467.デュアルドミネイト召喚!!
ずらり、と立ち並ぶ無味乾燥ののっぺらぼう。マネキンの如き五体のトークンたち。巨塔たるテンペストの足元にて何をするでもなく何を思うでもなくただそこにいるだけの彼らに、その召喚主は得意に笑って言った。
「《輪廻独居》の効果によりドミネイト召喚のための贄となった《カラーレス・トークン》が復活! 今一度フィールドへと呼び戻されたっす。わざわざ二度に分けてトークンを合計十体生成した意味! パッと見だと二度手間としか思えないそんなプレイングを何故自分がしたのか、お望み通りにその答えを披露しようじゃないっすか!」
「ッ!!」
アキラが求めた「答え」。彼が抱いた疑問への解答なら既に済んでいる──具体的な内容まで含めてもう理解が行き届いている。
ロコルが全てのコストコアを使い切ることで《無言葬列》による最大数の生成。即ち一挙に生み出せるトークンの最高値を取らなかった理由は、そうするとドミネユニット《無窮の真相テンペスト》のシン化ならぬ進化が叶わないからだ。『場にいる全ての無陣営ユニット』を生贄として要求するテンペストの召喚条件。それを満たそうとすれば無条件で十体の《カラーレス・トークン》が根こそぎに持っていかれてしまうため、そうなるとロコルの狙いとは大幅に展開がズレてしまう。七体以上の贄が捧げられたことで完全体となったシン・テンペストこそ場に君臨するものの、彼女が願うのは完全ではなくもっと別の何か。その何かを呼び起こすために一度に最大数を用意することができなかった。用意してはいけなかったのだ。
結果として贄の調達は二度に機会を分けられ、そしてロコルのフィールドには主と再びそれに貢がれるため蘇った五つの命がある。揃ってしまっている──「よもや」とは思いつつもしかしこの状況、それに彼女の言動からしても否定する要素は一切ない。アキラは脳裏に浮かんだその可能性こそが正解であると、そうに違いないと既に断じている。
故に答えを教えてもらう必要はない。答え合わせをしてもらう必要などないのだ──が、だとしてもそんなこととは一切関係なしにそれは明示される。開示される。告示される。ロコルが告げる、己が勝利への最大手としての一手。
少女はもう止まらない。
「自分は! 場の全ての無陣営ユニットと、《無窮の真相テンペスト》を生贄に捧げるっす!!」
「やっぱりそうか。そうなのか。ドミネユニットをドミネイト召喚のための贄に……! それがテンペストがより『強い姿』になるための昇華方法! ロコル、お前の真のエースを呼び出す手段だってわけか!」
「あっは!! その通りっすよセンパイ! さあさどうぞくっきりとその綺麗なお目目に焼き付けてくださいっす、九蓮華ロコルの『全て』を!」
──デュアルドミネイト召喚!!
一層に高らかに、一等に意気強く。少女の叫びは木霊となって大講堂の中央より四方八方の隅から隅までに響き渡り、反射し、共鳴し、その場の全員の意識の奥底にまで深々と奇跡を刻み込んだ。熱灯りのように再度全身から光とオーラを立ち昇らせたロコルは輝きをユニットと──これより進化のため自身を贄とするテンペストと共有し、あたかも互いを「高め合う」かのように両者の眩さは更にその激しさを、同時に清らかさをも増していく。
予兆が最高に達した瞬間。
「出でよ、私の化身! 《悠久の真祖ネオ・テンペスト》!!」
《悠久の真祖ネオ・テンペスト》
Dコスト パワー20000 【極限】
「……!」
一見して規模感は変わらない。元々のテンペストと同じく巨大な、決してそれ以上に大きくなってはいない従来通りのサイズ。昆虫を思わせる無数の翅が振動し細かな音を立てているのも同じだ──けれど違う、はっきりと違う。大きさも意匠もそのままに、されどその造りがまったく違う。同じ見た目でより剛健に、より瀟洒に、より華美に。一段も二段もグレードアップしていることが一目でわかる。それは人造から神造への変化。人の手で作り出された物が神の手で生まれ変わった。それ即ち人と神の合作であり和解の象徴。究極の融和をその威容によって表した存在であった。
それこそが完全ではなく究極テンペスト。ロコルという少女の、一人のドミネイターの辿り着いた「答え」であった。
「完全だとか完璧だとかって言葉は、ちょっとだけ虚しいっす。それは到達点にして終わりを指すっすからね。その先がない言葉なんすよ」
「じゃあ、お前の言う『完全なんてない』っていうのは……ただの否定じゃなく、もっとその先へ行きたいから?」
「かもしれないと、ドミネイト召喚に目覚めてから……テンペストと出会ってから自分でも思うようになったっす。この胸の中にある虚無こそが自分だと」
だけどそれはほんの一部。自分の本質の全てではない。虚無の克服を願う己がそこにいて初めてロコルはロコルとなる──それを指し示す形がネオ・テンペスト。完全よりも究極を目指した彼女自身の姿。
「究極とは果てを追いかけること。届くはずのないそこへ届かせんと全力で走り続ける姿勢を自分は究極と名付けたっす。終わりはない、到達なんてしない。ただそうさせたいと欲する心がそこにあるだけ。それだけがいいっす」
「完成や完全は終わり。究極は終わりがない……」
「ただの言葉遊びだとお思いっすか?」
「いいや、そうは思わない。とてもそうとは思えない……ロコル、今のお前を。お前の呼び出したネオ・テンペストを見れば俺にもはっきりと伝わってくるからだ。そこにある想いの質量が、確かにな」
「ならば重畳、惜しみなく。──行くっすよ、センパイ!!」
「──来い、ロコル!!」
売り言葉に買い言葉。約束されたように意気を交わしたことでロコルの勢いは加速度的に加速して。
「元の姿とは違いネオ・テンペストが持つキーワード効果はたったひとつ! その名も【極限】っす!」
「【極限】……?」
それは初めて耳にする効果名だった。アカデミア生として日々ドミネ関連の勉学に励み、また実戦経験も入学前とは比べ物にならないほど積んできたアキラであってもまったく未知の能力。しかもそれが固有能力ではなく、幅広くユニットに共通するキーワード効果であることに彼の困惑はより深くなる。
「ご存知ないっすよね? 無理もないっす、それはセンパイの勉強不足なんかじゃあなく当然のことなんすよ。なんせ【極限】はネオ・テンペストだけが持つ独自のキーワード効果。その名の通りに極限的な能力なんすから!」
「なんだって、ネオ・テンペストだけが持つキーワード効果!?」
他のユニットと共通しないキーワード効果となるとキーワード効果の定義から外れていると言わざるを得ないが、しかしドミネユニットならば「そういうこと」も大いにあり得る。あり得てなんら不思議ではない、それがドミネユニットのドミネユニットたる所以なのだから仕方ない。アキラもドミネユニットを操る身としてそこは飲み込むが……けれどやはり相手にしてみれば改めて、なおのことにその常識外れぶりには驚かされる。驚かされはする、けれども──。
「デュアルドミネイト召喚に、世界初のキーワード【極限】。そいつはまた『面白い』じゃないか──どこまでもワクワクさせてくれるじゃないか、ネオ・テンペスト!」
究極を冠するドミネユニットを前にしてもアキラはまったく怯まず。ロコルの高まりに応えるように、彼の意気もまた上がり続けていた。
まったく非常識なお人だ、と少女は笑いながら唇を舐めた。




