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476.最後の局面、問われるのは

 そして騎士の能力が起動する。


「《無銘剣ブレイザーズ・ナイト》の登場時効果を発動っす! デッキ内から好きなオブジェクトカードを一枚手札に加え、更にそれが無陣営カードであれば無コストで場に出すことができるっす!」


「サーチからの踏み倒し……!」


 まさしくロコルのデッキのためにあるようなその能力は、既に今日何度となく見てきたものではあるが。しかしこの場面。今まさにファイトの終わりが間近となっているこの瞬間に発動されるそれのプレッシャーはこれまでの比ではない。いったいロコルは何を呼び出すのか──おそらく彼女の手札には必殺コンボのパーツである《月光剣ムーンライト》も《ジェットパック》もない。それは彼女の出で立ちやオーラからそれとなく読み取れているアキラだが、故にこそロコルがサーチせんとしているものがなんなのか。果たして通常のオブジェクトなのかそれとも装備オブジェクトなのかもまったくわからない状態である……いや。


(ブレイザーズの隠された能力。このユニットの真の力を発揮させるためには装備オブジェクトが必須! その上で召喚酔いをクリアしないことには力だけ持たせても意味がない、とするなら……ロコルがここで手札へ加えるのは!)


「自分はデッキから装備オブジェクト《ジェットパック》をサーチするっす! そして無陣営カードであるためにブレイザーズの追加効果適用、これをコストを払わずにフィールドへ設置! と同時に装備可能なユニットであるブレイザーズへと装備!」


 《無銘剣ブレイザーズ・ナイト》

 コスト7 パワー5000 +【疾駆】


「……!」


 やはりそう来たか、と背中にジェットエンジンのようなアイテムを背負ったブレイザーズを見て更に警戒心を高めるアキラ。そんな彼に対してロコルはオーラを一層にうねらせ、フィールドのあちら側へ押し込まんとしながら言う。


「装備された《ジェットパック》によりブレイザーズは【疾駆】を得たっす! これで召喚酔いは解消、今すぐにでもアタックすることが可能となったっすよ!」


「──だけどまだ攻め込みはしない。そうだろ?」


「あはっ、まったくその通り。たった一個のオブジェクト。たった一個のキーワード効果を得たからってアタックに踏み切るのはまだ早い……だってブレイザーズを目覚めさせる準備は終わっちゃいないんすからね!」


 自分が何をしようとしているのか、まるで一から十までわかっているような。見通しているかのようなアキラの言葉と態度を心の底から、骨の髄から嬉しく思いながらロコルは三枚の手札の中から一枚を抜き出し、それを即座にファイトボードの上へと置いた。


「残った三つのコストコアを全てレストさせて! こいつを設置するっす──《ジェットパック》と同じく無陣営の装備オブジェクトが一枚! 《勇剣ブレイブハート》!!」


「ブレイブハート……!?」


 またしても聞き馴染みのないカードだ。もちろん、無陣営についてもオブジェクトというカード種についても、普段取り扱わない……つまり馴染みを持たないアキラが自身の得意メインである緑陣営や種族『アニマルズ』のカード群ほどの知識を有していないのはごく当然のこと。いくらドミネイションズの専門校にて日々勉学に精を出している身だと言っても、カードの総数は確認されているだけでも最低三万枚以上。未確認(ここで言う未確認はその存在が周知されていないものを基本的に指している)を含めればいったいどれだけの種類があるのか「見当もつかない」。発売元は一企業であり長年研究されてもいるというのに、有識者たちの出す結論がこれなのだからそもそもドミネイションズとは学ぼうと思って学びきれるものではないのだ。


 とんでもないペースで行われる新カードの追加に、細かなルールや裁定の変更、そして一般には出回らない謎のカード等々。プールの増加だけでなく環境の変化も目まぐるしいとなれば、アキラの言のようにドミネイションズに携わるのであれば一生において「成長し続けること」。「学び続けること」が肝になるのは言うまでもない。絶え間なく変容するドミネイションズに自身も変化していくことで追い縋っていくのがドミネイター。で、あるならばファイトの一戦一戦もまた学び。こうして知らぬカードを出されて起こる動揺も警戒も成長の一助。より良い『次』に繋がる大切な要素なのは間違いなく、だからこそアキラの胸にはワクワクが絶えない。


「そいつでどうしようっていうんだ!?」


 勇剣、と名付くだけあってそれはあたかも物語に登場する勇者が持つような、如何にも主人公らしい剣であった。意匠は凝っているが凝り過ぎていない、美しいが美し過ぎない、主人公性を主張する飾りの中にも確かな質実剛健さが、そこに宿る強さこそが第一に見えてくる直刃の両手剣。フィールド上に突き刺さった刃の鈍くも目を刺すような輝きを見ながらアキラがそう訊ねれば、ロコルは。


「勿論のことこうするっす──設置した《勇剣ブレイブハート》を《無銘剣ブレイザーズ・ナイト》に装備っすよ!」


 元々持っていた細身の刀身の剣を手放し、地面に刺さっているそれを引き抜く純白の騎士。ブレイブハートをしかと両手に握るブレイザーズの姿は勇者というよりもやはり、どこまでも主人を守るナイトであり従者然としていたが、そこにさしたる違和感はない。むしろ主役めいた誰かが持つよりも彼こそが、ロコルへ勝利をもたらさんとしているブレイザーズこそが勇剣を所持するに相応しいと。そんな風に見る者に思わせるだけのしっくりとくる佇まいが、絵力がブレイブハートを装備した彼にはあった。


 それはきっとブレイブハートにより与えられた能力と、《ジェットパック》と合わせてふたつの装備オブジェクトを手にしたことで解禁された、ブレイザーズ自身の第二の能力も無関係ではないはずだ。


「今回のブレイザーズは月光剣じゃなく勇剣で! センパイ、あなたを打ち倒すっす!」


「……!」


 一度はブレイザーズと月光剣のコンビが対処された。だからと言ってそれがもう通じやしないなどと悲観的に過ぎる考えはさすがにロコルも持たない。他の猪口才な仕掛けやその場凌ぎの戦術ならばともかくとしてブレイザーズを起点に行う攻めはロコルのデッキの中心部。それがメインであると言ってもいい──様々なコンボが仕込まれている彼女の変則デッキではあるが、何かひとつを主軸として捉えるならブレイザーズと装備オブジェクトの組み合わせによる圧倒的な「殺傷力」。それこそが核であることは間違いない。その間違いのなさが中枢にあってこそ多種多様な戦略を詰め込めているのだ。


 故に叶うのならば再び月光剣をブレイザーズに装備させ、そして今度は《ジェットパック》も添えた完璧な必殺コンボを叩き込んでやりたいところではあったが。しかし手札とコストコアの関係上それはやりたくてもやりようがない、のならばやれるだけの手段で。取れる次善でどうにかする。なんとしても押し通し、なんとしてでも勝利する。此度ブレイザーズが手にした勇剣にはそれを可能とするだけの力も確かにあるのだから、残る懸念は。


(月光剣が欠いていることでの不安点はただひとつ。センパイのクイックチェック、そこで引かれる逆転のカード──を、自分の手で。オーラの妨害によって防がなきゃならないってことっす!)


 自分自身の勝ち切るための実力。オーラを操る者としての技量が、何よりも問われていた。



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