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47.ふたつの因縁!

「行けっ、《ビースト・ガール》! ファイナルアタックだ!」


「くっ……私の負けよ」


「よし!」


 相手の最後のライフコアを削り切ったことでファイト終了。自らのライフコアも残すところ最後のひとつ、というギリギリまで追い詰められていたアキラは、互いにほぼノーガードでやってやられてを繰り返す激しいシーソーゲームに勝利したことでぐっとガッツポーズを作った。


「危なかったよ。あと少しで負けていたのは俺の方だった」


「そうね……悔しいけれど私にはそのあと少しが足りなかった。でもいいファイトだったわ。次の試合も私の分まで頑張ってくれると嬉しい」


「もちろんだよ──わっと!?」


 一回戦敗退という結果には思うところあれど、勝者への祝福を忘れないリスペクト精神を持っている少女へ自信を示さんとサムズアップで応えたアキラ。しかしその途端にドミホへ次の試合の開始を知らせる通知が来たことで慌て、決めポーズも台無しになった。


 どうやら合同トーナメントは思ったよりもハイペースで進行しているらしい……速攻対決の割にはアキラの一試合目が長引いたことも原因ではあるだろうが、とはいえ戦い終えたあとにひと息つく間くらいは欲しいものだとアキラは思う。


「呼ばれているみたいだ。俺はもう行くよ」


「そうしてちょうだい。影ながら応援してるわ、アキラくん」


「ありがとう!」


 ファイトした相手からエールを貰えるのは気持ちのいいことだ。アキラはそのまま軽やかな足取りで次のファイトスペースへ入る。向かい側には既に彼の倒すべき次の対戦相手が待っていた──またしても一年生。利発的な印象を受ける背の高い少年だ。


「黒を混ぜた緑主体のデッキ、戦法はビートダウン……ファイトの度に使うユニットはまちまちだが攻め方自体は一貫している。ふっ……手玉だね」


「!」


 分析されている。その上で少年はアキラを与しやすい相手であると断言した。それが本音か否か。そこを考えることに意味はないだろうと、アキラは彼の挨拶代わりの牽制に対して朗らかな笑みを返した。


「知っていることと勝てることは果たして同じかな? もしもそう思っているのなら、君こそ手玉だぜ」


「言ってくれるじゃあないか……であるならファイトで証明してみせよう、この僕の実力を!」


「「ドミネファイト!」」



◇◇◇



「ぐわぁ──!!」


「よしっ! これで俺の勝ちだ!」


 印象とは裏腹に赤単色のガン攻めデッキの使い手であった少年だが、その攻めの切れ味は同じ赤使いのコウヤに若干劣っているようにアキラには感じられた。故に少年なりに講じた対緑陣営戦略であるユニットを優先的に狙う戦法を取られても落ち着いて対処することができ、一戦目よりも危なげなく勝利を収められた。


「ナイスファイトだったよ」


「ナイスファイト? いいや、僕の完敗さ。もっと上位まで行けるつもりでいたんだけどな……これはまたデッキを練り直さないと。そういう意味では君とのファイトはいい経験になったよ、ありがとう」


「こちらこそ!」


 煽りはするものの彼も蓋を開けてみれば気持ちのいいドミネイターだった。「僕に勝ったのだからどうせなら優勝してくれよ」と彼らしい物言いの応援をされたアキラはそれに再びサムズアップで応え、フィールドを後にする。そこにちょうどコウヤがやってきた。


「よっすアキラ。お前も二勝目か?」


「そう訊いてくるってことは、そっちも二勝したんだね」


「あたぼうよ。一年と二年を一人ずつ倒してやったぜ」


「二年生も! やっぱりコウヤは流石だね」


「な、なんてことねーよそんくらい。それより見ろよ、あっちでミオのやつも二年生と戦り合ってるぜ」


 まだ自分が当たっていない上級生を打倒済みである。それを我がことのように喜び顔を綻ばせるアキラに少し照れたコウヤは、今まさに二戦目のファイト中であるミオへと彼の目を逸らさせた。


「天才少年くんでもサクッとひと捻り、ってわけにはいかねえようだが優勢なのはミオだな。きっとあのまま勝っちまうぜ」


「本当だ。ミオのライフコアはまだ四つ、対して相手の方はもう残り一個。それに手札でも場のユニットでもミオが上回っている」


 これは決着も時間の問題だろう。そう予想した通りにミオが最後の攻勢に出た。二年生も上級生の意地か、追い詰められた状況からでも思いの外粘ってみせたが凌ぎ切れず、ファイナルアタックを許してしまった。これでミオも二年生を打倒済みの一年生の一人となった。


