表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
491/510

491.らしくないから

 サーチ対象としたカードを開示する。それがきちんと《アーミーハクビシン》のサーチ範囲に該当しているかどうかを相手プレイヤーへ明示するのだ。……これまで何度となく説明してきたようにファイトボードを用いた──広いファイトゾーンでユニットの幻影ヴィジョンと共に戦う──正式なドミネファイトにおいては終始厳格な不正防止機能が働き、プレイヤー個人の手で反則のしようなどない。つまりはわざわざ相手に見せなくても、サーチが成立している時点でそのカードはルールに則って手札に加えられたことが確定している。反則していないかどうかを相手の目で確かめさせる意味など、本来なら存在しない。


 だがそうと知りながらもドミネイターたちは正式なファイトでも相手への明示・確認を怠らない。反則の介在余地のある机を挟んでやる簡易ファイトでもそうするように、あらゆる意味において端からルール違反など犯せない公式戦であっても同様の行為を貫くのは──プロのドミネイターこそそれを大切にするのは、そこに礼儀と矜持があるからだろう。クリーンな戦いをして、クリーンに勝つ。それが最も美しく正しいファイトであると理解しているからだろう。


 真摯なのだ、ドミネイションズに対して。そうでないドミネイターはまずもってプロにはなれない。それ以前にそうそう勝利数も稼げない。その原因は無論、ドミネイターにとって何より大事な『心』が定まっていないせいだ。心・技・体。その全てが揃っていなければならないドミネファイトにおいて、特に重要となる心を欠いていながら上へ行けるほどドミネイションズの世界は甘くはない……と、そのことも一角以上のドミネイターであれば誰もが存じているだけに、大なり小なり身をもってそれを味わってきているだけに、そんな環境で「登りつめる者」となるとやはりファイトに対してひた向きで懸命な者ばかりである。


 アキラもまたそれをよく体現している。誰よりも自身の在り方でそのことを示している、が故に、これだけ強いのか。あるいは強いからこそ真摯でいられるのか。……そこに順番なんて、順序なんてないのだろうと。そう内心で独り言ちる少女の視線の先で、彼は掲げたそのカードの名を口にした。


「俺が手札に加えたのは『アニマルズ』ユニットの《金剛極馬シルバーダイヤ》だ。そしてすぐさまこのカードの効果を発動させる」


「…………、」


「ああそうだ、こいつにはカード効果で手札に加わった際に無コストで自身を場に出す能力がある! 来い、シルバーダイヤ!」


 《金剛極馬シルバーダイヤ》

 コスト6 パワー6500 【疾駆】


 ブルルン、と鼻息も荒く登場したのは名の通り金剛石ダイヤモンドの如く美しい肉体を輝かせる銀の馬だった。見るからに駿馬と判る逞しくもしなやかでバランスのいい身体つきに、体重を感じさせない軽やかな足取り。ただ歩くだけでも空を跳ねているかのようなその移動の仕方は、彼が本気で駆けた際の飛び抜けた速度を連想させるに充分な異様さ。普通の馬とは次元の違う生き物であることを予感させる異常さがあった。


「自己召喚を除けばシルバーダイヤは至って普通のユニットだ。【疾駆】持ちでコスト相応以上のパワーを持っている、如何にも緑陣営の中型ユニットらしいユニットでしかない……って、お前ならそんな風に言うだろうな。だけど赤や緑にはそう珍しくもない【疾駆】。このキーワード効果が与えてくれる速攻能力が今は重大な意味を持つ。そこもお前なら否定しないよな」


 たった一度。一回だけでもロコルへの直接攻撃ダイレクトアタックが決まればそれでいいのだから、シルバーダイヤは特段に珍しいユニットでこそなくとも。アキラのデッキから飛び出すに相応しい変わり種の能力こそ有していなくとも、まったくもって事足りる。十二分に引導を渡す「決め手」足り得るユニットである。それをよくわかっているだけにロコルは。


