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474.共に!

 アキラは答える。


「今だけが全てじゃない。この一戦に本気になりながら次の一戦にも繋げられる。可能性を広げられる。それがドミネファイトのいいところで、ドミネイターの腕の見せ所だ。『今』と『次』と。その日に付いた格付けも明日にはどうなるかわからない面白さ──勝った側も負けた側も成長する、それが俺にとっての『勝負』! それはただ勝利と敗北を分けるだけの行為じゃない。より良くなっていくことを目指すのが肝要だと思う……それこそがドミネイションズにある、俺たちドミネイターに与えられた最高の可能性だと、そう考えている」


 より良く、善く生きること。それを行なうには「折り合い」なんてつけてはいけない。一戦一戦の重みに悩みながら、区切られてしまう優劣のラベルに悔やみながら、それでも戦っていく。向上を忘れず、自分だけでなく相手と一緒に昇っていくこと。まるで耳障りのいい綺麗なだけのお題目、だが、それを本気で目指すことに意味がある。ドミネイターである意義があると、アキラは言う。


「価値というならこれがそうだろう。裏を返せばただ戦えばいいだけだと。ただ勝ちさえすればいいだけだと思い始めた途端に、そのファイトの価値や尊さは消える。そのドミネイターから意義が消えるんだ。ドミネイションズをただの道具扱いした時点で、ドミネイションズに携わる資格がなくなってしまう……そうなりかけていたエミルを俺が救った、なんて偉そうなことは言わないけれど。案外と多い気がするんだよな、あいつに近いドミネイターは。脅迫的なモチベーションでカードを握り続けている奴は結構な数いて、できれば俺は全員にそこから抜け出してほしい。エミルみたいに目を覚ましてほしい。それに必要なことがあればいくらだって強力するつもりだ」


 例えば『学園最強』という肩書き。そういった冠に然程興味を持たないアキラが、けれどその候補として。九蓮華エミルの次にそう名乗るに相応しい生徒の筆頭としての扱いを受け、殊更にそれを否定したりもせずあたかも襲名・・に意欲的かのような振る舞いをしているのだって「そのため」なのだ。暗がりの荒野において寄る辺となる篝火。あるいは人を導く松明。そういったものに自らがなる。そうすることで他のドミネイターが──学園内の生徒諸君だけでなく、アカデミアの知名度と実権からドミネ界隈に広く影響を及ぼして──暗闇に身を預けて瞼を下ろしてしまおうとしている多くの者たちが、その目を今一度開いてくれるかもしれないと。進むべき道を切り拓いてくれるかもしれないと、そう期待しているからだ。そうなると信じているからだ。


 だからアキラは強くありたい。己が為ではなく誰が為に。誰かの為に戦うことが己の為であると、己の為になると知っているから彼はより強くなれる。


 自分のためだけに戦うのではいずれ限界がくる。それで行き着く先は細く狭く寂しい場所。そこに向かわんと自分以外の全てに背を向けていたエミルの手を掴んで止めた彼はそれをよく知っている──故に。


「一人じゃなく皆で目指す。ドミネイションズに関わる誰も彼もが仲間なんだから反目する理由はない。たとえ一時の勝負でどちらかが苦渋を飲んだって、飲んでそれっきりで終わらせちゃダメだ。欲しがりでないとダメなんだ。必ず次へ繋げて、より良い『明日』を欲しがらなくっちゃいけない。自分だけじゃなく共に歩むこと、歩み続けること。それがドミネイションズの、ドミネイターの──俺とお前の可能性だ、ロコル」


「……!」


 アキラの言う可能性とは。彼が信じているものとは何か。エミルとのファイトを経て更なる成長や気付きを遂げた若葉アキラが出した「答え」がそれであると。そう知って、そう教えられてロコルは。


「あは──そっか。そうなんすか。がセンパイなんすね。それがあなたというドミネイターの本質」


 ドミネファイトの良い部分だけでなく悪い部分も。功罪合わせて背負う覚悟。清も濁も受け止める覚悟を……一生涯においてそうやって生きていくことを、既に「決めている」。その定まった精神性こそが彼という一個の、存在の本質的な核である。


 やっぱりそうだ。そうなのだ──自分は間違っていなかった。


 やはり若葉アキラこそが『理想のドミネイター』そのものなのだと、真っ先にロコルが抱いた感想はそれだった。


「ようやく自分にも見えてきたっすね。センパイの持つ美しい異質それの正体。その根源。エミルがファイトを通して目撃したであろうモノがなんなのかわかってきたっす。……そりゃあお兄ちゃんも目を覚ますはずっす。こんな強烈な光を直視してしまったなら。こんなものを真正面から浴びてしまったなら心の闇なんてどうしようもないっす。少しも太刀打ちできずに消え去る以外にはないっす──」


 そしてそれは自分も同じ。ファイト前まで抱いていた悩みも恐れも、アキラとの決戦に燃える心の深層に隠していた不純なあれもそれも、気付けば何ひとつとして残っていない。今ここにあるのは純粋な闘志のみ。ただ勝利を求める原始的なドミネイターとしての欲求それひとつ。ただ勝ちたいと。たったそれだけに己が全てを投じているこの瞬間の清々しさときたらもう、病みつきにならないわけがない。


 これがドミネファイトの純なる形なのだとすれば、確かに。


「確かに仰る通り。価値も可能性もありありっすね。ドミネ界隈の膿ばかりを見てきた自分にはまだどこか、センパイの言葉であっても疑問があったんす。エミルの野望もセンパイの夢も、どちらも斜に構えて見ていた節があるっす……でも自分も目が覚めたっす。そういう『決めつけ』が、可能性を閉ざす考え方が長らく発展無しの日本ドミネ界を形作っていた原因なんだって。改革を求めながら知らず知らず自分も温床の一員になっていたのだと、センパイを見て自覚が持てたっすよ」


「なんだかまた大袈裟な話になってきたな。俺はただ、どうせファイトをするなら今も次も楽しくやりたいって、そう思っているだけだぞ」


「だからセンパイ、それが『答え』なんですって。何より素敵な完全正答。それ以外が間違いだとは言わないっすけど、ドミネイションズを武器とする者の最も正しい在り方はきっとそれっす。少なくとも自分はそう思えた──だから」


「だから、なんだ?」


「どうか足掻いてくださいっす。言葉で諭してくれた通りに、今度は行動でもって……最後の攻防でもって『センパイ自身の可能性』ってやつを全部全部、一欠けらも余さず自分に見せてください。味わわせてください」


 その結果がどうなろうとも、結末がどういう終わり方になろうとも。もはやそれを惜しみも悔やみもするまい。たとえ勝っても負けてもこの勝負には意味がある、意義がある。特大の楽しさがあるのだからもはや勝敗などさして重要ではない──それでも。ただただ勝ちたい、とにかく勝ちたい。負けて終わりたくないと、若葉アキラという最高の敵に気持ちいいまでの敗北を。議論の余地もない完全なる負けをくれてやりたい。そう強く願うのは。想うのはやはり本能なのか、愛なのか。


 ドミネイターとしての、そして九蓮華ロコルという一個人としての本質に根差した欲求なのか──いずれにしろ。


「さあ、お互い出し切るっすよ。クライマックスにしようじゃないっすか、センパイ!!」


 彼女は勝利を目指すだけ。より良い『次』を目指すだけだ。

 アキラと共に。



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