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463.ロコルの切り札

「無色のコストコアだけで唱えることで本来かかるコストの半分の出費で抑えたってわけか……確かにコスパで考えれば抜群だな。その気になればお前は一気に十体並べることもできたんだろ?」


「そうっすね、現在の自分のコストコアは合計十個。全てが無陣営のそれである以上、その数だけ《無言葬列》は《カラーレス・トークン》を生み出すことができるっす。それができたなら手間もかからなかったんすけどねぇ、生憎とそうもいかないっすから。まずは五体に『抑えておく』必要があったんすよ」


「抑えておく、だって?」


 たった一枚のカードで、5コストの消費で五体ものユニットを並べておきながらそれでもロコルは、この展開の仕方を「抑えた」方だというのか──それがあくまで上限数の十体と比較しての言葉であることはアキラにもわかっているが、けれどわかったところでだ。彼は額の汗を拭う。しかしそれが流れる原因である肝心の予兆の方は、感じ取れて仕方ない予感の方は一向に拭えない。拭いようがない。まだ根拠と呼べるほどの材料はないが、そんなものなくとも彼にとって確信を抱くに不足ないものだった……それくらいに、今のロコルから感じられるものは。


「十体呼べたなら手間がなくていい、と言いつつ。五体に留めたワケを知りたいっすかセンパイ?」


「……ああ、是非とも知りたいね。教えたくないっていうんならそれでもいいんだけどさ」


「あはは、遠慮なんてしなくていいんすよ、自分とセンパイの仲じゃあないっすか。知りたいと言うのなら是が非でも教えて差し上げるっすよ──その身をもって知ってもらうっすよ! この九蓮華ロコルを!!」


「!!」


 高らかに叫んだロコルの全身が、光った・・・

 強烈な、それでいて淡くもある、見る者の目よりも心を焼くような、瞳よりも記憶に刻まれるような鮮烈な輝き。


 一人の人間が起こすには大きすぎる奇跡、望むべくもない未知にして既知の現象──それがなんなのかを、アキラはよく知っている。


「ドミネイト召喚……!? まさかロコル、お前も!?」


「あはッ! 敏いんだか鈍いんだかっすね! そのリアクションからすると紅上センパイたちとは違ってちっともわかっちゃいなかったんすね──だったらなおのことに!」


 ここでそれを切る価値があると、ロコルは光の中でより鮮やかに笑う。


 使わないと言った。使うわけにはいかないと言い切った。それでも勝ってみせると啖呵を切った──九蓮華に生きる決意をした者として放った前言を、大言を翻してまでロコルがその判断に至ったのは。それはもちろん、ファイト前に抱いていたあれやこれ。抱え込んでいたそれやどれも、何もかもをかなぐり捨てたから。引き上げられたからには、そしてそれ以上に引き上げたからには、ここから先は己が力で更なる上を目指すしかなく。そのためには出し惜しみなんてしていられない……たとえこの行為がいずれは自身の首を絞めたとしても。だけに飽き足らず、同じ道を歩むイオリ、その道を譲ったエミル、ひとつ横の道を行くミライやマコトにまで迷惑をかけてしまうとしても。御三家や高家の枠組み、そこに存在する格差や権力の一極集中を取っ払うという本来の目的から遠ざかってしまうとしても。

 

 だとしても、だ。


「目の前のドミネファイトに、どうしても勝ちたい相手に勝てずして! 全力を出すことから逃げてしまうような奴ならば──そんなドミネイターにデカい夢を見る資格が! 追いかける意味があるのかって話っす……! だから自分は!!」


「ロコル……!」


 事情は知らない、わからない。エミルとのファイトを機に日本ドミネ界の中枢、そこに住まう「位の違う」者たちにも色々とあるのだと悟ったアキラではあるが、彼が触れたのはその表面上のごく一部に過ぎない。さわりにはまるで触れられておらず、微かに届いてすらもいない。


 ファイト後にもエミルはそれについてアキラに事細かく説明するようなことをしなかったし、それはイオリも、そして誰よりもアキラと接する時間の多いロコルとてそうだ。各々動機となる部分は異なれど貴族社会の改革を目指す彼ら兄弟はそれを自分たちだけでやり遂げねばならないと思っており、またそれ以上にこの問題へアキラを巻き込みたくない思いもあった。ただでさえ『覚醒者』となることを確実視されてやにわに注目を浴びて以前より難しい立場に立たされている彼にこれ以上のごたごたを背負わせたくない。できるだけのびのびと成長してほしい、という純度百パーセントの善意によってあえて「九蓮華家」としては距離を取っている現状を、アキラの方もその気遣いに関しては察しもついているために彼から迂闊に踏み込むような真似はしていない。


 なのでロコルがどんな思いでこれまでドミネイト召喚を使ってこなかったか、このファイトでも本当は使うつもりではなかった様子なのも、その理由がどこにあるのか。彼にはまるでわからない。おそらく何かしらの誓いが彼女の中にあったのだろうが……それをどんな思いで自ら破る決断をしたのか、なんとなくの想像こそできれど正確なところは測れない。かつても今もドミネ貴族とは無縁であるアキラにはその世界の中心の一人であるロコルの苦悩や苦渋などピンとくるわけもなく、推し量れるはずもない。それが当然のこと。


 ただしそんな諸々の枷を、背負うと決めたはずの重荷を今ばかりは全て捨て去って。足元に置いたそれには見向きもせずに目の前の敵だけを。若葉アキラだけを強く見つめる九蓮華ロコルの眼差し、そこに宿る覚悟の熱量だけは推し量るまでもなく──見間違うはずもなく。


 正しくその全容なかみが伝わってきたから。


「どんな葛藤があったのか。そこにどんな理由があったのかは……この際どうだっていい。何を経ていたって今お前が全力で戦っていること、それだけわかれば俺には充分だ。呼べよ、ロコル!」


「随分と余裕じゃないっすか。それに驚きもそこそこに落ち着いている。自分はセンパイの新ドミネユニットにああも狼狽えたっていうのに……さすがの度量だと感心しておくべきっすかね?」


 ファイトに関してのアキラのずば抜けた対応力。その幅広さや柔軟性はプレイングの面だけでなくこういった部分にも表れる。相手の戦術に対処する能力だけで言えば己も捨てたものではないと評しているロコルであるが、そこにアキラのような「懐の深さ」とでも言うべき安心感・・・は欠けていると。そこも自分にはない彼の持つ強味だと考える──なので感心と口にしたのは皮肉でもなんでもなくロコルの本心からの称賛を込めたセリフだったのだが、それに対して当人はすげなく首を横に振って。


「いいんだよ、感心なんてしなくたって。度量があるから余裕なんじゃないし、そもそも俺はちっとも落ち着いてなんかいないんだから。そう見えるんだとすればそれは単に驚きよりも楽しみが勝っているってだけさ──ただひたすらにワクワクするぜ! クロノに引き続きロコルのドミネユニットまで見られるなんて!!」


「……! そうっすよね、センパイはそういうお人っすよね! だから自分は! だから自分もこんなに楽しいっす! その想いを、あなたへの想いをここに結ぶ!」


 来るか、と身構えるアキラ。はい、と一際に全身の光を強めるロコル。彼女の奇跡の産物が大講堂の全てを埋め尽くした次の瞬間、眩いそれは収まり、そして代わりに次の異変が空間そこに生じた──罅割れ。次元を越えて召喚される、常識を超えて招来される証。その奥にいるのは。


「来たれ、の切り札!!」



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