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456.能動の攻め、クシャ対ククルカン!

「《森羅の拳聖クシャ・コウカ》。持っているキーワード効果は【疾駆】のみで、パワーは5000っすか」


「大したことない、と思うか?」


「まさかっす。エターナルを知っている自分がそんな侮り方をするわけないじゃないっすか」


 そう、クシャ・コウカは目に見えるステータスだけで言えばどこにも強大さなどない──7コスト以上、という大型相当の『森王』ユニット二体を。パワー6000と5000のユニットを生贄として呼び出したのがパワー5000のドミネユニットとなれば差し引きとしてはまったく割に合わず、フィールド上の戦力をただ減らしただけにも思える。いや、そうとしか思えない。いくら元の二体には持ち得に【疾駆】、この状況においては【好戦】の上位互換であるキーワード効果を有していたとしても全体的なパワーダウンを埋められるほどではない。それが正常な判断というものだろう。


 ただしそれは額面取りにだけクシャ・コウカを見た場合だ。ロコルは知っている。あれだけ多種多様な能力に彩られる《天凛の深層エターナル》だって、完全体にならなければ。呼び出した当初のステータスはただのパワー5000の、なんの脅威にもなり得ないありふれたユニットでしかないということを。アキラのアルセリアだってそうだ。捧げたユニットの総コストを参照して行われる自己強化がなければ彼女もまたどこにでもいる通常のユニットと大差ない。


 ──要するにドミネユニットとは額面通りに見てはいけないものの筆頭。現在見えているステータスに騙されてはいけない。それだけで判断してしまっては……それを後悔する間もなく「持っていかれる」。そうわかっているからこそ、何気なく会話しているようでいてその実ロコルの警戒心は最大にまで引き上げられているのだ。


「どうせ今の数値なんて飾りなんすよね? いいっすよ、遠慮なくそのドミネユニットの実力ってやつを披露してくれても」


「ならお言葉に甘えてそうしよう……と言っても、アルセリアやエターナルと違ってこいつは登場時効果や起動型効果による自己強化を行うってわけじゃない。クシャ・コウカの実力は! 戦いの最中でこそその真価が発揮される!」


「……!?」


「というわけでバトルだ! 《森羅の拳聖クシャ・コウカ》で《世食みの大蛇ククルカン》へアタック!」


「ッ、あくまで狙いはそっちっすか!」


 同じ速攻能力と言ってもユニットにしかアタックできない【好戦】とは違い【疾駆】ならばプレイヤーへの即座のダイレクトアタックも可能である。ククルカンがレストしておりアタックに無防備を晒している以上は【好戦】なしでもバトルを仕掛けられるチャンスでもある、とはいえロコルのライフコアは残り三つ。ここでその三つを削り切れる算段があるのならアキラとて迷わずライフを詰めていただろう。そうしないでククルカンに狙いを定めたということは即ち、クシャ・コウカには一ターンでトリプルブレイクを叶えるような能力はない。その代わりにパワー差が歴然であるククルカンを仕留められる能力はある。そのことが確定した。


どっち・・・なのか? ……なんて、そんなのは考えるまでもないことっすね)


 アキラの命令はライフを詰め切れないことからの受動的なバトルなのか、それともライフアウトなど初めから度外視の能動的なバトルなのか。


 たとえこのターンでファイトを終わらせられないとしても、ロコルのライフコアを削っておくことには大いに意味がある。持ち越した決着をより早く自身の物とするには少しでも多くのダメージを相手に与えておくべきなのは自明の理。もちろんそれがククルカンを放置するという行為と同義である以上は返しのターン、つまりはロコルの手番においての彼女の攻撃を。当然にククルカンを起点として行われるであろう、そしてそのターンこそを決着の時にせんと一段と激しく仕掛けられるであろう攻勢を凌げる算段がセットで必要となる。


 もしもクシャ・コウカに防御に適した、例えばロコルが頼った《守衛機兵》や《スフォニウスの泥人形クレイドール》のような、ライフないしは他のユニットやオブジェクトを完璧に守れる(ここで言う完璧とは相手の取る手段を問わず何をされようとも『守るべきものを守り抜ける公算の高い能力』という意味だ)能力があるのならそういった選択も充分に視野に入るだろう、が。


(だけどセンパイはそうしなかった。それはクシャ・コウカに防御能力はないと吐露しているか、もしくはそんな選択は取らないと宣言しているようなもの!)


 おそらくクシャ・コウカとはあくまで攻め込むに適したユニット。悠然と敵の出方を待つような受けの姿勢の似合わぬドミネユニットであると、彼女から受ける凝縮された力の化身とでも言うべき印象と一致するそれが答えだと想定しつつ。けれどロコルは防御能力の有無などさして重要ではないとも感じた。それに左右されたわけではないのだ。アキラのアタック命令はあくまでも彼自身の攻め気を元にしたものであり、クシャ・コウカの放つ攻め気と限りなく『一体化』を果たしているが故の決行である。


 彼のオーラが、今まさに敵陣へ飛び込まんと一歩を踏み出そうとしているクシャ・コウカの戦意と複雑に絡み合い混ざり合う濃密な気配が、克明にそのことを教えてくれているからには。この攻撃が受動的か能動的かなど初めから迷う余地は皆無であった。


(能動も能動! これ以上に自発的で爆発的な一撃なんて他にはないっていうくらいに! とにかく闘志と殺意に塗れた攻撃が──来るッ!!)


 身構えるロコル。主人とそっくりな様子でククルカンもまた身構える。それはロコルとの間にある絆によるものか、あるいは実際の攻撃に先んじて到来した殺意が自然とそうさせたのか。とにかく猿の獣人少女の踏み込まんとする挙動にぐっと迎撃の構えを見せた大蛇は。


「っ!?」


 次の瞬間、いつの間にか懐の内にいたクシャ・コウカの一発。単なる拳打の一撃をもって頭部を吹っ飛ばされていた。攻撃に反応する暇も、断末魔を上げる暇すらもなかった。気付けばバトルは終わっており、ロコルの理解が現実に追いついたのは司令部を失った大蛇の肉体がどうと地に倒れ伏したところからであった。おそらくはやられたククルカン自身もそうだろう──何が起こったのかまるで理解できぬままに死んでしまったに違いない。それくらいに、クシャ・コウカは速かった。その拳は異様なまでに重かった。


 そして彼女のアタックによって引き起こされる「悲劇」はこれだけに留まらず。


「えっ……こ、これは?」


 ククルカンの死を、せっかく手間をかけて呼び出した切り札級ユニットの喪失を悼む。そんな感傷の時間もクシャ・コウカはくれなかった。それどころではなくなってしまったのだ。何せアタックを受けたのはあくまでもユニットであるククルカンであったはずなのに。アキラはプレイヤーへのダイレクトアタックを選択から放棄したというのに、何故かロコルのライフコアが。残された三つの内のふたつが、攻撃も受けぬまま独りでに罅割れていく様を目の当たりとしたからには死した大蛇へ思いを馳せることもできない。


 いったいどういうことなのか。今にも砕け散らんとしている己がコアを見つめて困惑の表情に彩られるロコルに、アキラは言った。


「これが《森羅の拳聖クシャ・コウカ》が持つ、の効果だ」



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