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481.だけど

 号令と、ブレイザーズの足が地を蹴りつけるのはまったく同時であった。


「装備をふたつ持った《無銘剣ブレイザーズ・ナイト》に適用される連撃能力によって! センパイにもう一度ダイレクトアタックするっす!!」


 透き通る純白の肉体を煌めかせて騎士が跳ぶ。飛ぶ。翔ぶ。ジェットの推進力と脚力が先ほどの攻撃よりも明らかに一体となっている見事な跳躍で、エネルギーロスの一切を失くして彼は前へと。前へ前へと一直線に突き進んでいく。彼が背負っているのは装備オブジェクトの《ジェットパック》のみにあらず、その背にはロコルが彼に預けたオーラが、託したオーラがある。先はアキラの防御すら叩き潰してみせたそれにより重度の圧が込められているのは言うに及ばず、しかしてその重みは決してブレイザーズの枷とは成り得ない。むしろ逆だ。


 速攻能力を与えている《ジェットパック》以上に彼と一体となっている。もはやオーラはブレイザーズの身体の一部であり、ブレイザーズはオーラの一部である。そう言って過言ではないほどに一個・・となっている……ユニットとプレイヤーが一心同体となっている。オーラで結ばれた両者の絆は、故にオーラを操れる者にとってはそう再現の難しくない現象。ともすればオーラ操縦の自覚や技術がなくとも繋がれる者は繋がれる、『覚醒者』が起こす奇跡の中ではまだしも易く、よく見られるという意味でも安い代物であるが。


 けれどロコルの場合。ロコルとブレイザーズの場合は、繋がる深度が。重なる純度が違う。そんじゃそこらの類例とは決して同一に語れない、語ってはいけないだけの圧倒的な一体感がそこにはある。まさしく一心にして一身の同体であるドミネユニット──半身としての存在であるテンペストと、その進化体であるネオ・テンペストを通過した先のことだからか。あるいは決着を目前にエースに全てを託す現状が、どうしても勝ちたい相手に全力以上で挑むこの状況がもたらしたものか。どちらであっても不思議ではないし、どちらもであっても不可思議じゃない。とにもかくにもこの瞬間、最高潮のロコルはユニットとの繋がりも過去最高に達したということ。到達したということ。


 それだけ見事に重なり合っているからには、乗せられたオーラもブレイザーズにとっては重圧になどならない。何せ彼とオーラは今この時ひとつのものなのだ。上乗せされたそれが力になることはあっても足を引っ張ることなどあろうはずもない。邪魔になんてなるわけがない。


 故にその一撃は先以上に鋭く重い。ブレイザーズ自身の忠誠と、ロコルより託された想いが更なる推進力となって。《ジェットパック》を超えるだけの後押し──背中を押す力となって彼の身を運び、成した勢いのままに振るわれた剣の軌跡もまた過去最高の美しさ。ロコルが振るう九蓮華家のオーラ技『剣閃』ともどこか印象を重ならせる一閃が、アキラを襲った。


「ッぅ……!!」


 あくまでも切り裂かれたのはプレイヤーを庇って容赦なき斬撃をその身に受けたライフコアのひとつ。アキラ自身にブレイザーズの振るった刃は掠りもしていないが、それでも彼の身にも届くものはあった。行き当たるものがあった。鋭い太刀筋と重なって振り下ろされた鈍重なるオーラの圧。頭上より落ちて全身に圧し掛かるそれの重みは半端ではなかった──生半ではなかった。直近で競り負けていることもあってそれ相応以上の心構えで、量においても質においても先ほどを上回るオーラの防御でブレイザーズの一撃を、ロコルの一撃を受け止めたアキラだったが。それでもなお重過ぎる。あまりにも重大過ぎる。


 過去に受けたどんなアタックよりも、これが。


「──だけどっ!!」


「!」


 思わず膝を付きかけて。圧に屈しかけて、堪える。体中に力を込め直し、歯を喰いしばって、目を血走らせて立て直す。必死に、懸命に、痛々しいまでに、やられかけたそこからオーラを捻出する。


(そ、んなことが──そんなところからセンパイは!)


