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451.伝えたいこと

「そんなことが本当にできるのか。その問いに対する答えも至ってシンプルだぜ──できる。できないわけが、ない。既に確信はこの手の中に、この胸の奥深くに宿っているんだからな」


 ロコルの言う通り、これがもしも「初めてのドミネイト召喚」に挑む場面であったなら。失敗の可能性は十二分にあっただろう。最愛のカテゴリである『ビースト』を差し置いて、それ以外のユニットを贄に、それ以外のドミネユニットを呼ぼうとしたならば。アキラの心もオーラも定まらずカードとの絆も十全に発揮されず、奇跡は起こせなかったかもしれない。最悪の場合ただ贄だけを払って肝心のドミネユニットは呼べず終いという、自らフィールドをがら空きにするだけになっていたかもしれない──だがそうはならない。と、アキラは断言する。


 何せ初めてではないのだ。『ビースト』との絆は、とうに証明された後。アルセリアを呼び出し、ルナマリアも呼び出し、それによって成っている。それによって定まっている。アキラが『覚醒者』への道をしかと、己の意思でしっかりと歩み出したのは過たずドミネイト召喚こそが切っ掛けであり、第一歩目であるからして、もはや拘る必要はないのだ。拘泥するまでもなく彼と彼の愛する『ビースト』は切っても切れぬ関係にあり、最上最愛の関係でもある。こればかりはロコルですらも、他のライバルたちですらも割って入れぬ絶対の繋がりだ。


 その絆が、ドミネイターとしての何よりの「強さ」が彼の胸に秘められている以上。たとえ今現在のデッキに『ビースト』が入っていなかろうとも、『ビースト』以外を呼ぶためのドミネイト召喚を行なおうとも。アキラがブレることはない、彼とカードの絆が断ち切れることはない。


 些かの弛みすらもなく、絡まりもなく、その繋がりは確固たる一線としてそこにある。だから。


「俺は呼ぶぜ、ロコル。この確信を形に変える。逆転のための最後の一手としてこのフィールドに召喚する!!」


「ッ……、確信を形に変える、っすか。なんとも『覚醒者』らしい物言いじゃないっすか──天凛の持ち主らしい言い草じゃないっすか。そこまで自信に満ちた様子なら呼べるに違いないっすね。呼べてしまうに違いないっすね! だけど、それでも自分は! 『だとしても』と返させてもらうっすよ!」


 第三にして、初の『ビースト』に属さぬまったく新しいドミネユニットの招来。それが可能、だとしてもだ。ロコルが先に指摘した懸念は解消されず、むしろより重大さを増してアキラの逆転、その成否に対する疑惑となる。


 アルセリア並びにルナマリアが強靭強力なユニット足り得ていたのは他ならぬ『ビースト』カテゴリだからだ。仮にそれ以外のドミネユニットを呼び出したとしても、呼び出せたとしてもそれがこの二巨頭に並ぶユニットになる保証はどこにもないではないか。


 人知の及ばぬ召喚法であるドミネイト召喚、そこから誕生するドミネユニットが強力でないはずはない……しかし、未知から生じる力であるが故そこには定形がない。アキラは形にすると言ったが、まだ彼にだって成すべき形は見えていないはずだ。どうなるかはわからない。誰にも、戦っている二人にも。奇跡の名を冠するに相応しい存在が君臨するかどうかは、運否天賦に懸かっている。そう言ってしまってもいいくらいに。


「不明瞭っすよ、何もかもが! アルセリアやルナマリアはセンパイの在り方が、センパイの闘志がそのまんま形になったようなユニット、だから強いっす。エターナルだってそうっす。エミルの持つ才能が、自分自身に課していた重責が全部まとまってとんでもない化け物を作った! 玄野センパイだってそうだったっすよね、一回戦でセンパイを苦しめたあのドミネユニットだって玄野センパイの激しい飢えがユニットと化したような狂暴さがあった──そういうものなんすよ、ドミネイト召喚っていうのは!」


 そのドミネイターが持つ全て、あるいは根幹となる何かが、召喚法と一体となって。ユニットの一体となってそこに現出する。それがドミネイト召喚でありドミネユニットである。覚醒の力が起こす奇跡の中でもその代表としてドミネユニットの存在が認知されているのは、誰の目にもわかりやすい強さや派手さばかりが理由ではなくて。そういった『呼び出した当人』の何もかもがそこに詰まっているからでもあって──だからこそ美しいのであって。ドミネイターとユニットが一心同体の境地に佇む姿の神々しさを、誰しもが認めるからこその奇跡なのである。つまり。


「そりゃあ弱くはないはずっす、呼び出せたというそれだけで絆の証明なんすから……仮にセンパイがその二体を贄として『森王』だか『森羅』だかのドミネユニットを呼び出せたとすれば、そのユニットは弱くない。きっと強力と言って差し支えない力を見せてくれるとは思うっす。だけどそれでも『ビースト』には及ばない。センパイの全てが形になったアルセリアとルナマリアのコンビには、あの最上の美しさに届くには足りない、足りっこない! ただ『目の前のピンチを脱するために新しいドミネユニットが必要だ』なんて、そんな心持ちだけで! あの日の自分自身を、エミルを相手に輝きに輝いていた若葉アキラを越えられると思うっすか、センパイ!?」


 窮地において新ドミネユニットを想像する──創造する。最愛のカテゴリに頼らずともそういう真似ができたのなら。この半年間、あのファイトでのルナマリア以降一度もやってこなかった奇跡をここに来て、この決勝の舞台で起こせたのなら。なるほどそれは大したもので、大層なもので、大仰なほどの覚醒の力の振る舞い方ではあるが。だとしても奇跡にだって格差・・はある。何もかもが最高の奇跡とはならない、アキラにとっての『ビースト』との絆に並ぶほどの特別にはなれない。


 この場この局面で何を呼び出そうとも、新しく紡いだ絆に頼ろうとも、どれだけ覚醒の力を上手く注ぎ込んだとしても。アルセリアやルナマリアに匹敵する強大なドミネユニットは誕生し得ないと、ロコルの主張は高らかに。あるいは懸命な様子で続く。


「そればっかりはセンパイにだって変えられない現実っすよ。いくら真なる覚醒者への道を順調に進んでいるあなただからって。いや! そんなあなただからこそ、誰よりも絆の力を大切にしている、その価値を信じている若葉アキラというドミネイターだからこそ! 一等に特別な絆を上回る何かをここに生み出せるなんて、都合の良すぎることは実現不可能だってことは──!」


「いいやロコル!」


 言葉の途中で、切る。いやさ斬るような鋭さで以ってアキラはロコルの糾弾を遮った。彼女が何を言いたいのかはよくわかった、そう言いたくなる気持ちだって彼女の視点に立ってみればよくわかる……だが、だ。「だとしても」。それに対するアキラの返事も、反論もまた彼女が口にするその言葉のままで。


「越えるだとか上回るだとか、そういう考え方がそもそもの間違い。勘違いなんだよ。お前の、というよりも、カードとの絆をあくまでドミネファイトのためだけの武器と捉えがちな多くのドミネイターの勘違いだ」


 ただしその勘違いの原因にして、より助長させているのは「絆を武器にできる」アキラのような覚醒の域にいる者なので、それを当人から責められる謂れなど彼ら彼女らにはないのだが──だとしても認知の齟齬は正されて然るべきである。絆とはなんなのか。それを今一度お互いに知るために、アキラは真摯に語る。


 彼が伝えるべき全て。彼が伝えられる全てを、師匠にして後輩にしてライバルである少女へ、余すことなく伝えるために。



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