468.究極と極限のドミネユニット
──余談ではあるが、常識に捕らわれて凝り固まっている者ほどドミネユニットを相手取った際に苦しめられることになるのは間違いない。なので、本人に自覚はないが、アキラ自身がドミネイターとして非常識側にいるのは実に運のいいことだった。それはドミネユニットを従えるだけでなくドミネユニットとの敵対においても著しい適性があるということであり、なかんずく彼の『覚醒者』としての資質を強める要素でもある。アキラ本人は気付いていないそれを、彼の周囲の者たちは皆が知っている。中でもその筆頭が他ならぬ現在彼と向かい合っているこの少女ロコルであるからして──つまり。
「それで? いったい【極限】はどんな突拍子もないことを可能にするキーワード効果なんだ?」
「それに関してはセンパイもご存知っすよ」
「何……?」
「だって【極限】の効果はこれひとつで『他のキーワード効果全てを肩代わりできる』ってものっすから。自分がそれを望めば【極限】はその通りの効果になる……つまり! ネオ・テンペストは実質的に全キーワード効果を網羅しているに等しいっす!」
「他のキーワード効果に成り代われる効果だって!?」
「それも一切の制限なく、何度でも何個でも! 【極限】はいくらでもネオ・テンペストに力を与えるっす! 【守護】も【重撃】も【疾駆】も【好戦】も【飛翔】も【潜水】も【加護】も【呪殺】も【復讐】も、他のなんであっても! 欲するままに得られるんだから【極限】はまさしく極限的なキーワード効果! これひとつで全てを賄えてしまえるんすよ!」
「ッ、」
道理で他に【極限】を持つユニットがいないわけだ。こんなものを通常ユニットが持てるはずもない……持たせていいはずがない。何せこの一個があるだけでネオ・テンペストは現時点でドミネイションズに存在するキーワード効果の全て、だけでなく。これから先の未来で新しく出てくるであろうものにも全て適応してしまえるのだからおいそれと他のユニットが持っていい能力ではない。未来の話をするならいつかは【極限】がネオ・テンペスト専用のキーワードではなくなる可能性だってありはするものの、しかし少なくとも今現在においてそれを持つのがこの一体きり──プロシーンで活躍しているドミネユニットらも含めて──であるというのが、いかに【極限】が危険な代物であるかを表していると言えた。
固有ではなく共有されるのがキーワード効果の意義。捻った見方をするならある意味では他のどのキーワード効果よりも最もその意義を果たしている、生粋のキーワード効果こそが【極限】である。全キーワードと繋がっているこの能力はそう評しても間違いではないだろう。それを踏まえてアキラは言った。
「やっぱり突拍子の欠片もないな、ドミネユニットのやることっていうのは。二重のドミネイト召喚を経ただけあって相応に……いや、相応以上にヤバそうだな、お前のネオ・テンペストは」
「お褒めの言葉と思っておくっす。そしてやらせてもらうっすよ、効果適用! とりあえずさっき言ったキーワード効果は全部まとめて【極限】によって発動させるっす!」
「……!」
かけつけ一杯の如く「とりあえず」で完全体エターナルも真っ青なほど盛りだくさんの効果を得るネオ・テンペスト。その何気なさと反比例する凄まじい力の変動にアキラの顔色が変わったのは、単に敵対ユニットが強化されただけに留まらず、いよいよロコル自身に攻め気が見えたから。強烈な殺気を放ち始めたからだった。
「注目はやはり【疾駆】と【重撃】っすよね。これでネオ・テンペストは召喚酔いに悩まされることなく動け、しかもダイレクトアタックすればセンパイのライフコアを一撃でふたつ奪えるっす……とはいえ。そこは当然、センパイのドミネユニットが許してはくれないっすよね?」
「……さて、どうだかな。アタックしてみればわかることだぜ?」
「あは、それもそうっすね──」
ロコルとしても元々無視できるなどとは考えておらず、アキラの場のドミネユニット。《森羅の拳聖クシャ・コウカ》を打倒する気満々でいるものの。ただしアキラの方がその激突を避けないとは必ずしも言い切れない状況ではあった。何故なら彼のライフは残り三。【重撃】によるダブルブレイクが可能となったネオ・テンペストのダイレクトアタックを受けたとしてもまだ一、残るのだ。【重撃】よりもブレイク数を伸ばす──つまりはトリプルブレイクを行なえるキーワード効果というものはまだ存在しない。既存のキーワード効果にないからには【極限】による無制限の適応であっても適応できないのだから生存の目途は立つ。からには、ドミネユニット同士の激突を回避して、ロコルが先ほどそうしたようにアキラもまた次のターンの攻めに備える。そういう選択肢も彼にはある。
だがロコルはそれが選ばれないであろうことを半ば確信していた。
(だってセンパイがそんな安易な皮算用をするはずもないっすから。ドミネユニットを操る者なら抱いて当たり前の危惧。ネオ・テンペストが持つ『固有能力』の方への警戒を頭から消したりはしない……!)
そう、ロコルが説明したのはあくまで『キーワード効果【極限】とはなんなのか』というその一点のみ。それ以外には何も打ち明けていない。あたかも【極限】こそがネオ・テンペストの強味の全てかのように大々的に話して、その本質については隠したままなのだ。猪口才なやり口は何もアキラを騙そうとしているのではなく、あえてである。懇切丁寧に筋道立てて何もかもを詳らかにする、そんな「舐めた真似」などしなくてもアキラならば自発的に、自ずと気付き最適解を取る。そう信じられるからこそロコルはこうして決断を迫るのだ。
(通してしまえば何が起こるかわからない。最悪一撃の元に三つともライフコアが散らされるかもしれない……ネオ・テンペストがアタック時にどんな力を振るうか不明である以上! そして詳細こそ不明でも何かが起こるのは確実である以上、センパイはクシャ・コウカを動かさざるを得ない! 対する自分もその対決を受け入れる以外に道はない──とっても明快な帰結っす!!)
回避は悪手である。そうと互いにわかっているのだから選択肢は実質一択しかないようなもの。ドミネユニットとドミネユニットの激突はどのみち必至であるのだから、アキラもロコルもとうに覚悟ならできている。両者が共にその覚悟を見て取って、そして命令は下された。
「《悠久の真祖ネオ・テンペスト》でアタック! 攻撃対象は相手プレイヤー、センパイ自身っす!」
「この瞬間レスト状態にある《森羅の拳聖クシャ・コウカ》の常在型効果が適用される!」
「!」
思った通りに来た。前のターンから予想していた通りの展開が──あとはクシャ・コウカに秘められた力が何か次第。それを突破できるだけの力がネオ・テンペストにあるか次第であった。
「このユニットがレストしている時、相手からのアタックの標的は全てクシャ・コウカへと『変更される』!」
「ッ、攻撃を全て自身へ誘導する常在型効果……変則的なガード効果ってわけっすね!」
「ああそうだ、クシャ・コウカがいる限り他のユニットや俺は敵の脅威から完全に守られる! それは攻撃主がドミネユニットであったとしても例外じゃない──ネオ・テンペストの攻撃対象は俺からクシャ・コウカへと移るぜ!」
ここにドミネユニット対ドミネユニット。ネオ・テンペストVSクシャ・コウカの戦いが幕を開けた。




