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484.ピリオドを打つのは

 ブレイブハートは起動型効果によって任意のタイミングでフィールドから墓地へ移れる。その発動タイミングとして最も適切なのが「相手の除去に狙われた瞬間」であることは言うまでもなく、それによってサクリファイスエスケープ(※除去される前にコストに使用するなりして自発的に対象を消費する行為)を行ない相手のカードを無駄撃ちに終わらせつつ自身はリターンを得る。まさしくその典型的な例となれる流れが今ロコルの手で起こされたのだ。


 とはいえ、だ。ここでアキラが引いたのがオブジェクト専用の除去カードである《ヴァンキッシュ!》であった時点でこうなることは確定していた。何故なら、未判明の効果があることを危惧して《勇剣ブレイブハート》を除去対象に選んだからこそこうなった、という考え方がまったくの間違いであるからだ。


 仮にもはや【疾駆】を剥がしても意味なしと優先されなかった《ジェットパック》の処理をアキラが行っていたとしても、ブレイブハートが自己犠牲によって与える一度切りの攻撃権は【疾駆】の代用も果たす。つまりもしもブレイザーズが《ジェットパック》を装備しておらず速攻能力を得ていなかったとしても、ブレイブハートは彼のダイレクトアタックを叶えていた。その点も含めてロコルはこの少々特殊な装備オブジェクトを採用しているのだ──《月光剣ムーンライト》には及ばすとも充分にブレイザーズが持つに相応しい名剣であると評価しているのだ。


 結局のところ除去できるのがオブジェクトに限られている時点でアキラにこの流れを止めることはできなかった。お誂え向きにブレイブハートが狙われたが故に想定通りそのタイミングで隠された効果を切ったロコルではあるが、そうでなくとも彼女はそうしていた。ブレイザーズでアキラのライフを削り切るために必要な三回のダイレクトアタック、それを実行する手段として元々そうするつもりでいたのだ。


 なので、除去するとしたらブレイザーズしかなかった。装備オブジェクトを狙っても無意味ならばその本体たるユニットを退かすしかない。が、ブレイブハートは自身だけでなく装備したユニットも効果による破壊から守る。ユニットを対象に取れて、なおかつ除外やバウンスといった破壊を介さない除去のクイックスペルがアキラには必要だったのだ。そうでなければロコルを止められはしなかった。そして実際に彼女は止まっていないのだから、つまりはそういうことなのだろう。


 見事にオーラの攻防で逆転してみせたアキラだが、しかしあそこまで追い詰められていたからには──完全無欠の勝利とはいかなかったからには、引き当てたカードにも多少の影響はあって。何よりロコルはアキラの逆転劇も視野に入れて攻めていた。それらの要因が重なったことで逆転を真の逆転足らしめなかった。盛り返し切れなかったと、そう見做すべきなのだろう。


 ロコルの攻勢は継続している。クイックチェックでアキラに引かれても、まだ彼女は攻め手を失っていない。それは畢竟、前ターンにおけるロコルのクイックチェックからここに至るまでの流れが全て彼女の思惑通りに進んでいることの証拠。あとはただ、アキラに残された最後のコストコアを切り裂くだけ。それだけでロコルの勝利が決まる。


(──『それだけ』? いやいや、九蓮華ロコル。そんな風に考えるのが何よりの大間違いっすよ)


 最後のひとつを奪う。それこそが最難関にして最重要なのだからもう終わったように思ってはいけない。ここで詰めを誤っては、爪を仕舞ってしまっては画竜点睛を欠くというもの。ここをラストにする。この攻撃を終幕の合図にすると、そう決めたからには今こそ振り絞るべきとき。最高潮を維持したまま、ではなく。最高の更に上を目指して全身全霊を懸けるとき──そうでなければきっと。


(二回目ですら危うく流れを持っていかれかけた。最後となればセンパイの土壇場での強さ、あの爆発力はもっと火力を増す! オーラの出力が必ず跳ね上がる。それを乗り越える覚悟を今一度しておかなきゃっすよね……!!)


 ブレイブハートの自己犠牲という一応の保険があった先ほどとは違う。ブレイザーズにはもはや破壊耐性もなく無防備で、ロコルにとってもこれ以上の攻め手はない。やれることはもうやり切っており、対アキラ用の策も何もかも出し切っている。ここから「更に」は起こらない、起こせない、であるならば。


 今度こそ引かせてはならない。「何か」を引かれてしまっては今度という今度はどうしようもない。押し返されても被害を受けずに済んだ先とは異なり、次に引かれるものがどんな状況を作るか。どう状況を覆すかはさしものロコルにも読み切れるものではなく、またその被害を掻い潜れる保証もどこにもない。いやむしろ、ブレイブハートの例があるが故に余計に、なおのことに。次の逆転には避けようもないものが待っているはず。


 だから、逆転させてはならない。まずその可能性を与えないことが何よりも大事である。再び押し込めた矢先にそれを突破される失態・・は犯せない。そうなればもはや自分の負け。そういう気持ちでいなければならないだろう。ロコルの言う覚悟とは要するに。


「センパイ」


「なんだ、ロコル」


「長く続いた切った張ったもこれで終わりっす。正真正銘の大一番、自分は当然に勝ち切る気満々っすけど。そんなことはセンパイも同じっすもんね」


「ああ、もちろんだ。究極的に追い込まれているこの局面、圧倒的な不利を背負っているこの戦況。緊張とプレッシャーは一入で、決して気持ちのいいものじゃあないけれど。でも意外と嫌いじゃないんだよな」


「追い込まれることが、っすか? そりゃ変わってるっすね」


 苦戦のない勝利をあまり喜ばない節のあるアキラの言うこととしては納得のいくものであったが、そう思いながらもロコルは肩をすくめてみせた。アキラのに関してはよく知っているものの、それに何も思わなくなったかと言えばそうでもないからだ。よってこれは軽口であると共に本心からの言葉でもあったが、しかしアキラの発言の意図は彼女の想像するそれと一致しているようで少しだけ意味合いが異なっており。


「敗北の一歩手前で何をするか。瀬戸際でどう戦えるか。そしてそこからひっくり返せるか……そこにドミネイターの力量が一番表れる気がするんだよな。勝てる場面で勝ちを逃さないことも大切だけど、それ以上に負ける場面で負けを撥ね退ける力があるかどうか。それを持っているか否かで、たとえそのファイトでは最終的に負けたとしても『次』に繋げられるかどうかが決まる……と、思うんだよな。俺の持論でしかないけどさ」


「あは──真価が問われること、それ即ちセンパイの言うところの成長の機会っすもんね。そういう意味での『嫌いじゃない』っすか」


 なるほどなるほど、と得心いったように頷いて深く感心の様子を見せたロコルは、その態度を崩さぬままに続けた。


「そんじゃあ悔いはないっすよね? ここまで粘ったんすからセンパイはもう充分に次に繋がっているはずっすもん。だったらそのライフコア、自分にちょーだいっす」


 勝利によって『次』へ行く。アキラやエミルの背中を追いかけるに足る自分になるために、抱く野望に見合うドミネイターになるために、やはり勝利こそが望ましい。アキラに勝ったという栄光が欲しい。緩やかな笑みのままにそう殺気を揺らめかせる少女へ、少年もまた応える。少女よりももう少しわかりやすく闘志を表情に乗せて、もう少しだけ激しくオーラをギラつかせて。


「──くれてやるよ。お前がそれに相応しい一撃をくれたなら、惜しみなくな」



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