「…………、」


「いいや、まだだ」


「……?」


 当然に否定しない。もはや終わった勝負である。後は最後の一撃を待つだけだ、と。それをとうに受け入れているロコルとしては、義務と誇りだけを頼りに立っているだけの彼女としてはなんの不満もない。自分を終わらせるユニットとしてシルバーダイヤを見ている、というのに。そう気持ちを眼差しで伝えたというのに、なのにアキラはそれに対して首を縦に振らなかった。


 不可解。抱いた感情のままに僅かに目を細めたロコルへ、アキラは。


「ただシルバーダイヤを突っ込ませるだけじゃダメだ。やれるだけのことをやらなくっちゃあな。お前がそうしたように俺もそうする……そうしなきゃこのファイトの終わりらしくないからな」


「──、」


 まだ、何かあるのか。何かができるのか。用意すべき攻め手を用意してみせた、それ以上に彼は。若葉アキラというドミネイターは、自分と同じように、ただ勝つだけでなく勝ち方にまで拘ろうとしている。栄光に相応しい勝利を手に入れようとしている。それはもちろん自身の満足のためであり、敗北する対戦相手への手向けでもある。そのためにアキラは。


「エリアカード《森羅の聖域》の効果を起動! 俺の場の『アニマルズ』ユニットを一体デッキへと戻すことで、そのコストにプラス2した数までのコストを持つ『森王』と名の付くユニット一体をデッキから選んで直接召喚することができる!」


 アキラのフィールド、そこを一面に彩る緑がざわめき、木々の奥に隠された存在が近づいてきていることを知らせる。謎の存在が登場する代償として入れ替わるべく反応したのは、無論のことシルバーダイヤではなく既に自身の果たすべき役割を果たし終えているハクビシンの方だった。


「デッキに戻すユニットは《アーミーハクビシン》! こいつは6コストを使って召喚されているが《森羅の聖域》が参照するのはあくまでカード上に記されている従来のコストの方。よって3プラス2! 5コスト以内の『森王』ユニットを俺はデッキから呼び出すことが可能だ──来てくれ、《森王の防人》!」


 《森王の防人》

 コスト5 パワー2000


 山羊のような角を頭から生やした人型のユニット。導き手や下支えのような完全な人間ではなく獣人らしい特徴を持った彼は、登場と同時に薄く白い体毛に覆われた片腕を翻して自身に宿る能力を使用した。


「《森王の防人》の登場時効果を発動! 場にいる他の種族『アニマルズ』のユニット全てにクイックチェック封じの効果を与える! この効果を使用した場合防人自体は永続的に攻撃権を失うデメリットも付随するが、今はそれも大したことじゃあない!」


 (フル)(・ク)(ワイ)(エッ)(ター)! 技名の宣言と共に行使された防人の力は、彼の横で足踏みをしながら攻め入る時を待ち構える銀馬へと注ぎ込まれ、その身に相手のライフコアを沈黙せる聖なる静寂の能力を付与した。


「……!」


 いきなり発現した『クイックチェック封じ』──己が最大の一手として、必殺のコンボの要として重用した《月光剣ムーンライト》のそれと同じ力に驚き。それと同時にアキラの発言の意図も掴めたロコルの、極度の疲労を抱える身でもはっきりとそれがわかるほどのリアクション。息を呑んだ様子を見て、アキラは口元に小さな笑みを作って続けた。


「防人が与えるのは、そもそものドローを許さないっていうクイックチェック封じの中でも最凶・・の封じ方をする月光剣のそれとは違って、相手がブレイクによってドローしたカードを手札に加えさせず墓地へ送るっていうタイプ。まったく無慈悲な力ではない……穴と言えば穴だが、もちろん。そんな危ない可能性を残すつもりが俺にないってことは、お前になら言わなくたって伝わっているよな? ロコル」


「…………、」


 その言葉への返事はやはりなかったが、まるで返答を聞くような数拍の間の後、アキラが浮かべる笑みはもっと力強いものになった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