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447.デメリットにならないデメリット

「《世食みの大蛇ククルカン》は確かに怖いユニットだよ。トリプルミキシングに恥じない能力の過多っぷりで、たった一体で戦局をこれでもかと動かす。それはファイトの勝敗だって左右するくらいに重大なことだ。とても放ってはおけない。放置したままにターンを渡せば、ククルカンはもう一度俺の場を荒らしながらロコルの場を整えていく。難攻不落の要塞が再び立ち上がる。せっかく突破したそいつにあっさりと蘇られたんじゃお手上げだからな。なんとしてもこのターン中にククルカンを打倒する必要が、俺にはある」


「……そうっすセンパイ、自分が言いたいのはまさにそういうことっす──何重にも重ねた壁たちはひとつ残らず剥がされた、それはお見事。だけど壁で守っていた本丸・・は無事っす。壁が壁の役目を全うしてくれたおかげで、ククルカンは五体満足!」


 無事なのはククルカンだけ、ではあるものの。ククルカン以外の全ては彼を守るためにあったのだから本懐は遂げられている。ロコルの思惑通りに事が運んでいる。もちろん彼女の言葉に嘘はなく、これだけ重ねた壁が一枚たりとも残らなかったというのは驚きを通り越してショックですらあったけれど。しかしククルカンさえ無事ならどうということもない。


 次のターンで彼女の手札は四枚に、コストコアの総数は十個にもなる。そして先に披露した通りククルカンには圧倒的な盤面への干渉力がある。敵陣には不利を、自陣には有利を。噛み合った三つの効果によってククルカンはリソースを最大限に有効活用しながら新たなリソースを生む。このユニットはそういったことが可能なトリプルミキシング。アキラの懸念正しく、大蛇になんの手立ても打てぬままに手番を渡してしまえばだ。ロコルが立て直す布陣を次こそアキラは突破すること能わず、そのまま敗北に一直線。という未来が先見の明などなくとも鮮明に見えてくる──故に、だ。


「俺が空鳴きを呼んだのはそのためなんだ」


「……それは、どういう」


「除去無効のクレイドールに、【加護】持ちの守護者軍団。分厚い壁を破るだけじゃ足りなくて、その奥に構える本丸もどうにかしなくちゃならない。限られた手札とコストコアでどうすればそんなことができるのか、必死に考えた末の答えなんだ。だから最後までじっくりと見てくれよロコル。俺も、俺のユニットも。まだこんなところじゃ! ──空鳴きの追加効果を発動する!」


「つ、追加効果っ!?」


 何を馬鹿なことを、とロコルはアキラの正気すら疑う気持ちで彼の口から出たワードを繰り返す。あくまで標的は守護者のみ、それ以外には無害とはいえ『全体除外』なんていうとんでもな効果を持ち得ながら、いったいそこに何を追加するというのか。ここから更に何かが発揮されるなど、ここから更に「伸びていく」などあり得ない。あり得ていいはずがない、それが常識であり良識。そして一般的なドミネイターが持つ見識だ。なのに、アキラは。彼の声に応えて自らも喉を震わせる空鳴きは、そんなものを軽々と飛び越えて。


「《森王の空鳴き》が自身の登場時効果によって『緑陣営の守護者ユニット』も除外したとき、追加のための条件は満たされる。ロコル、お前の《コトルトークン》の陣営はどこだった!?」


「──!」


 トークンユニットは通常、そのトークンを発生させた元となるカードの陣営に所属する。これはトークンを扱う上での基本的なルールで、基本であるだけに例外も多く存在する。五陣営のカードから無陣営トークンが生み出されることもあれば、その逆もあり、かつてエミルがそれを巧みに操ってみせたように任意の陣営・任意の種族へとトークンの情報を自在に変えられるカードだってある。なので基本だとは言ってもその処理が大半であるわけでもないのだが、しかし少なくとも《コトルトークン》に関しては基本に忠実であった。彼らは彼らの産みの親と情報を共有している。即ち、彼らの守るべき《世食みの大蛇ククルカン》と所属陣営は同一であるということ──そしてククルカンの持つ陣営いろは。


