479.アキラとロコル、成長途中の二人!
必ず引いてみせるとアキラ。
必ず引かせないとロコル。
両者の主張は平行線を辿らない。答えはすぐに出る。どちらが正しいのか──否、どちらが正しさを掴めるか。それが勝負というものであるからして。
「クイックチェック封じ。最強最悪の能力に頼らなくたって自分の力だけでクイックカードが飛び出すのを防いでみせるって? そいつは豪気な物言いだな、ロコル」
「いやいや、そんなに大したことでもないっすよ。だって最高潮に漲る自分のオーラを見ていながら、目の前にしていながら『引く』と言い切れてしまうセンパイの自信満々っぷりには到底及ばないっすからね」
「はっ──自信を持つのは当たり前のことじゃないか。強い敵を前にしてこそより意気込む! ドミネイターがドミネファイトをしているんだからそうでなきゃいけないだろ!?」
「そりゃあそうっすよ、だから自分も! あなたに勝つと言い切った!」
「だったら俺も改めて宣言するぜ! 勝つのはお前じゃなく、俺だってな! クイックチェックだ!!」
ブレイザーズが切り裂いたライフコア。その散った残滓がキラキラと淡い光を発しながらアキラの体へと纏わりつく。それこそが彼に与えられる力。ライフを減らされ死に近づいたプレイヤーが代償的に手に入れる新たな『可能性』。クイックチェックという名の起死回生の好機を、アキラは迎える。
ピンチの後にチャンスあり。その言葉を体現するようなドミネイションズのルールは確かな運命力を持つドミネイターとの相性が抜群にいい。優れた引き運があるということは即ちこういった場面で確実に望ましいカードを引けるということであり、それは畢竟ピンチへの強さであり粘り強さであり──そして言ってしまえば「ドミネファイトの強さ」でもある。
七つのライフコアが全滅するまでに最低でも六回は窮地を覆す機会が巡ってくるのだ。その度に全てをひっくり返すような運命力の持ち主が相手では、どれだけプレイングを磨こうがデッキ構築に力を入れようが勝ち切るのは非常に難しいと言わざるを得ない。カードに愛されているか否か。カードを愛しているか否か。運命というものを従えているか否か、それこそが試される土壇場において切り開ける者は特別に強い。ルールの段階でそうなるようにできているのがドミネイションズという「闘争手段」なのだから、運。そしてそれを高めもすれば守りもするオーラと、そのオーラを生み出す源泉たる心が最も重要視されるのは当然で。
故にそんな諸々を全て「意味のないこと」にできてしまえる……少なくともピンチに付いて回るチャンスを敵方から完全に奪ってしまえる『クイックチェック封じ』の能力がこれだけ世のドミネイターから恐れられているのもまた当然でしかなく、それを何よりの武器としていながら現在は実現の手立てを欠いているロコルを前にしている時点でアキラは「大いにチャンスを掴んでいる」。これもまた運命力のなせる業、導かれるべくして導かれた結果と見做すこともできるからには、ならばこそアキラが引くことに自信を持つのも、またそれを己が力のみで阻止せんとロコルがより威勢を込めて挑むのはどちらも自然の摂理にも等しい、勝利を目指すドミネイターならば必然のことであった。
「「ッッ……!!」」
ライフコアの残滓に促されるままデッキへ手を伸ばしたアキラ。その指先がデッキトップのカードに触れた瞬間、互いのオーラが弾けた。いや、弾けるような勢いで相手のオーラへとぶつかったのだ。圧し潰さんとのしかかるロコルのオーラを、貫き崩さんと受けて立つアキラのオーラ。ロコルはアキラがここにきて初めて見せる攻撃的な防御のあまりの堅牢さに驚き、アキラは完璧な調整と出力で身を守ったにも関わらず撥ね退けられないロコルのオーラ、そこに宿る極度の密度に驚いた。
互いが成長している。そう実感を持つ。ロコルはアキラの『射撃』を見て、体感して、オーラを圧縮して固める術を身に付けつつある。またアキラも、ロコルの『剣閃』を始めとする細やかなオーラ操作の技術を対戦相手として見つめて学び、防御ひとつ取っても工夫というものを凝らせるようになりつつあった。
どちらも共にまだ学習の途中、成長の途上。ロコルがアキラほどオーラを固められるのはもうしばし時間がかかるだろうし、アキラがロコルほど流麗にオーラを操れるようになるのには一戦や二戦のファイトでは足りないだろう。まだまだ中途の、半端モノ。とはいえ現時点で出せる最高峰。新たに手にしたものも含めて持ち得る全てを絞り尽くしての攻撃であり防御であることに違いはない。ロコルは全霊を絞って攻めているし、アキラは全力を尽くして守っている。そして技術的には上があろうとも今の彼と彼女の最高到達点がここであることも間違いなく。
引き上がった。お互いがお互いを引き上げ続けて、ようやく。いざ到達した頂点がここだ。その最高点にてアキラとロコルはぶつかり合っている──一意専心にただ相手を打ち破ることだけを考え、願って、祈って激突を果たしている。ガス欠の不安などまったく考慮に入れない、考慮に入れる必要もないほどに熱意だけに包まれ支えられたその衝突は、当たり前ながら長くは続かず。しかして競い合う当事者はもちろんそれを眺めている観戦者一同に取っても非常に濃厚で濃密な数瞬となって、息もつかせないだけの刹那となって。
「──ドローだッ!!」
そして、弾けた。今度こそ本当の意味でアキラとロコルのオーラは共に弾け飛んだ。
その結果は。
「……俺は引いたカードを手札に加える。発動は、なしだ」
「はぁ、はぁ……どーっすか!」
「くっ……、」
万感の手応えと共に勝ち誇るロコルと、減ったライフの代わりに増えた──増えてしまった手札を握り表情を歪めるアキラ。押し切ったのはロコルの方で、押し切られたのはアキラの方。それが此度の激突の結果であった。引いたそれがなんなのか。クイックカードではあっても(それこそ除去系の類いであるために)この局面では役に立たないものだったか、あるいはそもそもクイックカードですらなかったのか。さすがにそこまでは読み切れるものではない。特に全力の攻撃を繰り出して「一手上の勝利」を捥ぎ取った直後とあればなおのことに、いくらロコルがそれなり以上に見る目を持つドミネイターであったとしてもアキラの手にしたカードがなんであるか推察するのは難しい……だがいい、構わない。
それがなんであれ、『次』にどれだけ役立つカードであれ、『今』に活かせない代物であるのならそれでいい、それが最善。このターンで勝負を終わらせるつもりでいるロコルには次のターンのことなど関係がなく、端から憂いてなどいない。とにもかくにもクイックプレイによる反撃を許さないこと。それ以上のことは望まない、望むはずもない。
アキラのことだ、真に欲したカードとは違ったとしてもきっちりと己が攻め手となる札を引き寄せているのは間違いないだろう。ただのスカでは終わらせないだけの運命力というものが彼にはある──上等だ、いくらでも引けばいい。そんな最低保証にはなんの意味もないとわからせてやる。少女は肩で大きく息をしながらも更に想いを、熱意を募らせる。
(まだ一回! まだまだ『ここから』! ここからが自分の真価が問われる時! センパイも覚悟はできているっすよね!?)
勝利に必要なブレイク数は、残り二回。




