表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
486/510

486.臨界点

 隕石のようなそれが一文字に流れていく。引力の如くに、まるで引き寄せられるかのようにしてブレイザーズが着弾・・を目指す位置にいるのは、アキラ。彼は刹那の間に来たる衝突に備えてオーラを練り上げた。巨大な一撃。少しでも受け切れずに取りこぼしてしまえばその時点で終わり。自身の敗北が決まるという極大のプレッシャーを、誰もが彼の挫折を幻視するだけの「完成したダイレクトアタック」を、むしろバネとして。燃料の一助として瞬間的にオーラの出力を引き上げ、跳ね上げる。それは限界を超えてブレイザーズに託されたロコルのオーラにもなんら引けを取らぬ、僅かにも劣らぬ完成度であった。


 オーラとオーラが激突し、干渉し合う。競り合いが始まる。


「だけどッ! ブレイザーズに邪魔は入らない──ブレイクは確定しているっす!」


 競合とほぼ同時にブレイザーズの一歩。ジェットの推進力で果たされた、素早くそれでいて無駄のない踏み込みが完了し、その勢いのままに透き通る刀身が振るわれる。薄氷を思わせる薄く鋭い軌跡を描いて通り抜けた途中に、しかと命核ライフコアはあった。プレイヤーたるアキラの身をユニットの魔の手より守らんと庇い立てた最後の一個が、切り裂かれる。


「……!!」

「……!!」


 両断され爆ぜ散るコア。これでアキラのライフはゼロ。ブレイザーズはしかと任務を果たした。──だが、ここからだ。彼の一撃が真に「通った」のかどうかはこれより判定が下される。いや、より正確に言うのなら。これより己が望む判定へ持ち込むための勝負・・が始まるのだ。


「確かにブレイクはされた、俺のライフコアはもうない! だが!! クイックチェックがまだ残されている!!」


 ファイトが終わらない。ライフを失ったプレイヤーがいるというのに、フィールドの様子が変わらない──それはつまりまだ終わっていないということ。勝敗が決定されていないということだ。ドミネイションズのルールではたとえライフがゼロになったとしても、デッキ内に「ライフを回復させる」クイックカードが残っているのなら。そしてそれを引けたならば、ゼロからでもライフコアが復活してファイトは続行される。要するにアキラのデッキには、ロコルの予想通り、予想するまでもなくわかっていた通りに、存在しているのだ。


 クイックプレイによってライフコアを取り戻す、その手段となるカードが。


 ──絶対に引かせてはならない。


「いいやセンパイには! もうなんの可能性も残されていないって、そう証明してあげるっすよ! このオーラの攻防に! 完全に私が打ち勝つことによって!」


「ッ、」


 激しさを増すオーラとオーラの食らい合い。五分と五分の戦局を見せていたそれに変化が生まれる。ロコル側の勢力が、食い破らんとする側の勢いが増した。限界を超えてのぶつかり合いの最中において更に上へ。この瞬間にも、この瞬きの間にも伸びていく。伸ばしていく。そこに元より限界などないと言わんばかりに、アキラから奪う勝利の栄光、それを欲する想いに歯止めなど利かないとばかりに。どこまでも高々と、何もかもを越えて行けるのが当たり前だと言わんばかりに彼女の攻勢が強まっていく。


 だからその分、彼も伸びる。


「そうそうやらせはしない……! 俺の方こそ! さっきみたいな半端な逆転じゃなく、完全無欠の勝利を捥ぎ取る!!」


 鏡映しのように。あるいは彼と彼女こそが一心同体であるかのように、ロコルの勢力が増した分だけアキラの勢力も増す。オーラとオーラが互いを食い合いながら、共に消費し合いながら後から後から継ぎ足されていく。減ったそばから終わりなどないかの如くに拮抗が続く──『繋がり』が続いていく。