「持ち堪えるさ、ロコル! お前の攻めが過去を過去にしていくのなら! 俺の守りだってそれに応える! 今お前に共鳴・・しているのは! ブレイザーズだけじゃあないんだぜ!?」


「ッ!!」


 息を吹き返す。何がどうなったのか、何をどうやったのかもはや理屈など付けられない。あそこまで追い込められて、オーラで押し切られるその直前どころか最中になってから蘇るなど、自身のオーラの勢いを取り戻すなどあり得るわけがない。そんな奇天烈があり得ていいはずもない……だが現実は奇天烈を、非常識を受け入れた。現実に起きたのならそれが全てであり、絶対である。それは軽々しく「絶対」などと口に出さないロコルであっても認めざるを得ないもののひとつ。大人しく受け入れねばならない世のルールのひとつなのだから。


 だから、これも。


「ドローだッ!!」


 勇ましく、猛々しく掲げられた腕。カードを掴むその手。それがなんであるかアキラの宣言を待たずともロコルにはわかりきっていた──クイックカード。それ以外の何物でもないことがはっきりと伝わっていた。引いただけの動作で、ではなくて、彼のオーラで。押し切れるはずだったこちらのオーラを、敗北の瞬間から覆してみせた。結果を真逆にしてみせた彼のオーラの隆盛によって確定したのだ。此度負けたのは、自分の方だという事実が。


(これ以上ないくらいに上手に、そして大胆に! 思考派にも感情派にも寄らない抜群のオーラによる攻めができた自負がある……それなのに負けた! 打ち勝ったさっきよりも力強く攻められたはずなのに、それをセンパイは……! ああもう、何度こう思えばいいのか! そんなのありっすか、センパイ!!)


 盛り返した勢いはあたかも爆発・・だった。アキラお得意の爆発力。土壇場でこそ出やすいそれがまさに土壇場のこの場面で出たのだと、若葉アキラというドミネイターには何も珍しいことではないと。そう納得できるほどロコルの一撃は切り返されて当然のものではなかった。一撃目よりも更に『完璧』な二撃目。初撃が通ったのだからそれよりも上の追撃が通らない道理など本来はない。それはアキラが相手であっても同じで、たとえ彼が敵であろうとオーラの攻防において連勝を飾れるくらい。それくらいに今のロコルは『完全』であり『完成』されていると言っていい。


 レベルマックス。今至れる最高点とは、そういうことなのだ。

 なのに。


「はは──オーラを通して聞こえてくるぜ、お前の心の中の驚きと呆れの混ざった声が。俺たちが繋がっているのはユニットだけじゃない、プレイヤー同士でもこうして、ぶつかり合うオーラを通して心が通じている、通わせている。ロコルの奮起にブレイザーズが燃えるように、俺だって燃える。できないことだってできるようになる! 俺もお前もこのファイト中、ずっとそうだったろう!?」


「──そうっすね、まさしく」


 議論するまでもなくアキラの言い分は正しい。そうロコルは頷く。自分が最高点にいるように、アキラだってそこに達していることもまたロコルには伝わってきている。その上でここを現時点の限界マックスと捉えている己とは異なり、アキラはすらも越えていけると。超えられない限界などないと見做している。人の成長に歯止めなどないのだと信じている──あるいはその差が生んだ逆転なのかもしれない。取れるはずだった二勝目を奪い返されたこの結果は、そこにある意識の差。向上心の格差が作り上げた必然だったのかもしれない。


 彼の言葉を聞いて、心を受けてロコルはそう思った。そう思わされた。それもまた素直に認めよう。彼の在り方こそが正しいと認めよう……だとしても。


 だとしても彼女は。


「俺が引いたのは──!」



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