「赤と青に……っすね。三色混色トリプルミキシングであるククルカンと扱いとしては同じっす」


「そうだ、《コトルトークン》は緑陣営のユニットとしても扱われる。おかげで空鳴きの追加効果まで狙えたってわけだ」


「なるほど。『森王』は専用エリアである《森羅の聖域》の能力上、デッキ内がなるべく緑で染まっている方がより安定してその強味を活かせるカテゴリ。それは構築に課せられる縛りでもあれば、昨今の単色強化路線もあって緑一色デッキの後押しともなる。《森王の空鳴き》もそこから外れちゃいないんすね……どうしても味方の守護者を巻き込まなくてはいけない場面でも、けれどきっちりとリターンが用意されている辺りは」


 元々そういうデザインだ、ということだろう。緑単色でこそ活きる力を目指すならそもそも空鳴きの効果に『緑陣営以外の』という文言を付ければいいだけ。それだけで彼の能力が味方を巻き添えにしなければならない場面はなくなると言っていい。ただし、それは同時に相手側の緑の守護者にも手出しができなくなるということで、下手をすれば召喚しても何も意味がないという場面も増えてしまうことになる。現在よりも除去性能は落ち、空鳴き単体のカードパワーで言えば著しいマイナスもいいところだ。


 そこで追加効果である。味方も巻き込むリスクをそのままにすることで、本当に巻き込んでしまった際にはそれで発動する別の効果。そこから得られるリターンによって失った元を取る……あるいは失った元以上を取る。このやり口の特段に恐ろしいところは、味方を失わずともリターンを得られるパターンがあることだ。つまりは相手側に緑陣営の守護者さえいれば、損失なしのままに追加効果を発動できる。たった今アキラがそうしているように、敵にばかり負担を、二重の意味での不利を強いる使い方こそが空鳴きの真骨頂。そういうデザインだ、ということ。


(縛りが縛りになっていない。むしろ縛りが設けられていることでより強くなっているんすからズルくも感じるっすよね。……最近のカードはこういうタイプがやけに多いっす)


 無論、縛りがあるからこそ効果が強力になるのは必然のことであるが、しかしこれは考え方が逆だ。効果が強力だからこそ縛りが付けられるのだ。コスト論や環境を鑑みて強すぎる性能のカードを調整デチューンするために制約もくっつけよう、そうやってバランスを取ろう……そのためにデメリット効果があったはずなのだ。しかしドミネイションズの開発元はいつからかデメリットを悪用し始めた。いや、それを悪用・・などと称すべきかは意見の別れる部分だろうが、とにかく元来の使い方とは別の用途で縛りの存在を活用し始めている──。


(いやまあ、わかるっすよ? そうでもしなければミキシングを差し置いて単色に再びスポットライトを当てるなんてことはできないっすもんね。そこは理解の及ぶところっすけど。その功罪については認めるところっすけど……だけどこうやって被害に遭ってしまうとなんとも言い切れないっすね!)


 カードデザインに恨みつらみを持つよりも、それを上手く使いこなしているアキラを褒めそやすべき。精神衛生上そちらの方が健康的で良いとはわかっていても、口内に走る苦味をロコルはどうしても抑えきれなかった。



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― 新着の感想 ―
[一言] 相手ターンにって説明あったの433話でした 手札残ってたし除去使わないのはおかしいので相手ターン表記は削った方が良いかも サイの効果をクルルカン同様のチェーン不可仕様に直したとしてもエリア貼…
[気になる点] クルルカンの効果は432話で相手ターンでも使えるって説明あったから、サイかエリア出た時点でやればチェーン不可だし確実に処理出来たのに使わないのは何故だろ 手札も残ってるから使える筈だか…
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