「うわぁ、すごいなミオも……内容的には相手の方が後輩みたいじゃないか」


「何がすげーって、あいつのデッキだよな。一戦目の終わり際も見たがよ、そんときゃ白デッキだったのに今は赤緑の超攻撃的なデッキを使ってる。それもただ使ってるってだけじゃなく使いこなしてやがる」


「!」


 それを聞いてアキラは驚いた。いや、同級生としてミオがいくつものデッキを所持しており、その全てでファイトに勝利していることは実技の授業を通してとっくに既知の事実であったが。加えて一度のファイトする度にころころとデッキを変えていることだってアキラはとうに知っていた──が、まさかそれを大会においても実践するとまでは流石に予想できていなかった。だから二人は驚いているのだ。


「そんだけ自信満々ってことだよな。へっ、ホントにクソ生意気なガキンチョだぜ」


 言葉の割にコウヤの表情は楽しげだった。そしてそこには隠しきれない闘争本能も大いに混在しており。


「あいつと同じグループで良かったぜ──アタシがぶっ倒してあの高ぇ鼻っ柱を叩き追ってやんよ」


「来年のことを言えば鬼が笑うと言いますが。次の試合よりも先のことを考えているあなたを、わたくしも笑ってさしあげればよろしくて?」


「「!?」」


 突如背後から聞こえた声に、コウヤとアキラが振り返れば。涼やかな声音に刺々しい口調……それを発したのは二人の思った通りの人物であった。


「──んだよ、舞城オウラ。露骨にアタシらのことを避けてるかと思えば急に話しかけてきやがって」


 コウヤ、アキラの二人と同じくミヨシ第三小学校出身、美しき白使い舞城オウラ。当然の如くにドミネイションズ・アカデミアに合格していながら今日まで頑として自分たちをスルーしてきた彼女に、因縁のあるコウヤが眉をひそめながらそう言えば。


「あら、まさかわたくしと仲良しこよしがしたかったのかしら? ならお生憎様、同級生として群れなせどお友達ごっこをするつもりなど毛頭ございませんの。声をかけたのはただの催促ですわ。あなた、ドミホの通知に気付いていないでしょう」


「おっと、うるせーもんだからマナーモードにしといたせいで見逃してたぜ。……なるほどな。アタシが次に戦う『八番』ってのは──」


「ええ。このわたくしのことでしてよ」


「……!」


 視線で火花を散らす両者。そこに込められた闘志と殺気の尋常でなさにアキラは総毛立つ。


 小学校で語り草となったあの伝説の一戦の再来。もしもこの場に他にもミヨシ第三出身の生徒がいればアキラと同じ反応をしたことだろう──一進一退の攻防、毎ターン入れ替わる優勢劣勢、完全に互角の力量……長く激しく続いたそのファイトの決着には、確かなドラマがあった。しかしてそれ以来この二人は顔を見合わせれば喧嘩となり、だというのに再ファイトだけはやろうとしなかった。それはきっと観戦していた者たち以上に、二人にとってこそあのファイトが特別なものだったからだろう。だから気軽には再戦ができなかった──。


 その禁がついに破られる。見たい、と思わずギャラリーを希望するアキラだったが、それを察したコウヤが。


「おいおい、しっかりしやがれよアキラ。お前にだって次の対戦相手はいるんだぜ……例えばそれは、あいつとかになるのかもしれねえ」


「!」


 コウヤが示した先では、クロノが優勝候補であるシード枠の二年生を倒したところだった。二戦目にして早々に強敵と当たった不運な彼は、しかしその不運を力尽くでねじ伏せてみせた。勝利した彼が口元にあの日と変わらぬ獰猛な笑みを浮かべているのを見てアキラはぶるりと震えた。


 それは紛れもなく武者震い。アキラのその様を見て、コウヤは「ほらな」と頷く。


「お前にもあいつとの間に何かしら因縁ってもんがあるんだろ? だったらこれを機にちゃんと倒してこいよ。アタシもこいつを今度こそ完膚なきまでに叩きのめすからよ」


「コウヤ……」


「ふん。愛しのボーイフレンドに良いところを見せようと必死ですわね。残念ながらわたくしは当て馬になどなってあげられませんけれど?」


「言ってろ。移動すっぞ、アタシらの戦うフィールドにな!」



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