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457.拳聖の拳

「バトル時の効果……っすか?」


 その言い方はバトル時以外にも発揮される効果が存在していると示唆しているようでもあった。ただし、あくまで攻撃を行う際にこそ『森羅』のドミネユニット《森羅の拳聖クシャ・コウカ》の本領が曝け出されることには変わりなく。


「ダイレクトアタック時とユニットへのアタック時で発動する効果が変わるんだ。ダイレクトアタックについては置いておいて、ユニットへのアタック時。つまり今し方ククルカンへアタックを行なったことによってクシャ・コウカはそちらの効果を発動させて、バトルに勝った上に倒したユニットの主人プレイヤーであるお前までも脅かしているってわけだ」


「っ……その、バトル時の効果ってのはなんすか?」


 何が起これば二倍ものパワー差があるユニットに打ち勝ち、その上でライフコアを二個も奪えるのか。その謎を解き明かさんと訊ねたと同時にとうとう罅の入ったふたつのコアが弾けて、そこに残滓が飛び交った。キラキラと輝きながらしばし滞留する粒子越しに目線を合わせてアキラは彼女からの問いに答える。


「シンプルな能力だよ。クシャ・コウカはユニットとバトルする時、そのユニットが持つパワーの分だけ自身のパワーを上げる。そしてその強化は永続・・する」


「なっ!?」


 《森羅の拳聖クシャ・コウカ》

 パワー5000→15000


 言われ、ぎょっとし、改めて獣人少女を見やれば。ああ、確かに増えている。ただ佇んでいるだけの出で立ちは先ほどのままに、しかしそこに宿っている力の気配が更に濃厚さを増しているではないか。一層に凝縮が果たされている……それは間違いなくククルカンが持っていたパワーを引き継いでいるが故の。強制的に奪い取ったが故の変化であった。


「道理でああもあっさりとククルカンがやられたはずっす。元々のクシャ・コウカのパワーに自身のパワーまで加わっているんじゃ勝ち目なんてあるわけもないっすもんね。そして冗談じゃないのはこんなインチキパワーアップが永続効果……つまりクシャ・コウカが場に居続ける限り解除されず、ずっと強化されっ放しってところっす」


 こういった戦闘で著しく有利になる類いの強化。あるいは大幅な上昇値を見込めるような強化は、限定的な作用に留まる場合がほとんどである。当然だ、そうでなければ延々と強化され続けて「倒せないユニット」というのが簡単に誕生してしまうのだから一部の例外レアを除いて劇的かつ永続的なパワーアップなどそうは存在しないのだ──けれども、ドミネユニットたる《森羅の拳聖クシャ・コウカ》は無論にその例外であるということだろう。戦闘相手のパワーをそっくりそのまま貰い受け、しかもそれがターン終了時に解除されるような「よくある」制約など知ったことではないとばかりに当たり前のように持続する。例外中の例外もいいところのド派手に過ぎる自己強化ぶり。


 それでこそ。


「それでこそドミネユニット、ってもんすよね! そして『それだけ』じゃあない。ククルカンを倒せた謎は解けても、その反則強化だけだと自分がライフコアまで奪われている説明にはならないっすからね」


 そこもきっちり種明かしをしてもらうっすよ、と要求するロコルの様相は底抜けに明るく、朗らかであった。とても難攻不落の盤面から一転してピンチを迎えた、たった一個残されたライフコアを抱える窮地のドミネイターとは思えぬその『楽しそう』な雰囲気。追い詰められた事実すら味わい深く堪能していることがよくわかる表情に、アキラもますます嬉しくなって「ああ!」と調子よく頷いた。


「クシャ・コウカの放つ拳はただ打ち据えた敵を仕留めるだけには留まらない。問答無用で敵の強度もガードも貫くその一打は、敵に肉体すら越えて更に奥まで威力を届けるんだ」


「更に奥、ってのはつまり──」


「そう、つまり! ククルカンに隠れた主人プレイヤーであるお前自身にまでクシャ・コウカの一撃は到達する! それがバトルでの勝利と同時にライフコアまで砕けた理由だ!」


「標的としたユニットだけでなく、同時にプレイヤーにまで危害を及ばせるユニット……いや、ドミネユニット!」


 敵対者を必ず踏み越えていく強化効果だけでも反則めいているというのに、それでバトルに勝てば相手プレイヤーのライフを減らせるという保証まで付いてくる。なんという道理の通じなさ。クシャ・コウカというユニットには己が理屈だけに生きる強者の理不尽さがよく表れていた。言葉通りの破天荒な能力に驚愕し通しのロコルへ、アキラは補足を行なう。


「ちなみに言っておくと、バトル開始時におけるお互いのパワーによってクシャ・コウカが削るライフコアの数が決定する。自己強化を果たす前の数値を基準に、自分より低パワーのユニットであれば砕くライフコアはひとつ。自分より高パワーであれば砕くライフコアがふたつに増える」


「なーる、だから自分のライフは二個も持っていかれたんすね。ククルカンの高パワーがこんな形で仇になるとは思いもよらなかったっす」


 とはいえクシャ・コウカの元々のパワーは5000と、先にも言った通り決して高いわけではない。切り札級のユニットが多く登場するファイトの終盤に呼び出されるにはいっそ低パワーであると言っていい。だからいいのだろう。彼女が高確率で相手取ることになる大型ユニットのほとんどは彼女よりもパワーが上。であるならばそれに挑む最初の一戦において、そのでふたつのライフコアを奪えることはほぼ確定的になるのだから。


 どうせ相手のパワーをそのまま取り込む強化の性質上、元のパワーが1でもあればバトルでの勝利もまた確定的なのだから素のステータスは低ければ低いほうがいいとすら言える。そういう意味では5000のパワーはむしろ高過ぎるくらいだと評してもいいかもしれないが──なんにせよ、である。


 ついでに行うにしては強力が過ぎる、強烈が過ぎる効果だとロコルは思う。戦えば戦うほどにパワーが上がっていく都合からして奪えるライフコアが増えるのはいいとこ初戦のみ。二戦目三戦目に関しては一個しか奪えないのが関の山だろうが、だとしたって十二分に恐ろしい力である。確殺と確奪を同時に、当たり前のようにやってくる。それが。


「それが聖域の大主、拳聖と謳われた伝説の獣人が誇る必殺の拳。その名も『羅貫撃』!」


「羅貫撃……名は体を表すって感じの技名っすね」


「クシャ・コウカの強さは充分に伝わったよな? だけど安心してくれロコル。いくら理屈の通じないドミネユニットらしいドミネユニットだからって、お前から全部を全部奪うわけじゃない。効果によって砕かれたライフコアはちゃんと最後の力を機能させて、お前にクイックチェックっていう最大のチャンスを残してくれるぜ」


「……! そいつは僥倖っすね!」


 そう返しながらも、『効果によって砕かれたライフコアは』。アキラが口にしたその文言をロコルは聞き流していなかった。軽くスルーしたりは、しなかった。この一文から推察するに、そして今し方の説明と照らし合わせるに、クシャ・コウカにはまず間違いなく「クイックチェック封じ」の効果もある! おそらくユニットではなくプレイヤーへアタックした際に発動されると思われるそれは、もしもここから──ククルカンの能力によってそうしたように──ロコルがどれだけライフを回復させたとしても、それによって増えるはずの逆転の機会を根こそぎに。根だやしに奪い取るという宣告でもあった。



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