45.合同トーナメント開催!
ムラクモの大会告知より半月あまり。当初アキラが思っていた以上に「近く」その日はやってきた。
一・二年生合同トーナメント。一年生にとってはDA入学後の最初の難関と言っていい、苦難にして好機のイベント開催の日である。
「なんと言っても初日のペーパーや実技と違って、この大会はばっちり成績に反映されるわけだからね。トーナメントで一回戦敗退したからって『はい退学』とはならないかもだけど、そんな戦績じゃ確実にそこへ近づいちゃうでしょ。それがわかっているからみんな真剣になるんだよ」
会場に指定されたのは初日に使った第一ファイトルームよりも更に広く、一度に何十試合も行えるようになっている第四特別ファイトルーム。今回のようなイベント等でしか解放されず普段の授業や生徒の申請ではまず使用許可が下りない名前通りの特別な場所にて、アキラたちは他の一年生、それから先輩である二年生と共に並んで大会の開始を待っているところだ。おそらくムラクモが取るであろうその音頭が聞こえてくるまでは、雑談に興じられる最後のリラックスタイムである。
この場にいる生徒の誰もがピリピリした様子でいることの原因を述べたミオ──本人は一切緊張などしていないようだが──に、コウヤも「なるほどな」と訳知り顔で頷いた。
「しっかし、だとすりゃアタシらペーペーに比べて二年生にとっちゃこの大会はボーナスステージみてーなもんかね? 右も左もわからねえ新入生を狩ればそれだけで好成績が付くんだからよ」
アタシは先輩方の得点の足しになるつもりはねーが、と好戦的に付け足した彼女にミオは。
「経験差、それに伴う実力差を思えばそりゃー二年生ガン有利だけどさ。でもこの大会は彼らにとってもそう気安いものじゃあないと思うなー」
「あ? なんでだよ」
「だって考えてもごらんよ、彼らの立場は『勝って当たり前、負けたら赤っ恥』なんだよ? 格下相手に戦うっていうのはそういうことだ。その点で言えば格上に挑む一年生の方がずっと気楽でしょ。勝てば美味しい、負けてもそこまで痛くない。敗退したってその理由が二年生とのファイトなら、そこも考慮された上で成績になるだろうし」
逆に二年生は、一年生に負けた場合には恐ろしいまでの減点評価がなされても不思議ではない。一年生一同とは少し離れた位置で整列している彼らの表情がまったくと言っていいほど浮かれていないからには、この推察は決して的外れなものではないはずだとミオは言う。『新入生にだけは負けられない』。本気でそう決意してファイトに望むのであれば、彼らの存在はますます一年生にとっての高い壁となる。そうでないと学年を跨いだ合同大会を開く意味がないのだから、学校側がどちらも必死にさせるのは当然でもあった。
「ほーん、あっちにゃあっちでそういう事情があるわけね。そら確かに、アタシも逆の立場なら減点とかなくたってぜってー後輩にゃ負けたくねーって思うわな。……へへ、いいじゃんか。学年関係なしの食らい合い。アタシ好みの展開だぜ」
尋常でなく張り詰めた気配。会場に漂うそれすら心地いいものであると好戦的どころか攻撃的な笑みを浮かべながら周囲を見回したコウヤは、それからふと自分の横へと目を向けた。
「で、アキラ。お前はさっきからごそごそと何してんだ?」
会話にも入ってこないでその場に蹲っている親友の姿に、若干の困惑混じりに彼女がそう訊ねてみれば。それに反応して顔を上げた少年の顔もまた、種類は違えど先のコウヤに負けず劣らずのいい笑顔であった。
「ちょっと思いついたことがあってさ。デッキ構築を見直してた」
「今かよ!?」
「今だよ。だってこれから大会なんだから」
すぐにも大会が始まる、というタイミングだからこそ普通はここでデッキを弄ったりはしないだろう。やるにしたってそれは一戦目を終えてからの調整とかじゃないのか……そう思うコウヤではあるが、口にも出しかけたその指摘を咄嗟に自重する。デッキ構築の言葉通りアキラの手元や足元にはカードが広がっており、ビルディング(※デッキを作ること)が順調であるのは彼女からしても見て取れる。悪い意味で煮詰まっているならともかく、目指す構築が定まっているのなら変に横槍を入れて邪魔したりせず、アキラの好きにやらせるのが一番だ。
