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470.理屈を超えて!

 獣人少女が更なるパワーアップを果たし、その惑星が如き存在感に一層の拍車がかかったとしても。一度下された攻撃命令は覆せない──既に攻撃態勢に入っている巨塔は止まることができない。それがドミネファイトの絶対的なルールである。


 しかし。


「これでクシャ・コウカのパワーはネオ・テンペストの20000に並んだ! そして戦闘で破壊されない耐性まで得ているからにはこのバトルで倒れるのはお前のドミネユニットだけだぜ! ロコル!」


理屈・・の上ではそうなるっすよね。そうとしかならないっすよね──だけど理屈なんか通じっこないのがドミネユニットっすよね!? センパイ!」


 しかしそれでいい。元よりのことなのだ。仮になんらかの方策でもって止められないはずの攻撃を止めることが可能だったとしても、ロコルには。そして彼女の化身たるネオ・テンペストには止まるつもりなどさらさらないのだから関係がない。止まれる、止まれない以前に止まりたくない。そんな臆病風に流されることがこの勝負に何をもたらすかロコルにはしかと見えているだけに、視えているだけに元よりこの激突は必然であり、必定であった。


 全てはなるべくしてなったこと。導かれるべくして導かれたこの盤面なのだから、あとはもう突き進むだけだ。


 その意志、その意気、その熱意からアキラはとあることを察する。


「クシャ・コウカの強化にも耐性にもまったく怯まずか! っていうことはつまり──」


「そう、つまり! あるんすよねぇ、そちらと同じくネオ・テンペストにも! 相手ユニットとのバトル時に発動する効果ってのが!」


「ちィっ……!」


 予想の的中に厄介なと舌を打つアキラだったが、思考に反して表情は明るい。鳴らした舌も笑った口の中でのこと。厄介とは思いつつもそれ以上にこの対決に、ドミネユニット同士の勝負に。他ならぬロコルとそれを演じられる高揚の方が遥かに勝っている、そう顔に書いてある彼に対して。ロコルもまたそれとよく似た笑みを形作って宣言する。


「ネオ・テンペストの効果を適用! このユニットは自らアタックした際に限り、相手とのパワー差に関係なくバトルにおいて『絶対に勝利する』っす!」


「絶対に勝利する、だって!?」


「言うまでもなくこの能力はキーワードの【復讐】や【呪殺】のような『自身がやられても相手を道連れにする』類いの効果破壊効果とは決定的に異なるっす! それでいて単純な戦闘破壊でもない! 相手が強化されようと耐性を有していようとお構いなしに、過程を経ずに勝利という結果だけを手にする! まさにドミネユニットらしい問答無用にして無法の力っすよ!!」


「ッ……、」


 確かにこれは無法の極みのような能力だ。ユニット同士の戦闘における絶対の指標であるパワーの高低。その指標があるからこそバトルというものは成り立ち、そしてその上での勝利を掴むべく様々な工夫が生まれる。言うなればクシャ・コウカの自己強化や耐性取得もそういった工夫の内であり、彼女が行う反則とすら称される凄まじいまでのパワーアップもまだしも理解と常識があると──であると。そう思えてくるくらいには、パワーやその補助となる能力の一切を無視して「ただ勝利のみを収める」能力はドミネイションズの横紙破りもいいところのハチャメチャな代物だ。


 ただし、そんな無法を前にしても終わらないのがもうひとつの無法ドミネユニット。クシャ・コウカがただの通常ユニットであり、やることが単なる防御だけで終わっていたなら本当にそこが「終わり」であったろうが、そうなるはずだった運命を己が手で捻じ曲げてしまえるが故に彼女はドミネユニットなのだから。敵がなんであろうともやられ役に徹するなどあり得るわけもなく。


「『勝利する』効果がもたらす相手ユニットの破壊! そいつはお前の言う通り通常の戦闘破壊とは一線を画すものなんだろう……それによって相手ユニットが持つ破壊対戦も貫通して殺し切ることができるんだろうが、だけどそれは通常ユニットを相手取ってる時の話! 並の破壊耐性なら貫けるってだけの話であって、同じドミネユニットの場合は! どこを取っても並も普通もありはしないクシャ・コウカが持つ鋼の肉体までも貫けるとは限らないぜ!」


「──確かにその通りっす、通常ユニットが敵なら負けようがないと確信しているネオ・テンペスト。ただしドミネユニットを相手にすればどうなるかってのは自分にとっても完全な未知っす。何せ実戦使用はこのセンパイとのファイトが初なんすからそんな限定的な状況を事前に調べるなんてこともできるわけがない……それはそうっす、そうっすけれど! だからって自分に悲観はないっすよ、センパイ!」


「何!?」


「だってネオ・テンペストはただの・・・ドミネユニットじゃないっすから。ドミネイト召喚ではなくデュアルドミネイト召喚で呼び出した、自分のドミネユニットが究極化した『極限のドミネユニット』っすから! 一ドミネユニットでしかないセンパイのクシャ・コウカに負ける道理はないっす!」


「……!」


 同じくノーマルの状態から更に強化された姿である完全シン化。それを果たしたシン・アルセリアが相手なら──ネオ・テンペストと同じくどんなバトルにおいてもほぼ確実に勝利を手に入れられるあの切り札が相手ならば、さすがにロコルも勝てると断言まではできないが。しかし「ほぼ」と付け加えたようにシン・アルセリアでさえも常勝無敗とはいかない。シン化を遂げた彼女はもう一体のシン化を遂げたドミネユニットであるシン・エターナルと相打った。どんな能力も無効化するという『絶対勝利』に並ぶ究極的な力があっても引き分けるのが精々な戦いというのはあるのだ。シン同士の戦いを目にしたロコルとしては故に、シンが相手でも己がネオの勝ちの目は充分にあると考えている。あの二体が持つ完全にも劣らないだけの力が自分の究極にはあると、そう信じている。


 なのでこれは彼女にとって道理であった。如何に強力であろうと、反則的なまでの戦闘への強さを宿していようと、しかしクシャ・コウカは「一般的なドミネユニット」。奇跡の産物であるドミネユニットに一般も何もあったものではないというのが正直なところではあるけれど、だとしても事実だ。シン化やネオ化を果たしたドミネユニットと比べてしまえばどうしたって格落ちなのは否めない。同じ奇跡の産物と言えども位の違いは否定できない──であるならば負けるはずがない。クシャ・コウカより位置の高いネオ・テンペストが勝てないわけがない。


 たとえロコルがネオ化を果たせず、ノーマルの《無窮の真相テンペスト》しか操れぬ身であったとしても、一ドミネユニットで一ドミネユニットへ挑むことになっていたとしても。それでも彼女は自身の半身たるテンペストの勝利を祈るように信じていただろうが、だからこそなおのことに。そのテンペストがより格を上げたネオ・テンペストの敗北の可能性など微塵も疑わないのは当然であった。


 強く、ひたすらに強く信じている。ロコルから己がドミネユニットへの厚い愛と信頼。あるいは『絶対勝利』の能力よりも余程に絶対的なそれが重々に伝わり、それにアキラはこう応じた。


「進化したドミネユニットにただのドミネユニットは敵わない……なるほどな。そうかもしれないと思わされる大した理屈・・だと思うよ」


 その言葉にハッとしたロコルが何かを言う間も与えずに彼は続ける。自身の抱く想いの丈をそこにぶちまける。


「だけどロコル、たった今お前が言ったばかりだぜ。どんなにもっともらしい理屈だってそれの前では通りやしない。通じやしないのがドミネユニットってもんだってな!!」



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