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455.来たれ森羅の拳聖!

 小さい。それがロコルの最初に抱いた感想だった。


 いや、そのユニットが特別に小さな体躯をしている、というわけではないのだ。獣人。おそらくは猿を元にしていると思わしき尻尾や毛並みを持つその少女・・は、人型ユニットとしてごく標準的。上背があるとは言えないが決して小柄なわけでもない、何も珍しさのないスタンダードなシルエットであった。このファイトにおいてアキラが使ったユニットと比較するなら、少年ユニットである《森王の下支え》よりも僅かに背丈があり、女性ユニットであった《森王の導き手》よりは明確に背が低い。それくらいの、まさしく少女らしい体躯のユニットであった。


 それを一目見て抱いた印象が何故「小さい」だったのかと言うと、下支えや導き手とは抱える前提が違うからだ。これが彼らと同じく通常のユニットであったならロコルとて咄嗟に体格への感想など持たなかっただろうが、しかしてアキラのフィールドに立つ獣人少女は、そのユニットは、ただのユニットなどではなく『ドミネユニット』。奇跡の体現者である『覚醒者』としての力を持ち得る者にしか呼び出せない文字通りの奇跡的な存在。で、あるからには。当然に他のユニットを語る上での物差しなどで測るわけにはいかず、それは外見上の特徴においても同様であった。


 デカいのだ、ドミネユニットとは。


 能力の強大さも特徴としてさることながら、まず単純に見かけが巨大デカい。それこそ通常のユニットにおける──一般的な見解で言うところの──「巨大なサイズ」というのがドミネユニットの普通サイズ。それくらいの大きさがあって当たり前なのが、別次元より招来される彼らという存在であった。他のユニットたちが住まい、日夜闘争を繰り返している(とされている)ドミネイションズワールドとは異なる位相の世界に住まうが故か、とにかく通常ユニットとは規格の面で物理的な差をつけているのがドミネユニットであるために、アキラのアルセリアやルナマリアは巨体の獣人少女でいながらまだ小さい方で。エミルの巨大な建造物かというようなエターナルでようやく「標準的」だと見做せるくらいだ。


 これはプロの世界で活躍している『覚醒』の力を操れるドミネイターたちの──と言っても十全にそれを操り切れている者は「ドミネの本場」アメリカ国内においても両手の指で数えられる程度しかいないが──それぞれのドミネユニットを比べての総評であり、決してエターナルだけを基準にしたものではない。


 これまでは日本のドミネ界とも距離を置いてきたロコルだが、九蓮華家に兄と共に「帰宅」を果たし、既に次期当主候補にまでなっているのだから海外のドミネシーンとも無縁ではいられない。なので兄のエミルくらいしか『覚醒者』及び『準覚醒者』についてよく知らなかったのも今は昔、現在の彼女はDA教師陣と比べても遜色のない程度には他国で活躍するプロ並びに世界大会の常連たるトップランカー、その中のドミネユニット使いたちをよくよく調べてもいる。だから知っているのだ、あれだけ巨大にして強大なエターナルでさえも錚々たるドミネユニットの面子に並べば特に際立ってはいないということを……ひいてはドミネユニットの平均・・というものがどれだけイカれているかを重々に知り得ている。


 故の、あまりに矮小であると。第一印象が決して(二重の意味で)褒められたものではない感想になってしまったのはそういう知識あってのこと。ロコルの勤勉さが漏らさせた困惑であったのだが──しかし「そうではない」とすぐに彼女の認識は塗り替わった。


 確かに小さい。ドミネユニットとして小柄であるアルセリアなどと比較してもなお小さく、通常のユニットと変わらぬサイズ感である。それは確かだが、けれどその小さな肉体に詰まっている力が尋常ではない。そこにただ立っているだけの彼女が、猿らしい尻尾をゆらりゆらりと揺らして弄ぶ何気ない姿が、あまりに。あまりにことが、目を凝らさずとも。感の目で見るともなく、ドミネイターの勘で感じるともなく自ずと伝わってくる──小さいが、ただ小さいのではないと。大きくある必要がないのだと。


 この獣人はやはり超越者。見かけこそ矮小であってもアルセリアやエターナルにもなんら劣らぬ、やはり強大で偉大な存在であると、ロコルは否応なしにそれを理解させられたのだ。ただフィールドに佇んでいるだけの、それだけしかしていないユニットに。


「これが……センパイのまったく新しい力」


「ああ。聖域の頂点、絶対的な君臨者。それがこいつ、《森羅の拳聖クシャ・コウカ》だ」


 《森羅の拳聖クシャ・コウカ》

 Dコスト パワー5000 【疾駆】


 自ら名乗り上げたかの如くにふん、と胸を張る獣人少女。愛らしい仕草に愛らしい表情。そこだけを見れば愛嬌のあるユニットだと可愛らしくすら思えるが、それでもその身から放たれる圧倒的な存在感、圧倒的なプレッシャーはちっとも薄まらないし和らがない。愛嬌以上に闘志こそを全面に、今にも飛びかかってきそうな戦意こそを充満させて彼女はそこにいる。いつ暴力それが爆発してもおかしくない。如実にそのことを感じさせる未知なる脅威のドミネユニットを前に、されどロコルは冷静さを失ってはいなかった。


「森羅の拳聖、っすか。『森王』じゃなくてエリアカードと同じく『森羅』の名を冠しているんすね」


「クシャ・コウカは聖域の住人というよりも聖域の創設者にしてその一部だからな。ああいや、聖域こそがクシャ・コウカの一部だって言った方がいいか? とにかく森王の名は相応しくないってことさ。だってそれはクシャ・コウカが森の仲間の献身を称えて与える称号・・なんだからな」


「んー、なるほどなるほど。そういうフレイバーなんすね。《森羅の聖域》ってエリアカードの名もつまりはそのドミネユニット。クシャ・コウナの縄張りだと示しているようなものだと」


 往々にしてあることだ。特定のカテゴリとの結びつきを強めた『覚醒者』が、ドミネイト召喚によってまだ世間には明かされていないドミネイションズワールド内の設定に準じたドミネユニットを生み出すことは、そう珍しい例ではない。まったくなんのカテゴリにも属さない《天凛の深層エターナル》を呼ぶような例もあれば、アキラのように『ビースト』における頂点の位置付けと思われる『エデンビースト』なる既存カテゴリの進化種を呼ぶ例もあり、その割合は概ね半々。やや既存カテゴリ派が多いかといったところだ。なので設定上だけに存在している、裏を返せば実在するカードではない「架空のユニット」をドミネユニットとして降誕させること、それ自体はドミネイト召喚が扱われる上での普遍的な出来事だと称せられるが。


 しかしここで問題なのは、言ったように既存カテゴリ派が設定上だけの存在を呼び寄せられるのは強固な結びつきあってのことである点。特段の思い入れがあり、そしてカテゴリの方からも想われていることが条件として考えられる……他でもないアキラと『ビースト』の関係性がそれを体現しているためそこに議論の余地はない。だというのに、アキラは当然のように『ビースト』以外とも。それも今日このファイトが初めての実戦だと言っていい、一口に言えば「浅い関係」でしかないはずのカテゴリでそれを叶えた。これはまったくもって世界的にも珍しい、奇跡以上の奇跡と言っていい出来事だ。


 無論この事態が本物の奇跡と断じられるのはクシャ・コウカが力を発揮し、なおかつそれがドミネユニットを名乗るに相応しい力であったと証明された場合の話だが──現時点でそうなることを疑っていないのは呼び出したアキラと、呼び出された側であるロコルだけであった。



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