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459.時間制限は?

「どうして追撃の可能性を切り捨てられたんだ? ドミネユニットの怖さはエミルの妹としてお前が誰よりも知っている。からには、決して『怖がり過ぎ』じゃないとも思ったはずだぜ」


「そうっすね。一撃でこちらのエース級とライフコアのふたつを奪っておきながら、そこから更なる追撃を行なう。通常のユニットならいざ知らずドミネユニットであればそういった芸当も可能にするだろうと。それだけの力があっても全然おかしなことじゃないとは、自分も確かに思ったっすよ。でもその可能性を否定する材料をセンパイがくれたんす」


「俺が……?」


「っす。センパイの意気。オーラから直接感じ取れる闘志は、『このターンで勝ち切る』それじゃあなかったっす。どこまでも『逆転』を目指して燃える戦意だったっす。ドミネユニットに繋ぐまではもちろん、いざドミネイト召喚に成功しても。そしてクシャ・コウカにアタックを命じる段階になってもその気配は変わらなかった……そこが極め付けだったっすね。センパイの言うが本当にあるとすれば、あそこで自分を仕留める意欲が一切漏れてこないってのはどう考えたっておかしな話っすから」


 ククルカンへのアタックを命じたのは無論、次ターン以降におけるククルカンの生存がファイトの勝敗を左右するからに他ならない。そこで次を見据えている時点で「今」勝とうとはしていない、と見做すのは当然のことだが。しかしそう思わせておいてクシャ・コウカに秘められたドミネユニット特有の過剰な能力によってそこからライフアウトにまで持っていかんとしている。アキラにそういう企みがないとまでは断言できたものではなかった。実際にククルカン打倒のついでにライフコアをふたつも減らされているロコルとしては余計にその可能性を恐れなければならなかったが、けれども答え合わせはそれより先に行われていた。


 ライフ残り一、その状況にまで追い詰められるアタックの瞬間においてアキラのオーラは「殺し切る」姿勢を見せなかった。崖際に追い込まれて常以上にその感覚へ敏感になっているところのロコルに、一切の死を感じさせなかった。


 で、あるからには。


「追撃が控えているかどうかは明白っす。クシャ・コウカには恐るべき力がある、だけど今すぐファイトを終わらせられるような能力はないと! そう判断したっす」


「……!」


「それだけじゃなくいくつかあったセンパイの『次の展開』を意識させるような言葉の数々も自分には相当なヒントになったっすけどね」


 そういう部分はまだまだ甘いっすね、と。次なる学園最強に相応しい人物。それほどのドミネイターでありながら口八丁の「騙し合い」にはっきりと弱いアキラをロコルは笑う。それは蔑みや嘲りの笑みではない。ムラっ気の克服とは異なりこちらはおそらく生涯に渡って。彼が彼らしくドミネファイトをするにあたっておそらく治らない、治りっこない部分なのだろうと。そう思っておかしくなったのだ──そういうところも愛おしいのだと、そう感じたのだ。


 それは弱点であって弱点ではない。紛れもない美点であり、真っ直ぐに戦うからこそ強いアキラの武器でもある。清廉だからこその強さ。彼にはそれがある。自分にはないその美しさが、尊い。ロコルは言う。


「いやいや、そんな『しまった』なんて顔しなくていいっすよ。センパイはそのままでいいんす。そのまま、口の上手さで負けたってそれを押し通して勝負に勝つ。そういう綺麗で力強いままでいてほしいっす。それがセンパイにとっての『理想のドミネイター』像にも近しいんじゃないっすか?」


「……ああ、そうだな。確かにそうだ。元からロコルを相手にそっち方面で勝てるとも勝とうとも思っていなかったんだ。俺はこのままいかせてもらう──クイックカードの発動がないのならターンエンド! 手番をお前に移すぜ!」


 《森羅の聖域》エリア


 《森羅の拳聖クシャ・コウカ》


 場にはエリアカードが一枚とユニットが一体。その唯一のユニットがドミネユニットである点はロコルからすれば大問題だが、盤面としてはひどく小ざっぱりとしたものだ。手札も残すところ一枚のみ。リソース面で言えばアキラはとても潤沢とは言えない。どころか「追い詰められている」と表現した方が正しいレベルだ。難攻不落のロコルの戦線を崩し切ったことによる必要経費と言えばそれまでだが、彼が多くの物を支払ってようやく辿り着いたのがクシャ・コウカなのだとすれば。あとはこのドミネユニットさえ攻略してしまえば自分の勝ちは揺るぎないとロコルは冷静に思考を紡ぐ。


「自分のターン、スタンド&チャージ。そしてドローっす!」


 そしてその実行はそう難しいことではない、とも思う。何せこのスタートフェイズによってロコルのコストコアの総数は十個、大台の二桁に突入し、手札もまた六枚と豊富にある。盤面こそ空っぽになっているが──空っぽにさせられてしまったが、それを差し引いても優位は自分にあると。たとえ相手の場にドミネユニットが居座っていようとも勝利により近いのは自分なのだと、そう言えるだけの資源が彼女にはある。


(それに何もクシャ・コウカの対策を急ぐ必要はないっす。ドミネユニットはドミネユニットだからこそ最大の弱点。というより欠点・・があるっすからね──それこそが「滞在時間」!)


 あまりにも強い力を持った異次元の存在ユニット。であるが故に、他のユニットのようにいつまでもフィールドにいられない。二ターン。召喚したターンと、その次のターン。たったそれだけの時間しか世界はドミネユニットの滞在を許してはくれない──それ以上となると世界の方が歪んでしまうからには強制送還するしかない。つまりクシャ・コウカが場に居座れるのはこのロコルのターンまで。彼女のエンド宣言と同時に拳聖は二度その自慢の拳を振るうこともなく別世界へと帰らされてしまうのだ。


 なんならこのターンは守りを固めるだけでもいい。下手にアキラへのアクションを起こして虎の子を起こすよりも。クシャ・コウカの未だ見ぬ能力を引き起こしてしまうリスクを冒すよりも、ただ盤面の構築に専念し、ターンを終える。そしてクシャ・コウカを欠いたアキラの最後の攻めを凌ぎ、返しで刺す。そういった戦略を取ることもできるし、それが最も手堅い勝ち方なのも間違いないだろう。しかし……と手札とフィールドを眺めつつ考えをもう一巡巡らせようとしたところで。


「ひとつ言っておくぜロコル。このターンの終わりにクシャ・コウカがフィールドから消えると想定しているならそれは間違いだ」


「! それはまだどういうことっすか」


「ドミネユニットは強大過ぎて俺たちのいるこの世界を歪めてしまう……それが召喚から二ターン経つと強制的に退場させられる理由だ。だったら、その歪みさえどうにかできればいつまでだってドミネユニットはフィールドにいられる。そのはずだよな」


「……理屈としてはそうなるっすね」


「《森羅の聖域》。このエリアは自然の魔力に満ち溢れた特別な場所だ。クシャ・コウカはここにいる限りその力で世界へ負担を与えることはない──要するに、聖域がある限りドミネユニットの時間制限は取り払われる! 仮にクシャ・コウカが強制送還されるとすれば《森羅の聖域》が消えて後の二ターン後ってことだ」


「……!」


 ロコルの計算。先ほどから行っているそれの大前提を打ち崩すアキラの宣言に、今度は彼女が目を大きく見開く番だった。



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