なので他からの視線も気にせずぶつぶつと独り言を漏らしながらカードを触っているちょっとした奇行には言及しないことにして──その『入り具合』はアキラをよく知る彼女からすれば好ましいくらいである──しかしそれはそれとして、一応念のためにと訊いておく。
「それでどうなんだ? 自信の程ってもんはよ」
アキラの表情は明るいが、試合を目前にしてもデッキの内容を変えるその行為を不安の表れと取ることもできる。彼の一番の友人を自称する者としてそこのところを確認せんと質問したコウヤに対し、その時ちょうど満足いく構築ができたらしいアキラは手早くカードを仕舞い、すっくと立ち上がってから答えた。
「勿論あるよ。この半月は今日に向けて調整してきたんだから。ムラクモ先生にも言ったように一年生だろうと二年生だろうと全部倒して──俺が優勝する」
「「……!」」
冷静な、けれど確かな熱意が込められたアキラの宣言。それを受けてコウヤとミオの瞳にもドミネイターとしての闘志が宿った。
「言ったな。そりゃつまりアタシも倒すってことだろ?」
「ボクのことも、ね。言っとくけど、アキラの退学がかかってようがなんだろうが──相手が誰だろうが本当に手加減なんかしないからね。ボクはボクのために全力で戦って、そして優勝するよ」
そうしなきゃならないんだ、と。最後の一言だけを妙に小さな声音で呟いたミオが、この時アキラは少しだけ気になった。『ボクのために』と言いつつも、その様子はまるでそうすることを強いられているような。何かから強制されているようにも思えたものだから──。
「よく集まったなァ、一・二年生! 開始三十分前には全員集合とは感心感心……それだけお前たちも今日という日を楽しみにしていたってことだなァ!? 俺もだ! うわっはっはっは!」
「!?」
突如として会場内に轟いた大声量。それに驚いたアキラが発生源と思われる壇上へと目を向ければ、そこにはピチピチの白Tシャツで筋肉質な肉体をこれでもかと見せつけている大柄な男性がいた。彼は厳つい顔付きに似合わぬ満面の笑みを浮かべているが、あまりにもにこやか過ぎるせいか逆に人でも食い殺しそうな物騒さがその笑顔にはあった。それに自分で気付いているのかいないのか、男は上機嫌な調子で生徒一同を見渡しながら続けた。
「一年生は俺のことを知らんだろうから名乗っておこう! この大会をメインで取り仕切ることになった権林ゴンザレスだ! 普段は二年生の授業を主に担当している! よく呼ばれる愛称はゴンちゃんまたはゴンゴンだ、初対面でも気軽にそう呼んでくれぃ! 大会に関する疑問・質問があればなんでも答えるぞ! ただしファイトのアドバイスだけは受け付けないがな!」
がっはっは! と大口を開けて笑う彼に二年生はしらーっとしているし、一年生は呆気に取られている。悪い人ではなさそうだが大会前でピリついているところにあのテンションは少しキツい……と人に対する好き嫌いがあまりないアキラでさえもそう感じるのだから、他の生徒からしてみれば尚更だろう。
「つーかムラクモせんせーじゃねえんだな、司会進行役」
「あ、でもほら。ムラクモ先生もいるにはいるよ。ジアナ先生も一緒だ」
壇上に昇るための階段脇に三人の教員が固まって何かを話している。ムラクモとジアナ以外のもう一人は、おそらく権林と同じく二年の担当教師なのだろう。良くも悪くも太平楽といった感じの権林とは正反対の、細身でスーツルックの決まった如何にも真面目そうな男性だった。
「さぁて下級生共よ! 戦の準備は万端か!? これより合同トーナメントの開催を宣言する──戦って戦って勝ち残り、勝利の栄光を掴み取れ! 九十四名の頂点に立てるのはたった一人! 故にこそ! そこからの景色は格別の価値ありと知れぃ!」




