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460.真っ直ぐに!

 時間制限タイムリミットはどんなドミネユニットも抗えない絶対的なルール。もちろん、その絶対すら自身の道理で捻じ曲げてしまう《天凛の深層エターナル》の例を知っているからにはそれにも「例外」はあると理解しているロコルだが。けれどそんな横紙破りを行なえるのはそれこそエターナルくらいのもので、他にそうはいるまいと。そうそういてたまるかとすら思っていたのだが、なんとまあ。アキラもまたそういった例外的存在を誕生させてしまったわけだ──ロコルは呆れ、そして首を振る。


「エリアカードの助けが必須とはいえ……エターナルみたいに自身の能力だけで禁を破っているわけじゃないとはいえ、とんでもないっすね。よりにもよってセンパイはそんな存在を作り出してしまったんすか」


 自分とのファイトにおいて生み出された第三にして最新のドミネユニット。それがまさか完全体エターナルが持つ一等の強味のひとつである時間制限の自己撤廃と同義となる能力を持ち合わせているとは、驚くしかない。それが偶然ではなく明らかに意図してアキラがそういった力を有するドミネユニットを、《森羅の拳聖クシャ・コウカ》を呼び出したこと。それにこそロコルは深く感じ入る。


 彼が持つ可能性はまだまだこんなにも底が知れず、天井知らずである。


「もし自分がこのままターンを終えたとしてもクシャ・コウカは消えない。先んじて彼女を現世に留めている《森羅の聖域》──エリアカードから排除したとしても、最短でもセンパイの次のターンの終わりまでは存在を維持できる。そういうことでいいんすね?」


「ああ。お前も察しが付いているだろうけど、その場合は俺がエンド宣言するまでに再び《森羅の聖域》を展開できれば時間制限のカウントは止まる。いや、止まるっていうよりゼロに戻るってことも付け加えておくぜ」


「もう一度エリアを除去してもまたそこから二ターンの間は居座る、と。やっぱそうっすよね、処理としてはそれが自然っす……ふう。ならもう仕方ないっすね」


 クシャ・コウカを無視スルーする。ドミネユニットの存在を横目に自陣の構築にのみ勤しむ、という選択は「なし」になった。それをする最大の意味であり旨味であるタイムリミットのオーバーによる強制送還。ルール上の絶対がクシャ・コウカには通用しないと知れたからにはその択にもはや選ぶべき価値などない。


 いくらアキラの手札が残り一枚とはいえ、次ターンでのドローもある。それに加えてエリアとドミネユニットが共に揃っている状況で「盤面を崩されない」自信がロコルにはなかった。残り一個のライフコアを守り切れる自信が、なかった。これでまだしもクシャ・コウカが不在となればそちらも岐路の片割れとして存在感を失くしはしなかったのだが……とまれ、だ。


 仮にそうだったとしても自分がそちらを選ぶことはなかっただろうとロコルは薄く唇を曲げる。


「むしろ清々しいくらいっすよ。消極的な案を選ぶ理由がさっぱりと消えてくれて見通しが良くなったっす。岐路じゃなく目の前には一本の道があるのみ。これでもっと気持ちよく前に進めるってもんすよね──ねえ、センパイ?」


 真っ直ぐ進む強さを誰より知っているあなたならわかるはずだ。と、問いに対する答えというより単なる相槌を求めるようにそう述べたロコルへ、アキラはその雰囲気の変化を感じ取りながら彼女の望み通りに、あるいは自身の思うがままに肯定を返した。


「わかるよロコル。今のお前の気持ちが俺にはよくわかる。こうあるべきと定まった瞬間、それが心情や信条とがっちりと噛み合った瞬間。ドミネイターは無敵になる。それこそがドミネファイトにおける最上の喜びだと、俺は思うから」


 その結果がどうなろうとも。結末が勝利にせよ敗北にせよ、それはあまり重要じゃない。否、もちろん雌雄を決することがファイトの意義である以上は勝敗が重要でないことなどあり得ないのだが。しかしだとしても、そうだとしても「この話」にはそんなこと関係がないのだ。


 最高潮に達する喜び。そこで得られた感覚は値千金。ドミネイターを更なる高みへと昇らせる何よりの材料であり、経験である。それに伴う筆舌には尽くせぬ、味わった当人だけが知れるものこそ、ファイトの頂点──オーラの隆盛に至る最もの起点。


 今のロコルは「そこ」にいる。成った・・・のだとアキラは、過去に似た経験をしている彼には瞬時に理解できた。


「あの日エミルと共にそこを通ってわかり合えた。このファイトがあの時と同じ結末を辿るとは限らない……俺とお前の勝負がどんな終幕を迎えるかはまだ誰にもわからない。もしもドミネイションズの神様がこの世にいたとしても神様にだってわからない。それは俺たち二人で作り上げていくものだからだ──作り上げていかなきゃならないからだ。ロコル! 俺たちのファイトには清々しいものだけであってほしいと! 俺だってそう思う! だからお前がそれを味わっていることを! 俺はお前以上に喜びたい!」


「ふふふ、そうはいかないっすよセンパイ──センパイが喜びを感じてくれている、そのことに自分はもっと喜ぶんすからそれこそ天井知らずっす。どこまでも高まっていく想いに限界はないと! あなたを想う気持ちに上限なんていう水を差すものはないと証明するために! 宣言するっす! 『このターンでファイトを終わらせる』と!」


「!!」


 アキラの反応にロコルは笑みだけを返す。元より彼女はそうするつもりだった──消極的な策は手堅いが懸念もあったのだ。ドミネユニットが時間制限によって退場した際、それはドミネユニットを打倒したことにはならない。無事のままに異世界へ帰ったドミネユニットは、条件さえ整えばそのファイト中にも再びドミネイト召喚によって君臨できる。そういう懸念があった。


 アキラに次ターンを与えてしまえばクシャ・コウカを呼び戻されるかもしれない。あるいは、ひょっとすればまったく別の「第四のドミネユニット」まで誕生してしまうかもしれない。それはともすればクシャ・コウカを場に残したまま手番を渡すことよりも恐ろしい事態を招きかねない、とてもではないが見過ごせない不安の種。手札二枚で何ができる、などという常識からくる油断が致命となる相手と戦っているからにはできることなら「ターンを渡さない」。それこそが勝利のための最適解に他ならず。


 だがそれはおそらくまだ他にも能力を隠し持っているであろうクシャ・コウカと正面から対決することであり、それを乗り越えた先で更にアキラの残り三つのライフコアを全て削り切ることでもある。無理難題である。クシャ・コウカを相手にせずライフだけを詰めるという単純に過ぎるプランは決して通じないであろうと直感が囁くだけに、それをアキラの言動やオーラからの推論も肯定するだけに、このターン中に勝利を収めることがどれだけ難しいかロコルは重々に把握している。


 ──把握した上での勝利宣言だ。


「初めからそうしたいと疼いて仕方なかったんす。センパイが先のターンで自分を仕留め切れなかった時点でそういう予感もあったっすから。これが千載一遇にして最後の好機になるだろう、ってね」


「……! そうか、だからさっきのダブルクイックチェックでお前は……!」


「そうっすよ、あの時から既に! 自分には攻め込む以外の道を選ぶつもりはなかったんす! どんなに思考派としての自分が他の筋道を教えてくれようと、それに目を瞑ってでも! 最短にして最難関の道を行きたいと──そこにどんな障害があろうともぶち破っていきたいと!」


 ただ真っ直ぐに。

 若葉アキラのように若葉アキラに勝ちたいと、そう思ったから。

 だからロコルは。



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