 ひょっとしたらそれは、彼と彼女がどちらも、終わらせたくないと。この楽しい時間がいつまでも続けばいいと心のどこかで願っているからなのかもしれない。


 ただしどんなことにも決着の時はやってくる。それだけは絶対・・に、たとえ『覚醒者』であろうとも避けようのないことだから。せめて望むのだ。せめて欲するのだ。より良い終わりを、より善い終わり方を、人は目指すのだ。


 そこに無上の強さが宿る。


「行くぞっ、クイックチェックだ!!」


「ッ……!」


 押し切れないし、押し返し切れない。そんな状況下でデッキ上へと伸ばされたアキラの手。散ったライフコアの残滓がその光を強めて彼の肉体を覆い、そして導いていく。逆転の一手へ。それを引かんとする彼の意志へと合わさっていく。運命力を押し上げていく……その思いを受けてロコルが滾る。


 拮抗は継続する。貫かんとロコル。貫かせてはならじとアキラ。コアが残した奇跡を起こすための最後の機会。最後のチャンスを今度こそ完璧に掴もうとするアキラのオーラは過去最高の強度と出力によって引き運の確保に勤しんでいるが、それだけのものを以てしても危うい。今にも食い破られてしまいそうなほどにギリギリで保っている。それだけロコルのオーラも規格外であるということ。


 鎬を削る規格外同士。もはやその結果がどうなるかなど周囲の者たちに推測のしようはなかった。あまりにステージが違い過ぎる。ドミネイターとしての段階が離れすぎている。そう感じてしまう多くはもちろん、今この時ばかりはアキラやロコルのライバルであると自認しているメンバーにとってもまったく先が見えない。予想のしようがないところにまで二人は昇っていた、駆け上がっていた。奇跡の起こし方を誰より知る麒麟児エミルですらも、どちらがこの攻防を制するのか。優れた先見の明があっても見通すことができないくらいなのだから、他の誰もがアキラとロコルの競り合いに結末を見出せないのは仕方のないことで。


 己が勝利のみを信じている当人たちだけが明確な未来を描けているのは当然のことで──後はどちらがより強くそれを信じられているか。その未来を引き寄せることができるか。つまりは根性が制する勝負。小手先の手練手管も事前に練った個人対策もオーラ技もドミネユニットも。手札の全てを出し尽くして至った最後の激突は、彼と彼女に残されているのは、想いのみ。それだけが武器であり、それだけが頼りであり、それだけが天秤を傾けうる材料であった。


 故に。


「負、けない……負けられない! 私は私のために、自分のために! そしてそれ以外の全てのために! センパイに勝つっす!!」


「負けられないのは、俺だって同じだ……! それだけ本気のお前だから、俺を見出してくれたお前だから! 最高の師匠でライバルのロコルに、どうしても勝ちたいから!!」


 ──だから勝つ。絶対に。


 想いを同じくして、完全に一致させて、ますます一心同体の重なりを強めて深めて高めていく。相乗的に募り募っていく二人の熱量はそのままオーラの形となって、押し込む側と塞き止める側との摩擦・・が火花となって閃光となって星々の輝きとなって、フィールド上に、いや大講堂の空間内の全てを満たしていく。オーラの銀河が遍くに溢れ出していく。


 それは幻想的で華やかで、力強くもどこか儚く、それでいて確かな存在感のある光景だった。──錯覚でこそあっても幻ではない。集団幻覚などではなくそこには確かに真理があった。ドミネファイトのひとつの究極、行き着ける一個の果てが広がっていた。皆がそれを見た。その地へと連れていかれたのだ。高め合う二人のドミネイターに巻き込まれる形で目撃者の全員が地平に並び、横並びに、その先にあるものを。浮かび上がる明星の目も眩まんばかりの到達を目に映した。


 それは世界の限界。果てを越えて果ての地を超えて辿り着いたオーラの最奥。夢幻の臨界点にて弾けた飛沫が銀河を彩り、星の全体を連ねて収束。元の風景が、決勝の舞台が帰ってくる。そして。


 そこではもう、オーラの激突は行われていなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