いて。


「そう、防人が付与するクイックチェック封じの穴。それは手札に加わらず墓地へ落とされた一枚が『墓地でこそ活きる』カードだった場合、文字通りの墓穴掘りになりかねないっていう点だ」


 ──もしもそれが回復系のカードであった場合は目も当てられない。クイックカードのそれと同様にそのタイミングで発動される回復効果はファイト終了の判定に先んじて適用され、一時はライフコアを完全に失ったはずのプレイヤーを延命させてしまう。シルバーダイヤという一手のみに決着を懸けているアキラとしてはそんなことになっては堪ったものではない。故に、可能性をゼロにする。ロコルが生き延びる確率を万にひとつどころか億にも兆にも一厘すらも見つからないように、徹底的に潰す。


 過剰なまでの警戒と実行。それこそがロコルというライバルへ捧げる彼最大の賛辞であり、最高の敬意の表れであった。


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